中居・フジテレビ問題に関する社説・コラム(2025年1月19・20・21・22・23日)

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フジテレビ
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記者会見するフジテレビジョン港浩一社長(17日、東京都港区)

早急な全容解明と説明を/フジテレビ問題(2025年1月23日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』-「社説」/『茨城新聞山陰中央新報』-「論説」
 
 フジテレビの対応は後手に回り、信頼回復に向けた記者会見も失敗に終わった。その後、スポンサーが次々にCMを差し替えて離反する動きが広がり、企業統治不全を露呈した。早急に全容を解明し、うみを出し切るべきだ。
 
 昨年末に「週刊文春」が中居正広さんと女性との間で性的なトラブルが生じたと報じ、中居さんは年明けにそれを認めるコメントを発表した。記事はフジの社員の関与にも言及したが、これについてはフジも中居さんも否定した。
 だが親会社の株主である米投資ファンドが第三者委員会による調査などを求めると、フジも抗しきれなくなった。記者会見を開き、第三者の弁護士を中心とした調査委員会を設けると発表した。
 しかし、会見から週刊誌やウェブメディア、フリーの記者を排除。中継や動画撮影も拒んだため、かえって反発を招いた。あまりに閉鎖的で保身第一と映ったからだ。報道機関としての自らを否定する行為だとの厳しい批判にさらされている。
 女性の人権やプライバシー保護が大切であることは論をまたないが、それを理由にした隠蔽(いんぺい)や遅滞は許されない。視聴者やスポンサーを納得させるためだけでなく、テレビや芸能の世界で働く人たちのためにも透明性を確保し、説明責任を果たすことが不可欠だ。
 芸能人との関係を深めるため、女性社員らを利用する構造も指摘されている。もしそういう面が放送界にあるなら、直ちに改めるべきだ。TBSが不適切な接待がなかったか社内調査をすると発表したが、業界全体の点検も求めたい。
 会見したフジの港浩一社長によると、事態を把握したのは、トラブルがあった直後の2023年6月。女性の様子の変化に気づいた社員が声をかけて話を聞き「当事者2人の間で起きた極めてセンシティブな領域の問題」と分かったという。
 だが、中居さんへの聞き取りはしなかった。港社長は「女性の意思を尊重し、心身の回復とプライバシー保護を最優先に対応した」と説明したが、理由にならない。
 真相を把握しなければ、トラブルへの適切な対応も女性のケアもできないし、中居さんの出演番組を継続していいかどうかも判断できない。すぐに話を聞くべきだった。
 しばらくして中居さん側から連絡があったものの、示談が進んでいることなどを理由に放送を続けた。その後も終了のタイミングはあったはずだが継続した。心身のダメージに苦しみ、治療を受けていた女性はその番組を見てどう思ったか。想像力に欠ける措置で、理解に苦しむ。
 港社長は女性への言葉を求められ「活躍を祈ります」とだけ述べ、女性に寄り添おうとする思いが感じられなかった。守れなかったことに対し謝罪がなかったのは残念だ。
 中居さんは文書で謝ったが「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」と記した。被害の深刻さが分かっていなかったのではないか。
 フジの対応からは、ジェンダー平等への意識の低さも透けて見える。会見場に現れた幹部の面々が全員男性だったことは象徴的だ。経営や番組編成の中枢に女性がほとんどいないことが、事態の本質にある。企業文化そのものが問われている。

フジテレビの調査 信頼回復へ厳正な解明を(2025年1月23日『産経新聞』-「主張」)
 
