「微力だけど無力ではない」憲法記念日に護憲派の集会、10年の節目に3万2000人が平和の訴え(2024年5月4日『東京新聞』)

 日本国憲法の施行から77年となった憲法記念日の3日、東京都内の各地で集会が開かれた。岸田政権が敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有自衛隊在日米軍の連携強化を進め、憲法が掲げる平和主義が揺らぐ中、護憲派グループは東京都江東区東京臨海広域防災公園有明防災公園)で大規模集会を開催。3万2000人(主催者発表)が参加し、「戦争をさせない決意を新たにしなければならない」と訴えた。(服部展和、浜崎陽介)
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集会でプラカードを掲げる参加者たち=いずれも3日、東京都江東区
 
 晴れ渡り、汗ばむ陽気となった昼前、有明の公園に続々と人が集まった。集会は、2015年に横浜市臨港パークで安保法制反対などを訴えたのを皮切りに、10回目の節目となる。
◆9条は私たちを守ってくれている
 初めて訪れた江東区に住む会社員伊藤優さん(30)は参加者の多さに驚いた。「憲法は、国家権力の失敗を繰り返さないためにある」という木村草太・東京都立大教授(憲法学)の言葉に心を動かされ、関心を持ったという。「普段は憲法9条を意識しないけれども、私たちを守ってくれていると思う。改憲しようとする今の政権は理念を守っていない」と批判した。
 会場には、高校生たちの姿もあった。核兵器廃絶と平和な世界を目指して署名を集める「高校生1万人署名活動」のブースにいたのは、東京都三鷹市の高校1年、勝間田夏希さん(15)。「戦争の悲劇を繰り返さないために、9条は改正してはいけないと思う。若いからこそのパワーで周りの人たちに伝えていきたい」と笑顔を見せた。
◆日本の対応のおかしさ、浮き彫りになった
 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界情勢を懸念する人たちも多かった。
 3回目の参加となる東京都狛江市の大学4年生荒木恵美子さん(22)は「この1年でも世界は大きく変わってしまい、日本の対応のおかしさが浮き彫りになった」と指摘。「世界に先駆けて戦争の放棄をうたった憲法を持つ国として、ダブルスタンダードの大国の方針に従うのではなく、平和の実現を働きかけるべきで、自分たちも声を上げていきたい」と話した。
 知人らとガザへの寄付を呼びかけた会社員田中千尋さん(37)は「政府が動かない中で、少しでも苦しんでいる人たちの力になりたい」と力を込めた。
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◆3万2000人の人波に胸熱…アクションは人のつながりあってこそ
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インタビュアーを務めた大内由紀子さん
 
 東京都江東区東京臨海広域防災公園で3日にあった護憲派グループの大規模集会。10回目となった今回、企画のインタビュアーを務めた広島市立大国際学部2年の大内由紀子さん(19)は、平和の実現に必要なこととしてこの言葉を挙げた。「微力だけど無力ではない」。広島の高校生平和大使を務めたときのスローガンだった。
 大内さんは、会場に設けたステージで、2015年に横浜であった第1回集会で登壇した2人に、この10年間の思いを聞いた。
 その1人が、原発事故被害者団体連絡会共同代表の武藤類子さん(70)=福島市福島第1原発事故を巡り、東京電力元幹部の刑事責任の追及も続けている。大内さんの問いかけに、「夢中で走ってきたし、これからも夢中で走っていきたい。3万2000人の人の波を久しぶりに見て胸が熱くなった。運動は人と人とのつながりがあってこそできる。絶望しそうになったこともあったが、やっぱり人を信じたい」。
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集会で話す武藤類子さん㊧と高里鈴代さん
 
 もう1人は、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に反対する「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」共同代表の高里鈴代さん(84)。病気で亡くなった仲間を思いながら、「これからどうするか、あと何年頑張れるかと時々思うが、皆の思いを引き継いでこれからも頑張りたい」と力を込めた。
 大内さんは今春、福島第1原発の周辺自治体を、中学校の修学旅行で沖縄を訪れたことを紹介。「私が大切にしていることは自分で見たり、聞いたりすること。戦争などが起きてからでは遅い。今活動している人に話を聞いたり、傷痕が残っているうちに現地を訪れることが私たちにできることではないか」。そして最後に言った。
 「一人一人の力はわずかだけれど決して無力ではない。だから少しのアクションでも取り組んでほしい」(服部展和)
護憲派の集会に参加した人たちの思い
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大勢の参加者が集まった護憲派の集会
 
 世田谷区 森山真弓さん(85) ほぼ毎年参加。「米国の言いなりになってどんどん防衛予算が増え、危機意識を感じている」。参加者に若い人が少ないのが気がかりといい、「憲法はみんなで守っていかないといけないが、どうやったら孫たちの世代に伝わるか」
 日野市 団体職員の田中慧さん(28) 「憲法が都合よく解釈され、おろそかにされていると感じる」。参加は4回目。「1カ所に集まって声を上げるというやり方は古いのかもしれないが、続けていくことが大事」
 杉並区 高校教員の佐藤忍さん(71) 「憲法を守るというが、どう使っていくかが大事だと思う」。ジェンダー差別や不当な労働に直面した時に「憲法で人権が守られていると訴えないと、世の中は動かない。人権は憲法を使って勝ち取るものだということを子どもたちに伝えていきたい」
 清瀬市 団体職員の男性(30) 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を盛り込んだ安保3文書改定を引き合いにし、「何やらきな臭くなってきたので、声を上げることが重要と思った。10代や20代の人にも意識を向けてもらえるように訴えたい」