金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー取引疑惑で、この裁判官が証券取引等監視委員会に対し、不正な株取引を認める説明をしていることが関係者への取材でわかった。不正で得た利益は300万円超に上る疑いがあるという。監視委は金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑での告発に向け、東京地検特捜部と合同で詰めの調査を進めている。
裁判官は30歳代男性で、今年4月に最高裁事務総局から同庁へ出向。企画市場局企業開示課の課長補佐として、株式公開買い付け(TOB)を予定する企業の書類審査などを担当していた。今年9月に監視委から関係先の強制調査を受け、現在は同課の業務から外れている。
関係者によると、裁判官は監視委の任意の事情聴取に対し、職務で知った未公表のTOB情報をもとに複数の株取引に及んだことを認めたという。裁判官は出向直後から8月までの間、自身が担当している企業のほか、部署内で共有されるTOB予定企業の一覧も使って情報を入手し、本人名義での株取引で300万円を超える利益を得ていた疑いがあるという。
監視委は、裁判官が金融市場の監督のために未公表の企業情報を多数扱う立場を利用し、自らの利益獲得を図ったとの見方を強めており、刑事責任を問うための告発に向け、特捜部と最終調整しているとみられる。
金商法は、上場企業のTOBなどの重要事実を職務で知った公務員らが公表前に株取引することを禁止。違反すれば、行政罰としての課徴金のほか、悪質性が高い場合は懲役5年以下・罰金500万円以下の刑事罰が科される。
最高裁は、若手に行政の実務を経験させることなどを目的として、中央省庁などへの出向を行っている。出向中は裁判官の身分を離れ、裁判所に戻る際に改めて任官している。