<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム> 映画監督で会社役員の榊英雄容疑者(53)が20日、準強姦(ごうかん)の疑いで警視庁に逮捕された。取材を通じて、同容疑者と接点があっただけに、22年3月9日に映画へのキャスティングを持ちかけて4人の女優に性的関係を強要したと一部で報じられた段階から、逮捕された今に至るまで、憤りを禁じ得ない。
知り合ったきっかけは、13年の東京国際映画祭だった。監督作「捨てがたき人々」がコンペティション部門に出品され、会見を取材した際、関係者から「エッジの効いた表現ができ、才能があるから」と紹介された。
その後、懇意にしている俳優から榊容疑者の新作に出演した旨、連絡があり、作品の関係者からも当該俳優と監督を取材して欲しいと打診され、話を受けた。
15年夏のことだった。 インタビューをしてからというもの、榊容疑者からは「作品を見て欲しい」と連絡が来るようになった。また、性加害報道を受けて22年5月に離婚した、シンガー・ソングライターの和(いずみ=55)を取材して欲しい、との売り込みもあった。
和は、同容疑者の監督作の映画音楽を担当していたため、舞台あいさつにも顔を出すことが多く、あいさつもしていた。2人の娘を伴うこともあり、家庭的な一面も見ていた。
16年に映画担当から事件を追う社会担当に担当替えとなったこともあり、榊容疑者とは連絡を取らなくなった。再び連絡を取り始めたのは、21年3月。20年春に映画担当に復帰した記者の元に、22年4月15日公開予定の同容疑者の新作映画「ハザードランプ」製作の一報を書いてほしいと映画会社から打診があったのだ。その件でやりとりし、原稿を執筆、掲載してから半年後の同9月、今度は榊容疑者の方から、22年3月25日公開予定の、もう1つの新作映画「蜜月」が完成したから、試写に来てほしいと連絡があった。その件で同10月まで連絡を取り合っていたが、その後、同容疑者から全く連絡が来なくなった。
そして22年3月8日に都内で行われた「蜜月」のワールドプレミアを取材したが、監督にもかかわらず榊容疑者は登壇しなかった。主演の佐津川愛美(35)も、冒頭から「ごめんなさい…初めて皆さんに見ていただける日なので、純粋に、見ていただけるのが、ありがたいなという気持ち」と、涙で声を詰まらせた。どうも、おかしい。何かあったのか? と不信感を募らせていたところ、翌9日に性加害報道がなされた。
「蜜月」も「ハザードランプ」も公開中止に追い込まれた。
記者は当時、別の性加害事件に関して取材しており、映画業界においても監督や関係者による性加害がある、との関係者の声も耳にしていた。情報を求めつつ、関係者には「男性である記者が、被害について取材すること自体がセカンドレイプになりかねない面も多分にあるから慎重にしたい」とも伝えていたが…加害者が榊容疑者だとは知らなかった。取材不足を痛感し、抱いたじくじたる思いは今も続いている。
榊容疑者の逮捕容疑は、16年5月23日に東京都港区のマンションの1室で、演技指導をする名目で当時20代の女性に対し、わいせつな行為をした疑い。先述したインタビューは、その約1年前に行った。同容疑者が被害者女性と知り合ったのは、15年秋に俳優志望者に演技を指導するワークショップだったといい、取材した時期と近い。当時、同容疑者が何を語っていたのか確認したくなり取材時の音声を聞き返してみた。
榊容疑者は「捨てがたき人々」について「別に道徳的な映画じゃなくていいんですよ。つまり人間って、こんなもんだよ…飯食って、クソして、抱きたい。それが一番の本能」と語っていた。監督業については「本能を、どう暴くかを、どう僕なりに見て、撮るかが映画監督の仕事のような気がします」と断言した。
当時、一部の映画関係者から、榊容疑者が女優を演出する際、かなり追い込むという話を聞いていた。どのように追い込むのかと聞くと「『帰れ』『死ね』『考えろ、芝居を』『もう、ちょっと、色っぽくきなさいよ』と」と答えた。なぜ、そこまで追い込むのか? と聞くと、こう続けた。
「台本に書かれていることをやるのは普通。台本に書かれていないことを、最後は見せてほしい。だからって、アドリブとかやるんじゃなく、大人の世界を見せてくれと。不純物を入れるために、ちょっと追い込んでいる。俳優をやってきて、仕事がなく、くすぶっていた時、何の方法論もない、分からないまま自主映画から(監督業に)入った。全部、我流だから、どこか自分を信じる方法を考えた時…無意識に追い込んでいるんだと思う。その瞬間を生きてほしいから、追い込まないと役と表裏一体にならないと思う」
榊容疑者は、取り調べに「冤罪(えんざい)です」と容疑を否認しているという。また逮捕後、被害者女性に「映画に出るなら裸にならなきゃならない時もあるだろ。なってみろ」と伝えていたことも、明らかになっている。取材当時、榊容疑者の話を聞いていて、そこまで女優を追い込む必要性が、果たしてあるのだろうか? と疑問を抱いた。改めて取材時の音声を聞き直してみると、性加害へと発展していく素地はあったと言わざるを得ない。
榊容疑者は、いずれ刑事裁判の法廷に立つ。その際、法廷に入って取材し、まずどういう表情をしているか、顔を見てみたい。そして、何を思い、考えているか発言を聞きたい。「年齢を考えれば、折り返しを過ぎて、どう生きて死ぬかを考える時期」と語っていた人生を、どこで踏み外し、俳優…そして映画そのものを汚すに至ったのかを取材し、報じたい。こうした被害を、根絶するためにも…。【村上幸将】
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