突然の訃報から2週間がたっても、事態は収まる気配がない。1月29日、人気漫画「セクシー田中さん」の作者・芦原妃名子(ひなこ)さん(享年50)が亡くなって以降、同作をドラマ化した日本テレビへの批判が絶えないのだ。背景には原作モノを映像化するテレビ局の限界があるというのだが……。
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生前、芦原さんは手塩にかけた漫画がドラマとなるに際し、日テレ側との交渉で苦悩した様をSNSで明かしていた。彼女が日テレ側に提示した「漫画に忠実であること」などの条件が守られず、原作者自らが脚本執筆に携わる異例の事態になっていたという。 映像化の合意は昨年6月で、実際のドラマ放映は10月から12月まで。すでに多くのメディアが報じたように、撮影開始前から原作者と局との間で数々のトラブルが起きていたのは間違いないだろう。
“あまりに冷淡では”
ことの子細は日テレと原作の版元・小学館の見解が待たれるところだが、世間の批判は局側の冷淡な対応に向けられている。 日テレは、芦原さんの遺体が栃木県内で発見された当日、公式の見解として、
〈訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております〉 と述べるにとどまり、原作者とのトラブルには一切触れなかった。これを読んだ視聴者から“日テレは悪くないと言わんばかり”“あまりに冷淡では”などの批判が噴出したのだ。
有働キャスターも…
テレビ朝日を経て現在はフリーのテレビプロデューサーである鎮目博道氏に聞くと、 「今回の件でわだかまりが残るのは、日テレ側のコメントがまったく足りていないこと。事実関係を調査して説明すべきところを型通りなコメントしか出していません。会社としての責任逃れ、自分たちのスタッフを庇っているようにしか見えないのが残念です」
皮肉なことに、日テレが放送するニュース番組「news zero」では、キャスターの有働由美子(54)が“(関係各所の)調査は誠実に、慎重にすることが大事”と語り、世間から拍手喝采となったのだ。
「視聴者からすれば、日テレの公式見解だけでは何が起こったのか分からない。スポンサーや株主の目を気にして丸く収めたいという強い気持ちから、保身にも聞こえるコメントになった可能性がある」
そう指摘するのは、『混沌時代の新・テレビ論』を上梓した元テレビ東京プロデューサーで、桜美林大学教授を務める田淵俊彦氏。
主役の性別が変えられることも
「基本的に原作モノを忠実に映像化するのはテレビでは限界があります。漫画では描けたこともコンプライアンス的にカットしないといけないシーンが出てきます。またドラマ制作ではラブ、サスペンス、ヒューマンの三つの要素を入れないと視聴率が取れないといわれています。
どんなにヒューマンに偏った原作でも、ラブやサスペンスの要素を加えて、少しでも視聴者の間口を広げようとする。また芸能事務所や局の編成などが要望を出してくれば、内容も変わってくる。大物女優の出演が決まったとなれば、主役の性別を原作と変えてしまうこともあるのです」
諸々の限界がある以上、日テレは経緯を検証して今後に生かさなければ、再び同じ轍を踏むことになろう。
当の日本テレビに見解を求めたが、期日までに回答はなかった。
一昨年に過去最高益を記録した日テレHDは、今月に入って7年ぶりの水準まで株価が急騰。ストップ高となった日もあると聞けば、なおさら不遜なコメントは許されまい。
「週刊新潮」2024年2月15日号 掲載