古代ギリシャではてんびんが正邪を測る象徴とされたが…(2024年3月15日『毎日新聞』-「余録」)

富雄丸山古墳の割竹形木棺に副葬されていた青銅鏡=奈良市で2024年3月12日、久保玲撮影

富雄丸山古墳の割竹形木棺に副葬されていた青銅鏡=奈良市で2024年3月12日、久保玲撮影

「銅出徐州」「師出洛陽」などの文字が記された三角縁神獣鏡のレプリカ=奈良県天理市で2020年3月5日14時21分、大森顕浩撮影「銅出徐州」「師出洛陽」などの文字が記された三角縁神獣鏡のレプリカ=奈良県天理市で2020年3月5日14時21分、大森顕浩撮影

 古代ギリシャではてんびんが正邪を測る象徴とされたが、古代中国では鏡だった。秦の始皇帝は人心の善悪を照らし出す鏡を持っていたという。伝説の鏡を高く掲げるという「秦(しん)鏡(きょう)高懸(こうけん)」は公正な裁判を意味する成語だ

▲姿を映し出し、光を反射する鏡に神秘性を見いだすのは自然だろう。日本にも弥生時代から中国製銅鏡が持ち込まれ、珍重されたらしい。謎が多いのが3世紀以降の古墳から見つかっている「三角縁(さんかくぶち)神(しん)獣(じゅう)鏡(きょう)」である

邪馬台国卑弥呼使節を送った魏の年号の銘がある鏡もある。魏志倭人伝が返礼したと記す「銅鏡100枚」ともいわれてきた。しかし、発見例が数百枚に達する上、中国では確実な出土例がないため、国産説も根強い

▲国内最大の円墳、富雄丸山古墳(奈良市)の木棺から見つかった青銅鏡の1枚が三角縁神獣鏡の可能性があるという。髪に挿すとされる竪櫛(たてぐし)も見つかり、被葬者は「祭祀(さいし)的な役割」の女性と推測されている

▲国内最大の蛇行剣が見つかった古墳に別に埋葬された男性と女性がきょうだいの可能性もあるという。4世紀後半というから卑弥呼の時代から100年以上後の遺跡だが、卑弥呼の補佐役だったという「男弟」を連想した

邪馬台国畿内か九州か。決着はついていないが、纒向(まきむく)(奈良)や吉野ケ里(佐賀)など大型遺跡の考古学調査が進み、古代のイメージは変わってきているそうだ。「鬼道(呪術)」を操ったという卑弥呼の時代に鏡をどう使ったのか。その謎も解いてほしい。