<司書記者の旅をする本棚>(7)「読みたい」に応える薄緑色の整列 日本点字図書館(新宿区)(2024年7月11日『東京新聞』)

 
 図書館司書の資格を持つ東京新聞記者がお薦めの場所と本を紹介します
貸し出し用の「デイジー図書」が並ぶ日本点字図書館の書架=東京都新宿区高田馬場で(田中健撮影)

貸し出し用の「デイジー図書」が並ぶ日本点字図書館の書架=東京都新宿区高田馬場で(田中健撮影)

 薄い緑色のケースが、整然と並べられている。一見、何かの倉庫のように見えるが、これも立派な本棚である。日本点字図書館・図書製作部部長の澤村潤一郎さん(45)は「これらは録音図書といわれるものです」と説明してくれた。
 録音図書とは、耳で聞いて読書できるよう、朗読した音声を収録したもの。主にCDの形でケースに入れて保管される。デイジーと呼ばれる国際基準に則(のっと)った録音図書がメインで、一般書籍に加え、雑誌や新書、音声ガイド付きのテレビドラマや映画など、多彩なコンテンツが楽しめる。
ケースに入ったデイジー図書=東京都新宿区高田馬場の日本点字図書館で(田中健撮影)

ケースに入ったデイジー図書=東京都新宿区高田馬場の日本点字図書館で(田中健撮影)

 点字図書館という名ではあるが、点字本だけを置いているわけではない。昨年度の貸出数は点字本が約5000タイトルなのに対し、録音図書は約16万タイトル。意外にも、録音図書の利用が圧倒的に多い。近年は生まれながらの全盲者より、中年以降に視覚障害になる人の方が多く、新たに点字を覚えるのが難しいことなどが理由だそうだ。
 視覚障害以外の読書困難にも対応している。例えば、ディスレクシア。識字障害と訳され、文字を読んだり書いたりすることが苦手な人のことを指す。文字がゆがんだり、逆さに見えたりするため、文字と音を同期させて表示するマルチメディアデイジーという特殊な図書を用意している。
奇抜な外観の日本点字図書館=東京都新宿区高田馬場で(田中健撮影)

奇抜な外観の日本点字図書館=東京都新宿区高田馬場で(田中健撮影)

 ある物語とこの場所が重なって見えた。伊与原新さんの「宙(そら)わたる教室」には、定時制高校に通うディスレクシアの青年が出てくる。本を読みたい、何かを学びたいという思いは誰だって同じ。決して障害の有無で差別されてはならない。
 前身を含めると、今年で84年。長い間、活動を続けてきた知の砦(とりで)だが、課題は残っているという。「切実なのが教科書です。今はまだ、義務教育課程の読書に困難のある生徒に自由に教科書を読んでもらえていません。出版社と連携し、いかに迅速に、効率よく届けていけるか。努力を続けていかなければ」と澤村さん。真の読書のバリアフリーを目指して、歩みは続く。(谷野哲郎)

◆この1冊とともに

伊与原新「宙わたる教室」 文芸春秋、1760円
【日本点字図書館】
新宿区高田馬場1の23の4
JR高田馬場駅戸山口から徒歩約5分
電話 03(3209)0241
開館 午前9時~午後5時
休館 原則日曜と月曜、祝日
利用 来館のほか、電話やインターネット・サピエ図書館でも可能。見学は電話で予約
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