サンデー毎日1月19-26日合併号
悠仁さまの大学進学をめぐり、ネット上では「皇室特権」が使われたという議論がかまびすしい。真摯に受験勉強に励んできた悠仁さまの耳に入る形で、こうした議論が繰り広げられるのはとても悲しい。悠仁さまの合格に「特権」利用などありえない。(一部敬称略)
悠仁さまが成年となった2024年9月6日を前に、皇嗣職大夫(だいぶ)の吉田尚正は宮内記者会の記者に対し、進学を巡って一部メディアで「根拠のない情報」が流れているとした。この時期、悠仁さまの東大進学に反対する署名活動が行われていた。吉田が言った「根拠のない情報」とは、東大進学の噂(うわさ)のことだと一般には考えられているが、私はもっと具体的な報道を指していると思う。
名前を挙げると、8月8日に発売された『週刊文春』(8月15・22日号)の「筑附で『異例の成績』悠仁さまの〝真実〟」である。この記事には、「筑附高の関係者」による以下の証言が紹介されている。「目下の問題は、学業成績についてです。悠仁さまは、率直に申し上げて〝異例の成績〟なのです」「生物を除いては、文系科目も理数系科目も成績が伸び悩んでおられる。理解力を測るテストの点数が芳しくない(略)この成績だと授業についていくのは難しく、ご本人も苦しい気持ちを抱えておられるのではないか」
断言するが、まったくの嘘(うそ)である。悠仁さまの高校3年1学期までの成績は、評定平均4・3以上、学習成績概評は「A」である。5点満点である評定平均で4・3以上(概評でA)が付くのは、進学校である筑波大附属高校でも15%から20%しかいないと考えられる。悠仁さまの成績は、生物だけでなく、全科目平均で上位である。
◇英語力がなければ解けない「小論文」
悠仁さまの受けた入試は、学校推薦型(推薦入試)なので、高校の推薦があれば、小論文と面接だけで合格すると一般には思われている。しかし、実際は、不合格も十分にありうる厳しい試験である。
悠仁さまが受験する1年前の生物学類の「小論文」過去問を別掲として紹介する。「小論文」という科目名のイメージとは異なり、現実は生物と英語の試験に近い。年内に実施する入試では、個別学力検査は行わないことが建前なので、「小論文」という科目名となっている。
問題ⅠからⅢまであり、問題Ⅰが英文をもとにした設問だ。『ネイチャー』誌のコラムでも著名な英国の免疫学研究者ジョン・トレゴニングの比較的平易な英文が使われた。引用部分は人類と細菌の関係についての記述だが、専門用語もあり、科学英文を読み慣れている必要がある。筑波の推薦入試では、英検やTOEFLなどの英語資格・検定試験のスコアの提出は必須ではないが、提出した方が有利なので、ほとんどの受験生はスコアを出しているだろう。つまり、英語力がなければ合格は難しい。
問題Ⅱ、Ⅲは生物に関する出題だが、「100字程度で記せ」という問いがいくつかあり、生物学の知識だけでなく、日本語の表現力も求められる。筑波大の場合、一般に推薦入試の方が一般入試より難しいと言われている。厳しい推薦基準に加え、英語、生物の高度な学力、日本語の表現力が求められるからである。
生物学類の今回の推薦入試の倍率は発表されていない。ただ、22人が合格し、合格者の最後の受験番号が「××62」なので、60人以上は受験しただろう。すなわち、3倍近くの倍率はあったはずだ。
日本の大学入試は、文部科学省の「大学入学者選抜実施要項」により、「合否判定の方法や基準を明確に定め、あらかじめ募集要項等により公表し、それを遵守(じゅんしゅ)する」ことが求められている。合否判定については、「中立かつ公平・公正な意思決定が行われるよう教授会や入試委員会等の合議制の会議体」が行う。恣意(しい)的な合格ラインが設定され、一部の人間だけが合否決定に関わるということはありえない。日本の大学の教授会はそこまで腐っていない。
◇論文や入学をめぐる言い掛かりやデマ
悠仁さまのいわゆるトンボ論文に大人の手が入り、それが不公平であることを「特権」と呼ぶ人もいる。トンボの標本を採集したのが悠仁さま自身であることに疑いの余地はなく、第一筆者が悠仁さまであるのに何の問題もない。赤坂御用地のトンボ相、すなわちどのようなトンボが生息しているのかを、幼少の時から探求し続け、それが、論文という形になったのは、日本の学術界にとって重要な成果である。悠仁さまは研究者の助けを借りてそれを成し遂げたのであり、非難されるいわれはない。剽窃(ひょうせつ)や不正があると騒いでいる人もいるが、素人の言い掛かりにすぎない。
そもそも総合型や学校推薦型の選抜で、提出書類の多くには大人の手が入っている。専門の塾がアドバイスすることは日常茶飯事である。選抜する大学教員はそんなことは百も承知のうえで、なお、受験生個人の資質や能力を見抜こうとしている。受験に面接があるのはそのためでもある。専門家集団である大学教員たちの目は節穴ではない。
筑波大の生命環境学群や生物学類で、この秋から冬にかけて、特任助教の公募が始まったことをもって、「悠仁さまの『受け入れ準備』」と報じるメディアまである(『週刊現代』12月28・1月4日号)。牽強付会(けんきょうふかい)のデマもいいところで、メディアの見識が問われる。
悠仁さまは公務先でも参考書を持ち込んで必死に勉強して生物学徒の切符をつかんだのであって、そこに「特権」要素は1ミリもない。(以下次号)
■もり・ようへい