どこかのお武家の若様。庭で穴の開いた銭を拾うが、これが何だ…(2024年3月6日『東京新聞』-「筆洗」)

 どこかのお武家の若様。庭で穴の開いた銭を拾うが、これが何だか分からない。若様、思いついた。「これはおひなさまの刀の鍔(つば)ではないか」-。落語の「雛(ひな)鍔」である

▼若様の様子を脇から見ていた植木屋の熊さんがしきりに感心する。おひなさまの鍔とはうまい見立て。それに銭を知らないとはなんと鷹揚(おうよう)で上品な。若様に比べ、同じ8歳のウチのガキが情けないと嘆く。「あいつは始終、銭くれ、銭くれとまとわりつきやがって」

▼熊さんも驚く、子どもの金銭トラブルだろう。名古屋市内の小学6年生男子が数百円程度の記念メダルを純金だと同級生にだまされて、高額な値段で購入してしまったという

▼メダルや海外紙幣などを売りつけられ、だまし取られたとされる額は合わせて約93万円。わが身には小学生時代どころか最近も縁のない額に腰を抜かす。「金は値上がりする」「珍しい」と持ちかけられたと聞けば、いっぱしのセールス話術で、およそ小学生とは思えぬ

▼おそらくはこちらの認識が甘い。今どきの小学生はおカネの万能さも売買によるうまみもよく分かっているのだろう。こういう子どもの金銭トラブルは実は隠れているだけかもしれない

▼一方、子どもが分かっていないのはその怖さである。おカネに目がくらんでしまえば同級生をだまし、傷つけるようなこともしかねない。教えたいのはそこである。