 厳正な調査と十分な説明を通し、不信を拭ってほしい。
 タレントの中居正広さんと女性のトラブルを巡る問題で、フジテレビは港浩一社長らが記者会見し、第三者の弁護士を中心とした調査委員会を設置することを明らかにした。
 トラブルの発端となった会合に同局社員が関与した疑いなどが指摘されていたためだ。
事実関係や経緯を明確にできるかが問われる。より独立性の高い第三者委員会に調査を委ねることも含めて、万全の対応を検討すべきである。
 港社長は会見で「視聴者や関係者に多大な迷惑をおかけし、説明ができていなかったことをおわびします」と謝罪した。
 この問題は、週刊誌が昨年12月に中居さんと女性のトラブルを報じたのをきっかけに発覚した。中居さんは女性側に解決金を支払ったと認めている。
 会見ではトラブル直後の令和5年6月に当事者の女性の変化に気づいた社員が声をかけ把握した―と説明した。
 他者に知られずに仕事に復帰したいとの女性の意思を尊重し、心身回復、プライバシーの保護を優先して対応した」という。女性への十分な配慮は必要だ。同時に隠蔽(いんぺい)と取られぬよう丁寧な説明が欠かせない。
 社員が関与したかどうかの解明には課題が残っている。フジテレビは昨年12月、「会の設定を含め一切関与していない」としていた。会見でも社員本人への聴取や通信履歴の調査結果として改めて否定した。
 会見では、週刊誌報道をもとに、社員がタレントと女性を2人きりにして性的な接触をさせることが常態化しているような事実はあるのか―との質問も出た。港社長は「そういうことはなかったと信じたい」と述べた。疑念を残さぬよう徹底した調査を行ってほしい。
 同局の親会社フジ・メディア・ホールディングスの株主である米ファンドは、これまでの調査、対応が不十分として第三者委による調査を求めていた。
 接待相手が地位を利用するなどして女性が性的トラブルにあうケースは他業種を含め、ひとごとではないはずだ。再発防止の観点からも、フジテレビはさらに詳しく説明すべきだ。
調査の信頼を得る上でも、公正で独立性を有する態勢で進めることが重要である。

フジテレビ 不信拭えるか 剣が峰だ(2025年1月23日『信濃毎日新聞』-「社説」
 
 
 フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスがきょう臨時の取締役会を開き同局に対し、独立性の高い第三者委員会の設置を求める見通しだ。
 週刊誌が報じたタレントの中居正広氏と女性との性的トラブルを巡り、同局社員の関与が疑われている問題である。
 この問題では、同局の港浩一社長が17日に開いた記者会見に批判が殺到した。企業の間でフジテレビでのCMの放送を差し止める動きが急拡大するなど、スポンサー離れが雪崩を打っている。
 「週刊文春」は、同局で女性社員らに性的行為を強いる接待が常態化していたと報道している。まずは独立性、中立性、客観性が担保された第三者委員会による徹底した調査が欠かせない。信頼回復へ一歩を踏み出せるか、フジテレビは剣が峰と心得るべきだ。
 17日の会見で同局への不信は決定的となった。人権侵害に関わる事案にもかかわらず、認識の甘さと対応の鈍さが露呈した。
 自らの不祥事の会見なのに参加するメディアを限定し、動画の撮影も認めなかった。テレビ局として自己否定に等しい行為である。
 中身にも疑問符が付く。調査委員会の設立に言及したものの具体的な体制はあいまいだ。他の質問にも「回答を控える」などと歯切れの悪い発言を繰り返した。
 同局上層部はこの事案を早期に把握していた。2023年6月、被害女性の様子の変化に気づいた社員が声をかけて発覚し、港氏にも報告が上がっていた。
 しかし本格的な調査はせず、中居氏のレギュラー番組の放送を続けた。番組の休止は、週刊誌報道を受けた今年の年明けだ。
 港氏は調査を避けた理由として被害女性の意思やプライバシー保護を挙げた。だが他にも同様の事案が起きていた可能性もある。プライバシーに配慮しつつ速やかに調査に動くべきだった。人権より人気タレントの出演を優先したとみられても仕方ない。
 CMの差し止めが相次いだのは社会に「人権デューデリジェンス」が浸透しつつある現れでもある。企業は取引先も含めて人権侵害をなくしていくべきだという考えで、日本では旧ジャニーズ事務所の性加害問題をきっかけに広く知られるようになった。
 メディアは苦い教訓を再発防止に生かしているのかが問われている。フジテレビと同様の事案がないか、TBSや日本テレビなどは社内調査を行う。各局は自ら点検し、結果を公表すべきだ。

