工藤会トップ判決 減刑に臆せず摘発続けよ(2024年3月17日『産経新聞』-「主張」)

 暴力団トップは直接手を汚さない。しかしその意向で組織の行動が決まる。トップを処罰しなければ不公正であり、組織に打撃を与えられない。直接証拠を残さぬトップの刑事責任をいかにあぶり出し、立証するか。

 ここが暴力団捜査の難しさだが、これを乗り越えた事件に裁判所が「物言い」をつけた。殺人などの罪に問われた特定危険指定暴力団工藤会北九州市)のトップで総裁の野村悟被告に、福岡高裁が1審福岡地裁の死刑判決を破棄し、無期懲役減刑する判決を言い渡したのである。

 裁かれたのは元漁協組合長射殺▽元警部銃撃▽看護師襲撃▽歯科医襲撃―という、一般人が襲われた4事件だ。高裁は組合長射殺以外の3事件は1審判断を追認したが、射殺は無罪とした。被告の関与を示す直接証拠がない中、1審判決は「工藤会の厳格な序列」と「暴力団組織における意思決定の経験則」を根拠に、被告の犯行関与を「推認できる」とした。

 だが2審は、射殺事件時には被告がまだ工藤会トップでなく、2次団体トップに過ぎなかったことを問題視した。法廷での証拠は、被告が工藤会総裁になってからの「意思決定の在り方」を推認させるが、射殺事件時の2次団体の「意思決定の在り方は不明」とし、1審が証拠評価を誤って「経験則に照らし不合理な認定をした」と、同事件を無罪認定したのだ。

 死刑判決は工藤会だけでなく暴力団全体に衝撃を与えた。分裂中の山口組は判決の年、銃器での抗争をぴたりと止めた。

 ただ、1審判決には「推認に推認を重ねた死刑判決は妥当か」と疑問の声があったのも事実だ。2審はまさにそこを是正した形である。

 弁護側が上告し、最高裁で審理が続く見通しだ。1、2審で判断が割れた射殺事件での共謀推認の在り方に関し最高裁判断を仰ぐのは捜査当局にとって意味がある。暴力団トップの共謀立証をめぐる考え方が上告審で示されることを期待したい。

 一部無罪として減刑した2審判決に、捜査現場は必要以上に神経質になるべきでない。相手は市民、しかも女性まで銃や刃物で襲った組織である。その壊滅は市民からの負託と心得るべきだ。臆せず、堂々と捜査を続けてもらいたい。