「金銭に強い執着心」1億2000万円“不正支出”か… 東京女子医大の元理事長(78)逮捕
東京女子医科大学の元理事長がキャンパス施設の建設をめぐり、大学に約1億2000万円の損害を与えたとして逮捕されました。絶大な権力を握っていたとされる元理事長。国内有数の名門医大で何が起きていたのでしょうか。
■1億2000万円“不正支出”か
東京女子医科大学の元理事長・岩本絹子容疑者(78)。背任の疑いで13日に逮捕されました。きっかけはおととし3月。不正な支出がなされた疑いがあるという、卒業生らによる刑事告発でした。その1年後、警視庁が家宅捜索に乗り出します。岩本容疑者の自宅も対象となりました。
今回の逮捕容疑は、新宿区にある彌生記念教育棟と巴研究教育棟、2つの新校舎の建設をめぐるもの。警視庁の見立てはこうです。岩本容疑者は新校舎建設のためとして、大学から非常勤職員の肩書をもつ1級建築士の口座に約1億2000万円を不正に振り込ませ、大学に損害を与えた疑いがあります。その名目は架空の『建築アドバイザー報酬』など。実態のない報酬の一部は、岩本容疑者に還流していたとみています。2人のほか、経営統括部の幹部だった50代女性も事件に関与しているということです。
東京女子医大 清水治理事長 「元理事長はすでに解任されているが、本日逮捕されたことは誠に遺憾。厳粛に受け止めている。不正の利益を得ていたのであれば回収を図っていく」
東京女子医大の勤務医は…。
東京女子医大の勤務医(40代) 「やっとかなという感じはする。やっぱり皆が理事長とか学長の顔色をうかがって発言もできないみたいな感じだった。きのうまで味方だった人が急に敵になったり、とにかく混乱していた。その混乱がなくなることを期待している」
■“一強体制”で「金銭に執着」
大学を揺るがす事件が起きたのは2014年。手術を受けた男の子(2)が鎮静剤、プロポフォールを投与されて亡くなります。集中治療を受けている子どもへの使用は原則、禁じられていた鎮静剤でした。
この事件を受けて、高度な医療を提供する『特定機能病院』の承認が取り消されることに。経営再建のため、副理事長として招かれたのが、都内で産婦人科クリニックを開業していた岩本容疑者でした。東京女子医大の創立者一族で、卒業生でもあります。そして2019年、女性としては72年ぶりの理事長に就任しました。
岩本絹子容疑者(去年2月公開の動画) 「『医学の蘊奥を究め、兼ねて人格を淘知し、社会に貢献する女性医人を育成する』と、理念であります『至誠に愛』に基づくものであることは、本学の所属の皆様においてはご承知の通りでございます」
第三者委員会 竹内朗副委員長 「岩本氏は、全権を一手に掌握して“岩本一強体制”を構築していったとみている。岩本氏の金銭に対する強い執着心が見て取れる」
大学の同窓会組織『至誠会』の関係者で、プライベートでも容疑者と親交があった人物は…。
同窓会組織『至誠会』関係者 「お気に入りを側近にしている。反対意見を言わない人を重宝して、側近は側近で反対意見を言わない。気を使って怒らせないことしか耳に入れないところがある」
■“一強”医療現場に悪影響
そうした“岩本一強体制”は医療現場にも影響を与えていました。
東京女子医大 清水治理事長 「(Q.元理事長の経営判断による混乱は具体的にはどういうものが?)集中治療科やICU・PICUが十分に機能しなくなったことで、本学が提供できている医療サービスが限定的になった」
第三者委員会の報告書 「その原因は、岩本氏の重大な経営判断の誤りにある。将来につながる重要な投資には資金を惜しみ、これを行わなかった。これはPICUの問題に限らず、岩本氏の経営に垣間見える特徴であり、経営者として問題があると言わざるを得ない」
目先において、儲かるかどうかが最優先事項だったと指摘しています。
■逮捕前に訴えた“身の潔白”
岩本容疑者は逮捕前大学の同窓会組織である、至誠会の会議で身の潔白を主張していました。
岩本絹子容疑者(2023年) 「私は決して至誠会や女子医大を裏切るようなことは一切しておりません。少なくとも大学と至誠会に何か損害を与えるようなことは100%200%あり得ません。警視庁で何か言ってきたとしても全く。“嘘も100回言うと本当になる”皆さん方はそう言ってますけど、それで私、逮捕されなかったら、あなた方、告訴しますよ。それで良いのですか。逮捕状でも出てるかって話。いかがですか」
警視庁は、岩本容疑者が不正に支出した一部を私的に利用したとみています。
同窓会組織『至誠会』関係者 「普通だったら理事の報酬を減らしてでも、少しずつ現場で頑張っている人に回す。そういう姿勢は全くなかった」 「(Q.警察の捜査に望むことは?)はっきりさせて頂きたい。圧力に屈せず、警察としてのお仕事をして頂きたい」
■“岩本一強体制”「異論を排除」
去年8月の第三者委員会の報告書によると「金銭や儲けに対する強い執着心があった」として、今回の容疑以外にもいくつもの疑義が提示されています。
副理事長に就任間もない2015年には、知人の休眠会社とコンサル業務の委託契約を結んで、2回にわたって300万円ずつの不正支出があり、岩本容疑者に還流された可能性が高いとしています。
他にも、工事費や不動産売買の仲介手数料の“還流”、東京女子医大の同窓会『至誠会』への寄付金についても、職員の採用・昇進・昇格に影響すると明記し、推薦入試の書類にも記載を求めるようになっていました。
さらに、報告書では「異論を敵視し排除する姿勢と行動」が悪影響を及ぼしたとしています。
取材した関係者によると「お気に入りを側近にして重宝している。側近は側近で反対意見を言わず、怒らせないようなことしか耳に入れない」という状況だったといいます。
他にも、教育・研究と病院・臨床に対する理解・関心の薄さを挙げています。それが顕著に表れているのが、15歳までの小児を対象としたPICU(小児集中治療室)の停止についてです。2014年に起きた『プロポフォール事件』の教訓から、医療安全の確立を目的にして2021年に設置されましたが、約半年で運用を停止。その理由は、岩本氏が突如「PICUは儲からない」と言いだしたことだといいます。
経営者としての統治能力に数々の問題が指摘されている岩本容疑者ですが、その象徴とも言えるのが本人の報酬額です。岩本容疑者の報酬は、2015年度は1847万円でしたが、2023年度は3178万円。それに対し、一般の教職員一人あたりの報酬はほぼ横ばい。岩本容疑者の報酬だけが大きく上がっていきました。
告発状によると、2021年4月には100人以上の医師が退職。さらに、学費を6年間の総額で1200万円値上げしたことで、受検者数は1300~1700人から1000人未満に激減するなど、大学の凋落を招いたとしています。
警視庁は、不透明な金の流れは他にもあるとみていて、複数の容疑を視野に捜査を続けています。