フジテレビ 疑念に応える厳正調査を(2025年1月23日『中国新聞』-「社説」)
 
 被害者保護を理由に、不都合な真実を隠してきたのではないか。タレント中居正広さんの女性トラブルを巡りフジテレビが大きく揺れている。
 同社社員の関与があったとする週刊誌報道を受け、同社の港浩一社長が先週記者会見した。外部の弁護士を中心とする調査委員会の設置を表明し、事実関係などは「調査委に委ねる」と回答を拒んだ。
 説明責任を果たさない姿勢や同社主導の調査に批判の声が噴出し、数多くの大手広告主が同社でのCM放映を見送る事態を招いている。
 人気芸能人とのパイプを太くするため、女性を利用したのではないか、という疑念に応える必要がある。同社はようやく独立性の担保された第三者委員会を設置する方針に転換したという。徹底した調査と説明を求める。
 週刊文春によると、フジテレビ社員を交えた食事会のはずが直前に中居さんと女性の2人だけになってトラブルが起き、中居さんが多額の解決金を払って示談にしたという。女性社員にタレントを接待させる場を同社幹部が常態的に設けていたとも報じている。事実なら深刻な問題だ。
 同社がトラブルを把握したのは1年半も前のことだ。昨年末の週刊誌報道まで伏せた判断は理解できない。女性の立場に最大限配慮した上で、公表と徹底解明を通じ再発防止を図るべきだったはずだ。
 記者会見に応じたのも、第三者委の設置を決めたのも、親会社の株主である米投資ファンドから「企業統治に重大な欠陥がある」と圧力をかけられたからだ。
 その記者会見の在り方に疑問を呈さざるを得ない。
 放送局を取材する新聞・通信社で構成する「ラジオ・テレビ記者会」が開催を要求していた。参加メディアを限定せず、映像も撮影可能な会見とするよう求めたが、フジテレビは「会場が狭い」と拒否。問題を追及してきた週刊誌やフリー記者らの参加も中継も認めなかった。
 参加メディアを制限する振る舞いは、報道を担う自覚なき対応と言わざるを得ない。港社長はこれまで説明の場を設けなかったことを謝罪し、プライバシー保護を優先した対応を強調したが、守ろうとしたのは果たして女性だったのか。事態の重大性や公共の電波を預かる責任をどこまで認識していたのか疑問だ。
 会見後、広告主が相次ぎCMをやめている。CMを続ければ企業イメージを損なうと判断したのだろう。
 視聴率が取れるタレントや芸能事務所に依存するテレビ局の姿勢は、多数の少年が性被害に遭ったジャニーズ事務所問題で強く批判されたはずだ。女性とのトラブルは、ジャニーズ事務所問題が議論を呼んでいた時期と重なる。第三者委の調査は、人権侵害を巡るテレビ局と芸能界の構造的な問題にまで踏み込んでもらいたい。
 あしき体質を根本から改める以外に再生と信頼回復の道はない。厳正な調査を基に、ゆがんだ価値観と決別し、人権を守る報道機関の使命に立ち返るべきだ。

(2025年1月22日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 TBSは死んだに等しいと思います-。ジャーナリストの筑紫哲也さんが、キャスターを務めていた同局のニュース番組でこう発言したのは1996年3月のことだった
▼発言のその日、報道機関としての信頼を自ら放棄する事態が明らかになった。オウム真理教の問題を追及していた坂本堤弁護士のインタビュー映像を無断で教団側に見せていたのだ
▼教団は映像を見た後、坂本弁護士一家を殺害し、遺体を本県などに埋めた。敵対する相手に許可なく放送前の素材を見せる行為は報道の倫理に著しく反する。筑紫さんは、信頼をなくした報道機関は死んだも同然だと言いたかったのだろう
▼あの発言を思い出したのは、フジテレビが社長の記者会見の動画撮影を認めなかったと知ったからだ。自社の番組でも静止画を放送しただけだった。テレビ局が映像の取材を許さないのは、自らの存在の否定ではないのか。テレビ報道の自殺行為と言っていい
▼フジテレビはタレントの中居正広さんと女性とのトラブルに関し、週刊誌で社員の関与が報じられていた。本来なら、テレビカメラの前できちんと説明するのが筋だ。これでは、疑惑の当事者らに映像取材に応じるよう迫ることなどできなくなる。報道の現場で真摯(しんし)に取り組もうとしているスタッフは愕然(がくぜん)としているのではないか
▼大手企業の間では、フジテレビでのCMを差し止める動きが広がった。筑紫さんの言葉は、報道に携わる者全てに対する戒めでもあった。改めてかみしめたい。

