【特殊詐欺被害】身の回りの危険に警戒を(2024年2月14日『高知新聞』-「社説」)

 
     
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 2023年に認知された特殊詐欺の件数が過去10年で最多となった。警察庁のまとめ(暫定値)によると、前年比8・3%増の1万9千件余りで、被害額も19・0%増の約441億円に上った。全国で毎日1億2千万円の被害が出た計算だ。
 新型コロナウイルス禍での減少から一転した。社会経済活動の回復に伴って増加傾向があらわとなり、件数は3年連続で増えた。警察による取り締まり強化はもちろんだが、一人一人が身の回りに迫る危険に対する警戒を強めたい。
 社会問題化した「おれおれ詐欺」の登場から約20年。注意を呼び掛けるさまざまなキャンペーンや警察の捜査にもかかわらず、特殊詐欺は手を替え品を替えながら、被害を出し続けている。
 統計からは、特殊詐欺の手法がより巧妙化、効率化している様子が見て取れる。被害金の受け取りでは現金化しやすい電子マネー型が増加。架空料金を請求する手口では、パソコン画面に「ウイルスを除去する」などと表示し、被害者から連絡させるサポート詐欺が急増した。
 犯罪主体も、摘発を逃れるための変化を繰り返しているようだ。昨年1月には「ルフィ」などと名乗る指示役が率いた特殊詐欺グループがフィリピンを拠点にしていたことが発覚。詐欺グループが拠点を国内から海外へと移している実態も浮かび上がった。
 さらにグループは交流サイト(SNS)上の「闇バイト」募集に応じて実行役が集まり、匿名性の高い通信アプリを使って連絡を取り合うなどしながら、犯罪ごとに離合集散を繰り返していた。メンバー間で顔や本名も知らなければ、極めて実態がつかみにくくなろう。被害予防から捜査まで、こうした変化に対応しつつ、多層的に備えることが重要になってくる。
 警察庁は4月、特殊詐欺連合捜査班(TAIT)を新設する。地方の高齢者らをだまして、首都圏のATMで現金を引き出すといった典型的な手口を想定。被害を認知した地方の警察から依頼を受け、都市部の7都府県警に置く部隊が対応する。全国的に最新の犯罪動向を共有し、迅速で柔軟な対応が求められる。
 特殊詐欺の撲滅には摘発のみならず、闇バイトに応じるなどして犯罪に加担するケースを食い止める必要もある。
 統計では特殊詐欺で摘発されたうち、20歳未満が20%弱を占めた。実行役として使い捨てにされる傾向もみられる。応募時に個人情報を指示役に把握され、犯行をためらうと脅されるケースもあるという。警察や教育機関が連携して、非行防止の啓発を強化したい。
 一人一人がだまされない工夫と備えも欠かせない。かかってきた電話番号の表示、番号非通知や海外からの着信を拒否するサービスもある。これらを活用するとともに、お金を請求された時には家族や知人らにまず相談するといった対応を継続的に呼び掛ける必要がある。