あんぱん(2024年2月16日『新潟日報』-「日報抄」)

 太平洋戦争末期に乗っていた船が攻撃を受け、命を落とした子どもや若者は多かった。広く知られているのは1944年8月に沖縄を出港した学童疎開船「対馬丸」だ。米潜水艦に撃沈され、児童ら1500人近くが犠牲になる惨事となった

 

 

▼現在の五泉市にあった村松陸軍少年通信兵学校の生徒が乗った「摩耶山丸」も魚雷攻撃に沈んだ。10代の若者が繰り上げ卒業し、南方へ向かう途中だった

 

摩耶山丸【特種揚陸艦】 | 大日本帝国軍 主要兵器

 

▼国民的キャラクターの「アンパンマン」を世に出した漫画家の故やなせたかしさんも、弟の柳瀬千尋さんを台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡で亡くしている。京都帝国大の法学部生で、学徒出陣したのだった

 

アンパンマン」放送35年目に突入 10月7日に特別エピソード放送 ...

▼「輸送船ごと撃沈されてしまったんで、骨も何もない。骨壺(つぼ)が帰ってきたけど、木の札が入ってるだけだった」と生前のインタビューで嘆いた。「離れ島に流れ着いて、生き延びてるんじゃないかという気が未(いま)だにしてるんです」とも

 

▼やなせさんも出征し、厳しい教練やしごき、飢えに苦しんだ。困った人を助けるアニメのヒーローを通して「生きる喜び」を訴えた背景には戦争体験があるとされる

 

▼来年は戦後80年の節目を迎える。2025年度前期のNHK連続テレビ小説は、やなせさんと妻をモデルにした「あんぱん」に決まった。苦難を乗り越え、アンパンマンを誕生させるまでの軌跡をたどる。やなせさんの創作に大きな影響を与えた戦争も描かれるのだろう。この作品でも鎮魂の思いを新たにすることになりそうだ。