フジテレビ会見 不信招いた後手の対応(2025年1月22日『京都新聞』-「社説」)
 
 後手に回り続けた上に、危機感が感じられない。
 タレント中居正広氏の女性トラブルを巡り、週刊誌で社員の関与が報じられたフジテレビの港浩一社長が、初めて会見を開いた。
 「外部弁護士を中心とした第三者調査委員会」を設け、検証するとした。しかし、社員の関与や、調査委の独立性に関しては不十分な説明に終始した。
 何より驚いたのは、映像が生命線であるはずのテレビ局が、社会に波紋を広げる問題を社長が説明するのに、他メディアの映像撮影を認めず、参加する記者も制限したことである。
 事態をより深刻化させたといわざるを得ない。報道機関としてのフジテレビにとっても、信用を損なう判断ではないか。
 週刊文春によると、女性は2023年6月、複数で会食すると誘われたが、中居氏と2人きりになり、意に沿わない性的行為を受けたという。中居氏は女性と示談したことを認めている。
 フジは直後に事案を把握しながら、1年半にわたり中居氏の出演番組を放送し続けた。先月も中居氏を特番で起用した。
 港氏は、女性のケアやプライバシー保護のためと説明したが、人気タレントへの配慮を優先し、事実を隠ぺいしようとした疑念は拭えない。
 フジテレビは昨年末、食事会に社員の関与はなかったとしたが、女性社員らを呼んだ接待が常態化していたとも報じられている。問題が起きた当日に限らず、幅広く調べることが欠かせない。
 ガバナンス(企業統治)に欠ける対応や会見は、スポンサー離れを招き、大手企業約50社がCM出稿を差し止める方針を示す。
 放送法を所管する村上誠一郎総務相は「独立性が確保された形」での調査を求めた。報道機関が政権から注文を付けられるのは望ましくないが、介入の口実を与えたフジテレビの責任は重い。
 日本弁護士連合会のガイドラインなどを踏まえ、強い調査権を持つ公正な第三者委員会を設け、開かれた会見での説明を求めたい。
 テレビ各社の対応も疑問が残る。トラブル発覚当初は様子見を続け、中居氏の番組休止や問題の報道には時間を要した。テレビ業界は、性加害を見て見ぬふりした旧ジャニーズ問題で、芸能人や事務所に忖度(そんたく)する体質を厳しく問われたはずだ。今回のような事案もフジテレビだけにとどまるのか。業界全体で点検すべきである。

フジテレビ問題 厳正調査で疑惑解明を(2025年1月21日『北海道新聞』-「社説」)
 
