万博協会は「責任者がどこにもいない」寄り合い所帯…会場建設現場の危機感が共有されず(2024年2月14日『日刊ゲンダイ』)

 
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関西経済連合会の松本正義会長は怒りをにじませたが…(C)共同通信社
関西経済連合会の松本正義会長は怒りをにじませたが…(C)共同通信社
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「『いのち輝く未来社会のデザイン』という大阪・関西万博のテーマと逆行しています」──。万博の会場建設に追われる作業員らの労働環境について、パビリオン設計を担当する1級建築士は、日刊ゲンダイにそう吐露した。

 来年4月の開幕を控え、建設業界の慢性的な人手不足と各種パビリオンの工期遅れのせいで、現場作業員は残業を強いられている。問題は、予定通りの開催をゴリ押しする国や日本国際博覧会協会(万博協会)、大阪府・市に、「労働災害が頻発しかねない」という現場の懸念が伝わっていないことだ。

 関西経済連合会の松本正義会長は先週9日、会見で「建設会社はけしからん」「万博を成功させようというコメントはどこにもない」などと怒りをにじませた。万博協会の副会長に名を連ねているクセに、強行開催の責任を棚に上げて建設業界に逆ギレするとは、一体、何様なのか。お門違いも甚だしい。

 パビリオン設計を担当する1級建築士がこう指摘する。

■共有されない現場の危機感

「建設業界では『油断と焦り』が労働災害につながるといわれます。パビリオンの工期も会場内のインフラ整備も遅れているので、ただただ『焦り』しかありません。すでに設計・施行の関係者は夜通しの作業を強いられています。無理やり来年4月開幕へ突き進んでも、作業員らの事故が起きかねず、得るところは何もない。半年は開幕を延期すべきですが、こうした危機感が万博協会などに共有されている様子はありません」

 万博協会は国や自治体、企業などから職員が出向している「寄り合い所帯」。「カネと利権」にまみれた実態が明らかになった東京五輪組織委員会と似たような構成だ。

「協会の人と会う機会があれば、私からも、建設業者の方からも懸念を伝えています。しかし正直なところ、責任者の不在を痛感せざるを得ません。その場で協会側の人が真摯に話を受け止めてくれたとしても、それを持って行く先がない。協会側の窓口は用意されているのですが、会場の建築や設計、施行に関わる責任者及び意思決定者が誰なのか分からない。会場全体を統括するはずのプロデューサーの責任も不明です。会場準備が遅れているのに、仕事の順番を管理する責任者も出てこない。恐らく、協会側は自分たちが何をどこまで判断していいのか分からないのでしょう」(前出の1級建築士

 1970年の大阪万博では、会場建設に関わった17人が殉職した。同じ歴史を繰り返さない責任は主催側にある。