これで「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することができるのだろうか。
政府が2025年度の生活保護の受給額について、1人当たりさらに月500円を上乗せすることを決めた。だが、現在の物価高を考えれば十分な額とは言い難い。
生活保護の受給額は、原則5年ごとに低所得世帯の消費水準と比較して見直される。
前回の見直しは22年末に行われた。算定の根拠になったのは19年の家計に関するデータである。消費額の低下傾向を踏まえ、引き下げが決まった。
当時は、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で物価が上昇していた。このため、与党から異論が噴出し、政府は24年度までの2年間については、1人当たり月1000円上乗せするなどの特例措置を講じた。これによって減額を回避した。
その後も物価高騰に歯止めが掛からないことから、特例措置を26年度まで延長し、上乗せ額も増やすことにした。
ただし、家計に関する最新のデータはなく、上乗せ額の算出根拠は明確ではない。
13年度には、物価の下落を理由に受給額を大幅に引き下げた経緯がある。それならば、物価上昇時にも実態に即して見直しをしなければ整合性を欠いている。
受給額の算定方式の妥当性も問われている。
参考にする消費水準は、生活保護を受給していない低所得世帯が対象となる。だが、この中には、本来なら生活保護を受けられる世帯が一定程度含まれる。受給基準を満たす人のうち、実際に受けているのは2~3割にとどまるとされるからだ。
結果として、比較対象の消費水準が低く見積もられて、受給額が押し下げられているとの指摘が出ている。
病気や失業などさまざまな事情で生活が苦しくなることは誰にでも起こり得る。そうした時に暮らしを立て直す支えとなるのが生活保護だ。
食料品をはじめとする生活必需品や光熱水費などが高騰する影響は、低所得世帯ほど大きくなる。場当たり的な対応では安心を保つことはできない。