 タレントの中居正広さんと女性とのトラブルを巡り、社員の関与を週刊誌で報じられたフジテレビの港浩一社長が記者会見し、第三者を入れた調査委員会の設置を表明した。
 当初は社員の関与を否定したが、記者会見では調査委が検証するとした。社員の関与が事実なら責任は重大だ。
 電波法は、電波の利用目的を「公共の福祉」の増進と定める。テレビ局はそうした役割を担って番組を制作している。
 フジテレビは責任の重さを自覚して厳正な調査を行い、社会の疑問や不信に誠実に答えなければならない。
 「週刊文春」によると、社員を含む複数で会食する予定が直前に中居さんと女性の2人だけになり、トラブルが起きた。中居さんは女性と示談が成立したことを認めている。
 港氏は、フジテレビがトラブルを把握したのは直後の2023年6月だったと明らかにした。女性の様子の変化に気付いた社員が声を掛けたという。
 問題なのはこの後の対応だ。
 港氏は「女性の心身の回復とプライバシーの保護を最優先にした」と説明し、中居さんからは話を聞いたとした。
 だがトラブルの把握後も中居さんが出演する番組の放送を続けた。記者会見が開かれたのは、フジテレビの親会社の株主である米投資ファンドから「企業統治に重大な欠陥がある」と指摘されてからだった。
 こうした一連の経緯からは、事態の重大性を認識し、社員の関与を含め事実確認を尽くした形跡はうかがえない。
 女性の保護が重要なのは当然だ。だからといって真相解明しなくていいとはならない。
 むしろ中居さんへの配慮があったのではないか。
 記者会見への参加は一部の社に限定し動画撮影を認めず、質問には「調査委に委ねる」などとあいまいな回答に終始した。報道機関の姿勢として疑問だ。
 週刊文春は、女性社員にタレントを接待させる場をフジの社員が常態的に設けていたとも報じている。事実なら女性の尊厳に対する深刻な侵害であり、組織体質が根本から問われる。
 視聴率が取れる有名タレントや芸能事務所に対するテレビ局の腰が引けた姿勢は、多数の少年が性被害に遭ったジャニーズ問題で強く批判された。
 調査はこうした構造的な背景にまで踏み込んで行うべきだ。
 CMを見合わせる動きがスポンサーに広がっている。フジテレビは人権を守る報道機関の使命を自覚してもらいたい。

フジテレビ会見 企業統治不全が深刻だ(2025年1月21日『東京新聞』-「社説」) 
 
 タレント中居正広さんの女性とのトラブルを巡り、フジテレビの港浩一社長=写真=は記者会見で謝罪したが、多くの質問に答えなかった。設置を決めた第三者委員会の独立性にも疑問符が付く。
 同社の企業統治はもはや体をなしているとは言えない。経営トップを外部から招聘(しょうへい)し、経営陣を総入れ替えするなど解体的出直しを図らなければ、視聴者やスポンサーの信頼は回復できまい。
 港社長は会見で、同社は中居さんのトラブルを2023年6月の発生直後に把握していたが、「秘匿性の高い事案」を理由に詳しい調査をせず、公表も見送っていたことを明らかにした。
 被害女性の人権を最優先するのは当然だとしても、事態に十分対処しなかったため、結果的にトラブルが伏せられたまま、タレントの出演番組を視聴させられ、スポンサー企業もその番組を提供させられていたことになる。
 女性の立場に最大限配慮しつつ事態の徹底解明と公表を通じて再発防止につなげるのが企業統治なのではないか。週刊誌が報じるまで事実関係を伏せ、事態を悪化させた判断は理解しがたい。
 メディアを限定した記者会見の在り方にも疑問を呈さざるを得ない。問題を追及した週刊誌やウェブメディア、フリー記者は参加できず、テレビ局にもかかわらずテレビ中継を認めなかった。新聞などで組織する記者会側は、開かれた会見にするよう求めたが、フジは「会場が狭い」と拒否した。
 参加メディアを制限すれば問題が沈静化すると考えたのなら、思い違いも甚だしい。フジには参加を制限しない形での記者会見をあらためて開くよう求めたい。
 「第三者委」の調査も、株主である米ファンドの要請を受けてようやく設置を決め、しかも日弁連ガイドラインに基づく第三者委かどうかは不透明だという。独立性が担保されない組織の調査は信用できない。再考を強く促す。
 CMを出稿するスポンサーが、自らの企業イメージが傷つくことを恐れてフジから離れるのも当然だ。企業体質を根本から改める以外にフジテレビ再生の道はない。

フジテレビ会見 公正な調査と説明不可欠(2025年1月21日『新潟日報』-「社説」)
 
