賃上げ/中小企業への波及に本腰を(2024年2月14日『福島民友新聞』-「社説」)

 労使の認識は、物価上昇を上回る賃金の伸びを実現させることでほぼ一致している。労使ともに実現に最善の努力を尽くすべきだ。

 企業経営者と労働組合が賃金などの労働条件を交渉する今年の春闘が始まった。昨年の賃上げ率は約30年ぶりの高水準となったものの、物価の上昇に賃金が追いつかず、実質賃金はいまだマイナスの状況が続いている。

 家計に深刻な影響を及ぼしている物価高の影響を和らげるには、昨年を上回る水準で賃上げを実現することが前提になる。所得の拡大が消費を支え、経済活動を活性化させる。労使双方が納得できる結論を見いだし、経済の好循環につなげてもらいたい。

 連合は闘争方針に「5%以上」の賃上げ目標を掲げた。定期昇給分の2%確保を前提に、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を3%以上としている。経団連は昨年を上回る賃上げ率を目指す方針を示している。

 コロナ禍からの経済活動の回復や円安などを背景に、好業績の企業は少なくない。さらに売り上げや業績を伸ばすため経営者には意欲的な回答を求めたい。組合は所得増をより実感できるよう、賞与などにも反映されるベアを中心とした賃上げを実現するため、粘り強く交渉を進めてほしい。

 今年の春闘で焦点となるのは中小零細企業の動向だ。昨年の賃上げは大手企業が中心で、国内の労働者の7割近くが勤務する中小零細への広がりを欠いた。賃上げした中小企業でも大半は人材確保などのため、業績の改善を伴わない「防衛的な賃上げ」となった。

 大手企業などとの取引で、人件費の一部である労務費や原材料費の上昇分を価格転嫁できていないことが、中小零細企業の賃上げを阻む要因だ。地方に多い中小企業の賃上げは、地域経済の行方を左右する。大手企業は、下請けなどとの取引条件の適正化に努め、中小零細企業の賃上げにつなげなければならない。

 中小零細企業はコスト上昇分を価格に転嫁し、収益を向上させることができなければ賃上げなどに充てる原資を確保できないどころか、経営の存続さえ危うい。効率性や生産性を高め、従業員の待遇を改善し、持続的な成長を果たすことが重要だ。そのためにも一定の設備投資などは避けられない。

 賃上げは従業員の生活を守るだけでなく、優秀な人材の獲得にも有効だ。企業経営者は将来をしっかり見据え、行政の支援制度などを活用し、労働環境の改善や生産性の向上に力を入れたい。