手話への理解と普及を図る条例案 小諸市(2024年2月16日『信濃毎日新聞』)

 長野県小諸(こもろ)市は手話への理解、普及を図る市手話言語条例案をまとめた。

16日開会の市議会3月定例会で成立を目指す。

市は「条例化で市の責務と市民、事業者の役割を示す。共生地域社会の実現に向けた施策につなげたい」としている。

 条例案は前文と13条で構成。前文で手話言語を「必要不可欠な言語として大切に育まれ、受け継がれ、発展してきた」と指摘。「誰もが手話言語に親しみ、理解を深め、広く日常生活で利用されるまちを目指すため条例を制定する」とした。聴覚障害者らへ災害時に迅速に情報伝達することや理解と普及を図る推進計画策定なども盛り込んだ。

 市厚生課を事務局に、関係者による意見交換会を昨年9月に開始。佐久聴覚障害者協会や要約筆記者、手話通訳者、手話サークルら当事者団体などの14人が参加した。条例の幅広い活用を目指すため、市社協や小中学校校長会、こもろ観光局、小諸商工会議所、市危機管理課なども加わり、案をまとめた。

 

小諸市手話言語条例骨子案

 

 手話言語は、音声言語とは異なる独自の語彙・文法体系を持ち、手や指、体の動き、表情を使って視覚的に表現される言語である。聴覚障がい者等をはじめ関係する多くの人々にとって手話言語は、物事を考え、意思疎通を図り、お互いの感情や気持ちを理解し合い、知識を蓄え、文化を創造するために必要不可欠な言語として大切に育まれ、受け継がれ、発展してきた。

 しかしながら、これまで手話が言語として認められてこなかったことや、手話言語を使用できる環境が整えられなかったことで、十分な教育を受けることができず、音声言語を耳から理解することができない聴覚障がい者等にとって、必要な情報を得ることや意思疎通を図ることが困難となり、多くの不便や不安を感じながら生活を送らざるを得なかった。

 こうした中で、障害者の権利に関する条約や障害者基本法において、手話は言語であると位置づけられていることを踏まえ、小諸市は、障がいのある人も、ない人も、お互いに支え合いながら共に生きる地域社会の象徴となり、誰もが手話言語に親しみ、手話言語に対する理解を深め、手話言語が広く日常生活で利用されるまちを目指すために、この条例を制定する。 

 

(目的)

第1条 この条例は、手話が言語であるという認識に基づき、聴覚障がい者等に対する理解の促進及び手話言語の普及に関する基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、市が実施する施策の基本事項を定めることをもって、すべての市民が共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。

 

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 聴覚障がい者等 聴覚・言語機能又は音声機能の障がいのため情報を取得し、利用すること、意思を表示すること又は他人との意思疎通を図ることに支障がある者をいう。

(2) 意思疎通支援者 聴覚障がい者等とその他の者の意思疎通支援をするための手話言語通訳者、要約筆記者等のことをいう。

(3) 市民 市内に居住、通勤又は通学する者をいう。

(4) 事業者 市内において、事業活動を行う個人、法人又は団体をいう。

(5) 合理的配慮 障がい者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合、過度な負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な便宜の

ことをいう。

 

(基本理念)

第3条 聴覚障がい者等が、自立した日常生活を営み、地域における社会参加に努め、すべての市民と相互に人格と個性を尊重し合いながら、心豊かに共生することができる地域社会の実現を目指すものとする。

2 手話が言語であることを認識し、手話言語への理解の促進と普及を図り、手話言語での意思疎通を図りやすい環境を構築するものとする。

3 聴覚障がい者等は、手話言語による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない。

 

(市の責務)

第4条 市は、基本理念に対する理解を深め、手話言語の普及と、手話言語を必要とする人があらゆる場面で手話言語による意思疎通ができ、自立した日常生活や地域における社会参加を保障するため、必要な施策を講ずるものとする。

 

2 市は、その事務又は事業を行うにあたり、聴覚障がい者等が意思疎通手段などを利用できるよう合理的配慮を行うものとする。

 

(市民等の役割)

第5条 市民は、基本理念に対する理解を深め、手話言語に関する市の施策に協力するよう努めるものとする。

2 聴覚障がい者等は、基本理念に対する理解を深め、手話言語の普及等に関する施策に協力するとともに、主体的かつ自主的に手話言語の普及に努めるものとする。

3 事業者は、基本理念に対する理解を深め、聴覚障がい者等が利用しやすいサービスの提供及び働きやすい環境を整備し、意思疎通手段などを利用できるよう合理的配慮を行うよう努めるものとする。

 

(学校における手話言語の普及) 

第6条 市は、学校教育において、基本理念に対する理解を深め、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

2 市は、学校において、児童、生徒及び教職員に対し、手話言語を学ぶ機会を提供するよう努めるものとする。

 

(災害時の対応)

第7条 市は、災害時において、聴覚障がい者等に対し、情報の迅速な取得及び意思疎通の支援に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 

 

(公共施設等における啓発) 

第8条 市は、公共施設その他関係機関において、手話言語への理解の促進及び、意思疎通手段の普及のための啓発に努めるものとする。

 

(その他の意思疎通の支援の推進) 

第9条 市は、聴覚障がい者等の特性に応じ、手話言語、要約筆記その他の意思疎通の支援及び情報通信技術の活用等に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(手話言語の推進) 

第10条 市は、次に掲げる施策について総合的かつ計画的に推進するものとする。

(1) 手話言語に対する理解及び手話言語の普及に関する施策

(2) 市民が意思疎通の手段として手話言語を選択することが容易にでき、かつ、手話言語を使用しやすい環境の構築に関する施策

(3) 意思疎通支援者等の確保及び養成に関する施策

(4) 手話言語を学ぶ機会の確保に関する施策

(5) 前各号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策

 

(意見の聴取)

第11条 市は、手話言語に関する施策の推進に当たって必要がある場合は、聴覚障がい者等、意思疎通支援者その他関係者から意見を聴くものとする。

 

(財政上の措置)

第12条 市は、手話言語に関する施策を積極的に推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(委任)

第13条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。

 

附 則

この条例は、令和6年4月1日から施行する。

 

 市は、2024年1月5日(金)から2月5日(月)まで、骨子案についてパブリックコメントを行い、以下の3件の意見が出された。

 

 なお、議会に提案された条例案は、骨子案3条の3の「聴覚障がい者等は、手話言語による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない。」を「聴覚障がい者等は、手話言語による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない」と変更した以外は、骨子案と同様である。