 歯切れの悪い説明に終始し、納得のいくものではなかった。「隠蔽(いんぺい)」の疑念が生じるのも当然だろう。公正に調査し、速やかに結果を公表する責任がある。
 タレント中居正広さんと女性とのトラブルを巡り、週刊誌で社員の関与が報じられたフジテレビの港浩一社長が記者会見を開き、「説明ができていなかったことをおわびする」と謝罪した。
 「週刊文春」などは昨年12月、中居さんが2023年に女性と性的トラブルになり、約9千万円の解決金を払って示談したと報じた。中居さんは公式サイトの文書でトラブルを認めて謝罪した。
 会見した港氏は23年6月に「女性の様子の変化に気付いた社員が声をかけた」ことをきっかけに事案を把握し、中居さんにも話を聞いたと明らかにした。
 だが他者に知られず仕事に復帰したいとの女性の意思を尊重し、本格的な調査は避けたという。
 トラブル把握後のフジの対応は適切だったのか。被害女性をきちんとケアしたのか、疑問がある。
 フジは週刊誌報道を受けて、食事会の社員の関与について「会の設定を含め一切関与していない」と否定していた。
 会見では、把握後の具体的な対応に関する質問が相次いだが、回答を拒んだ。港氏は女性社員らに性的行為を強いる接待が常態化していたとの週刊誌報道については「ないと信じたい」と述べた。
 フジは外部弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げ、社員の関与の有無や被害女性への対応の妥当性を検証する方針を示した。
 真相解明にはフジの都合に左右されない中立的な組織による徹底的な検証が欠かせない。調査結果は被害女性のプライバシーに配慮した上で広く公表すべきだ。
 中居さんのレギュラー番組に関しては、急に打ち切って憶測が広がる懸念から終了させなかったとした。番組休止の発表は、報道でトラブルが公になってから年をまたいだ今月8日だった。
 中居さんを外したくないとの思惑があったと思わざるを得ない。
 公式サイトで中居さんは、示談が成立したことで支障なく活動を続けられると主張したが、不明な点が多すぎる。
 フジは会見で報道機関による動画撮影を認めず、記者会に加盟していない週刊誌やインターネットメディアの参加も認めなかった。
 オープンというには程遠い対応だ。日頃取材する立場のメディアが、取材される立場になると制限を課すのは自己矛盾に映る。
 フジのCM放映を見直す動きが、多くの企業に広がっている。ACジャパンのCMに次々と差し替えられている。
 それだけ社会が重く、厳しい視線を向けていることの表れだ。フジは真摯(しんし)に受け止め、対処しなければならない。

フジテレビ 疑念に答える責務がある(2025年1月21日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 被害者保護を口実に不都合な事実を隠してはいないか。視聴者やスポンサーの不信感は募るばかりだ。フジテレビには、利害関係のない第三者に公正かつ徹底した調査を委ね、その結果を基に疑念に答える責務がある。
 タレント中居正広さんと女性とのトラブルに社員の関与があったとする週刊誌報道を受け、フジの港浩一社長が記者会見した。説明が遅れたことを謝罪し、外部の弁護士を中心とした調査委員会を設置すると表明した。社員の関与の有無や、事後対応の妥当性を検証するという。
 会見でのフジの対応は、極めて不十分なものだった。テレビカメラを締め出し、質問を一部メディアに限定した。組織防衛に走ったと受け取られても仕方あるまい。日本生命保険トヨタ自動車などの企業にCM差し止めの動きが広がっているのも、疑念を払拭できないと判断されたためだろう。
 問題は昨年末、週刊誌の報道で表面化した。このうち「週刊文春」は、フジの社員を交えた食事会の予定が中居さんと女性の2人だけにされ、その場で性的トラブルが起きた。中居さんが9千万円を払って示談した-と伝えた。中居さんはトラブルを認めている。
 文春はトラブルを把握後のフジ幹部の対応も問題視し、女性社員にタレントを「接待」させる場を幹部が常態的に設けていたとも報じている。
 会見でフジは、トラブル直後の2023年6月に問題を把握したが、他者に知られず仕事に復帰したいという女性の意思を尊重し、本格的な調査は避けていたと説明した。港社長は「女性の心身のケアやプライバシー保護を優先した」と強調。具体的内容や女性社員の「接待」については調査を理由に明確な回答を拒んだ。
 問題が公になるまで、中居さんの番組出演は続いていた。当事者間に守秘義務があるとしても、被害女性は踏みにじられた思いだったのではないか。女性の人権や安全は守られるべきだが、それを理由に会社側が事実を隠蔽[いんぺい]し、真相にふたをするようなことがあっていいはずがない。
 一連の対応を、株主の米投資ファンドは「コーポレートガバナンス企業統治)に重大な欠陥がある」と批判し、親会社フジ・メディア・ホールディングスに第三者委員会の調査を求めた。会社の成長には視聴者やスポンサーの信頼が不可欠、という指摘は重い。
 旧ジャニーズの性被害問題ではメディア側の人権意識やコンプライアンス(法令順守)意識が問われた。フジ・メディアHDは人権方針に「差別・ハラスメントの禁止」「適正な労働環境」を掲げ、「人権が尊重される社会の実現に力を尽くす」とうたっている。教訓は生かされていただろうか。
 独立した組織で公正な調査を行い、責任の所在を明確にするべきだ。公共の電波を預かる報道機関に、国内外から厳しい視線が注がれている。自らの言葉で説明しなければ、信頼回復は果たせまい。

