「女性は人数多くてもマイノリティー」武蔵大・千田有紀教授 性自認尊重のトレンドに懸念(2024年3月25日『産経新聞』)

 
武蔵大の千田有紀教授(奥原慎平撮影)

武蔵大の千田有紀教授(家族社会学ジェンダー論)が国会内で講演し、生物学的な性差から性自認(心の性)を重視する流れが強まっているとして、「性別の基準に性自認の尊重を置けば、『女性に見えないけど、あなたは本当に女性なの』と疑うこと自体、差別とされかねない。女性は数は多くてもマイノリティーだということを分かってほしい」と述べ、警鐘を鳴らした。女性の権利保護を目指す「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」が今月18日に開いた集会でも講演した。千田氏の発言要旨は以下の通り。

見られる存在になることに不安

女性は、心と体が一致しない性同一性障害GID)の人たちの「体を変えたい」との思いに対し、温かなまなざしを送っていた。自由な社会を目指す思いはGIDも女性も同じだ。戸籍上の性別を変更するために男性器を取ってしまうほど女の人になりたいと思っているならば、その人は女性だと思い、共存していた。

《昨年10月、最高裁大法廷は性同一性障害特例法が戸籍上の性別を変更する上で求めていた「生殖腺がないか生殖機能を永続的に欠く状態」(生殖不能要件)の規定を憲法違反と判断した。「変更後の性別の性器に似た外観を備えている」(外観要件)との規定については広島高裁に差し戻し今後、憲法適合性の審理が予定される。双方の要件を合わせて「手術要件」といわれる》

判決では「女性は男性器を見たくないのだろう」(=異性の性器を見せられる羞恥心)といった指摘があった。そうではない。女性は自分の身体を(元男性に)見られることに対し不安を感じている。ここが理解されていない。

手術要件がなくなれば性別変更する上で司法や医療の関与が薄まる。性同一性障害特例法は自己申告に基づく性別変更を可能とする『ジェンダー・セルフ・ID』の制度に近づくことになる。短時間で性同一性障害の診断を下すべきではない。診断基準を厳しくするのが解決の道だろう。

海外では性自認を尊重するあまり、女湯や女性トイレでさまざまなトラブルが起きている。

女性スペースの安全は身体で担保

国連が定義したトランスジェンダーには異性装者やノンバイナリー(男性にも女性にも当てはまらない人)といった属性に加え、女性のアイデンティティーを主張するのに、外見上はひげを生やしたままなど女性にみられる気がない属性もある。その人の性自認を疑えば、「差別」とされる世界が広がりつつある。

性自認を認めるなというのではない。これまで女性スペースの安全性や女性スポーツの公平性は身体によって担保されてきたが、性自認の尊重が過ぎれば社会のシステムが崩れる。例えば、女子トイレは女性が社会参加する上で基本的なインフラだ。女性はトイレでの安全性が担保されないと外に出られない。性自認は自由だが、別に制度的な解決が政治に求められる。

LGBT活動家の主張には「女子トイレや女湯に入りたいというトランスジェンダー女性はいない」という声に加え、「手術要件が廃止されれば、その時に話し合えばいい」という声もある。「女子トイレを使いたい」と主張するトランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)がSNS上で女性に対して暴力的な言葉を使っているケースもある。

(トランス女性の権利を優先する)LGBT活動家から「女性はマジョリティーだ」といわれている。女性は妊娠する身体を持ち、相対的に脆弱(ぜいじゃく)だ。数が多くても女性はマイノリティーだということを分かってほしい。(奥原慎平)

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