フジは丁寧な調査と説明を(2025年1月20日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 フジ・メディア・ホールディングス傘下のフジテレビジョンが、タレントの中居正広さんの女性トラブルに揺れている。同社社員の関与を週刊誌が報じ、米国の物言う株主(アクティビスト)がフジ・メディアに第三者委員会の設置を求めている。
 ハラスメントや倫理にかかわる問題を放置すれば、従業員の意欲をそぎ、広告主や視聴者が離れることが懸念される。業績や株価への影響も無視できない。フジ・メディアとフジテレビは丁寧な調査と説明を尽くすべきだ。
 フジテレビの港浩一社長は17日の記者会見で「説明ができていなかったことをおわびする」と謝罪した。そのうえで弁護士による外部委員会を立ち上げ、調査を始めることを表明した。
 女性のプライバシーに十分に配慮しつつも、調査結果は広く公表されるべきだ。17日の記者会見は必ずしもオープンなものとはいえなかった。
 フジ・メディアに第三者委の設置を求めた米ダルトン・インベストメンツと英関連会社は、同社グループの企業統治コーポレートガバナンス)に欠陥があると批判している。外国人投資家は女性関連の不祥事やスキャンダルにことさら敏感だ。合計で約7%を保有する株主グループの指摘は重い。
 フジ・メディアは17人の取締役のうち7人を社外人材が占める。そこには上場企業に情報開示を促す東京証券取引所のトップ経験者が名前を連ねる。人権方針も策定し「差別・ハラスメントの禁止」や「適正な労働環境」をうたうなど、透明度の高い企業統治のかたちは整えている。
 かたちに実態が伴わなければ、株主を含むすべてのステークホルダー(利害関係者)の信頼を失ってしまう。これはあらゆる企業にあてはまる。
 さらにメディアの社会的責任を考えれば、フジ・メディアとグループ会社の経営に、いっそう高い倫理が求められるのは言うまでもない。

テレビと芸能 業界の透明化へ調査を(2025年1月19日『朝日新聞』-「社説」)
 
 社会の不信感がふくらむ中、フジテレビが17日、ようやく説明の場を設けた。
 昨年末発売の週刊文春などが、タレントの中居正広氏と女性の間で性的な問題が起きたと報じた。中居氏は「トラブル」を認めるコメントを公表。さらに記事では、フジ社員の関与も指摘された。フジも中居氏も否定するが、もし何らかの形で関与があったとすれば問題はより深刻だ。
 フジの親会社の一部の株主は、対応に透明性が欠けていると厳しく指摘している。
 こうした状況のなか開いた会見で、「社員がタレントと女性を2人きりにして性的な接触をさせることが常態化している」ような事実があるか尋ねられ、港浩一社長は「そういうことはなかったと信じたい」と答えた。
 人気芸能人との関係を強めるために、女性を性的に利用していないか――。この点こそが、社会が同社に抱く不信感の核心だろう。今回の問題では、港社長が随時報告を受けていたという。不信を払うには、社長の責任を含め、徹底した調査と説明が必要だ。
 会見では、弁護士を中心とした調査委員会の設置を発表した。ただ、日本弁護士連合会のガイドラインに沿った第三者委員会にするかどうかなどは明言を避けた。一方で、記者からの質問に対して「調査に委ねること」と答えない場面も目立った。調査委が隠れみのになるようでは困る。
 報道からほどなく、フジ以外のテレビ局も、中居氏が出演する番組の差し替えやシーンのカットをした。高度なプライバシーに関わり、事実関係や当事者間の権力関係が見えにくいなど、性的な問題をめぐる疑惑には対応の難しさがある。その中でも、人権侵害の可能性を重くくんだ各局の判断は基本的には望ましいだろう。一方で、判断理由の説明は必ずしも明確でない。根拠を明らかにし、「ジャニーズ問題」後に制定された人権方針を具体的に運用する方法を、見いだしていく時だ。
 「社会調査支援機構チキラボ」が昨年公表した芸能・メディア関係者のアンケートでは、「番組プロデューサーが下請け制作会社の女性スタッフに性接待を強要していた」など、「性的接待」を見聞きしたり経験したりしたという回答が複数あった。これらの訴えが「氷山の一角」である可能性もふまえ、他局も調査や点検をしてはどうか。
 テレビや芸能の仕事をするすべての人が人として尊重されるためにも、問題ある慣習や価値観があるならばこの機会に正し、業界の正常化・透明化に努めてほしい。

中居氏問題でフジ会見 疑問に答える徹底調査を(2025年1月19日『毎日新聞』-「社説」)
 
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記者会見するフジテレビの港浩一社長=東京都港区で2025年1月17日午後3時6分、西本龍太朗撮影
 公共の電波を預かるメディアとして、フジテレビは徹底した調査を通じ、視聴者の疑問に答える責任がある。
 タレントの中居正広さんの女性トラブルを巡る週刊誌報道を受け、フジの港浩一社長が初めて記者会見した。第三者を入れた調査委員会を設置すると発表した。
 トラブルは2023年6月に起きた。中居さんは女性と示談したことを認めている。週刊文春は、当日は複数で会食する予定だったが、フジ社員らが現れず2人だけの状況になったと報じた。
 フジは直後にトラブルを把握した。女性の様子の変化に気づいた社員が声をかけ、「センシティブな領域の問題」と認識した。
 だが、その後の対応には疑問がある。まず、事実確認が不十分だったことだ。
 港社長は「女性の心身の回復とプライバシーの保護を最優先にした」と述べたものの、結果的に調査の遅れを招いた。
 昨年末には社員の関与を否定するコメントを出したが、根拠として挙げたのは当該社員への聞き取りや通信履歴の調査だけだった。
 港社長が会見を開いたのも、親会社のフジ・メディア・ホールディングス(HD)の株主である米ファンドから企業統治の欠陥などを指摘され、第三者委員会による調査を求められた後だった。遅きに失したと言わざるを得ない。
 会見では、女性の人権やプライバシーの保護を盾に説明を避け、今後の調査を理由に回答を拒む姿勢が目立った。調査委の具体的な体制や位置付けについても明らかにしなかった。
 真相究明よりも、組織防衛に腐心していると受け取られても仕方がない。
 文春は、フジ社員からタレントの接待に呼ばれた別の女性の証言も報じている。焦点はフジ社員の関与の有無だ。独立した立場から、公正で厳格な調査がなされなければならない。
 一連の経緯は港社長も報告を受けていたという。結果次第では、経営責任を問われることになる。
 「人権が尊重される社会の実現に力を尽くす」との方針をフジ・メディアHDは掲げている。求められているのは、その理念を自らの行動で示すことだ。