存在感が薄い「立憲・野田氏」が「国民・玉木氏」から主導権を奪う方法 企業・団体献金廃止と“もうひとつ”の意外な秘策 古賀茂明(2024年11月26日『AERA dot.』)

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古賀茂明氏
 永田町では、国民民主党自民党公明党との経済対策についての協議が進み、国民民主が求めていたいわゆる「103万円の壁」について、具体的な数字はないものの、「税制改正の中で議論し、引き上げる」と明記することになった。ガソリン減税について、「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」とすることでも合意した。国民民主が求めていたいわゆる「トリガー条項復活」による「暫定税率廃止」も検討対象に含むとされているので、国民民主の二つの大きな要求について、自公側が実質的な譲歩をしたことになる。
 この合意には、補正予算を早期成立させることも明記されたので、石破茂政権は、11月28日に召集される臨時国会で2024年度補正予算を成立させることができることがほぼ確実となった。臨時国会最大の山場を乗り切る道筋が見えたわけだ。
 今回、国民民主の協力により補正予算が通ることになれば、来年の通常国会でも、国民民主との間でうまく取引すれば、25年度当初予算も成立させられると、石破首相は期待を膨らませていることだろう。
 国民民主も、自公政権から大きな譲歩を引き出し、衆議院選挙で有権者に約束した二つの政策を完全ではないものの、選挙後わずか2カ月で前に進めるという結果を出したことで、今後の政局の鍵を握る最重要プレイヤーとしての地位を確立したと言って良い。国民民主の支持者は拍手喝采というところだろう。
 また、今回の合意は、同党の玉木雄一郎代表の不倫スキャンダルから有権者の注意をそらし、大きくダウンした同党のイメージを回復するのに貢献することも確実だ。
 すでに出ているいくつかの世論調査で、急激に上昇している同党の支持率はさらに上がり、野党の中ではダントツの存在感を持つことになりそうだ。
 一方、玉木代表を中心とした国民民主の「大活躍」と比較して、ほとんどマスコミから忘れられた感の強い立憲民主党野田佳彦代表は何をしているのだろう。
 国民民主は、衆議院選で議席数を4倍に増やしたが、絶対数はわずか28議席に過ぎない。伸び率で見れば、これに劣るとはいえ、立憲・無所属会派の議席数は148で、絶対数では国民民主の5倍を超える。衆議院の予算委員長ポストも確保し、自公政権に対して、非常に大きな影響力を行使できるはずだ。それだけでなく、自公政権とともに国政を運営する上で大きな責任も担っていると言って良いだろう。
 野田代表は、首相経験者でもあり、玉木代表とは格が違う。安倍晋三氏以降の歴代首相が自民1強で野党の意見など全く聞く耳を持たなかったのと違い、少数与党という弱い立場にあり、また、元々誠実な政治姿勢で知られる石破首相との間で、誠意を持って協議をすれば、国民のためになる多くの政策変更を勝ち取ることができるのではないだろうか。
■野田代表は「企業・団体献金の廃止」を取引材料に
 野田代表が強調している政治資金改革については、11月21日に自民党が政策活動費の廃止方針を決定するなどいくつかの進展は確実な状況だが、これは、立憲の功績ではなく、世論を恐れて自民が譲歩しているに過ぎない。
 本丸の企業・団体献金の廃止について、「来年度予算成立前に結論を出し、通常国会中の法案成立を目指す」こと、それが無理なら、「通常国会中に結論を出す」という内容で、自公と合意し、今後の攻勢を強める足掛かりにすることくらいはできそうなものだが、そのための取引材料を野田代表が出しているかというと、全くそんな動きは見えない。ただ、要求を出すだけで、相手が断ってきたら批判するという従来どおりの対応に見える。
 幸い、事態は、11月12日配信の本コラム「自民党の命綱『企業・団体献金」の廃止に抵抗する国民民主・玉木代表を信じるな! 石破首相は今こそ『政界再編」を決断すべき』で指摘したとおりの展開になってきた。
 石破首相は、今のところ、企業・団体献金の廃止に踏み込むことはしていないが、これを完全に否定する姿勢をとっているわけではない。自民党政治改革本部事務局長の小泉進次郎環境相は、与野党協議のなかでこの問題を議論していく考えを示したが、これは当然石破首相の意向を反映したものだとみるべきだ。
 立憲の野田代表は、今すぐに、石破首相に会談を申し入れ、上記の要求を提示すべきだ。そして、その見返りに補正予算への賛成をすると約束する。立憲としては譲歩しすぎだという声も出そうだが、補正予算をめぐる舞台で全く役割を果たせず、従来どおり、ただ反対して終わりということになるのに比べれば、はるかにマシだ。
 しかも、この取引は、自民に対して大きな貸しを作ることになる。なぜなら、立憲の賛成があれば、国民民主の協力は不要となる。したがって、年末の税制改正大綱で具体的に決める年収の壁の引き上げ幅を小さくしたり、ガソリン税のトリガー条項については単に検討の先送りといった結論にしたりすることが可能になるからだ。
 これにより、野党の中で国民民主だけが政策決定に関与できるという状況を変えて、立憲が何をするかで政治が動くという状況を作ることができる。年明け以降のゲームの枠組みを転換することにつながるだろう。
 企業・団体献金について上記のような合意ができれば、国政の表舞台でこれを主要テーマにすることができる。実は、これは、自公との対立軸を作るだけでなく、国民民主に対して立憲が攻勢に転じる第一歩となる。立憲にとって、現在の最重要課題は、有権者を騙して自公を追い詰めているというような幻想を抱かせる「エセ野党」国民民主から、自公との対抗勢力の主役の座を取り返すことだ。
■「国民民主」は金をくれる団体のために動く政党
 そのために、まず、野田代表が玉木代表に直接会談を呼びかけ、その場で企業・団体献金廃止の法案の共同提出にイエスと言ってくれと表から協力を求めれば良い。玉木代表は、表では、「企業・団体献金が悪で、個人献金が善という立場ではない」とか「与野党が合意すれば廃止に賛成する」などと曖昧な態度をとっているが、実は本音では反対だろう。なぜなら、国民民主の支持基盤は自動車総連電機連合、電力総連といった民間労組で、組織内候補の議員も抱えているからだ。しかも、支持母体の労組の多くは大企業の組合が中心で、これらの大企業が困る政策には反対せざるを得ない。結果として、国民民主もこれらの大企業のために動くということになっている。
 つまり、国民民主は、金をくれる団体のために動く政党だという意味で、自民党と同じ性質の政党だということがわかるが、そんなことは、多くの国民は知らない。
 表舞台で野田代表から企業・団体献金廃止の法案の共同提出を求められれば、玉木代表は答えに窮するだろう。断れば、自分たちの本性を晒して世論を敵に回すことになり、来夏の参議院選で負ける可能性がある。
 玉木代表にイエスと言わせることができてもできなくても、政治資金改革で立憲が主導権を握れる。もし玉木代表がイエスと言えなければ、声高に玉木批判を展開できる。これによって国民民主支持層を立憲支持に取り込むことができるだろう。
 「政治資金改革なら立憲にお任せください」とPRし、「改革ブランド」を取り戻すのだ
 もちろん、自民に対しても、世論の声をバックにして、企業・団体献金廃止で攻勢をかける。
 石破首相は、ここで何らかの譲歩を示す可能性があると私は見ている。だからこそ、与野党協議の対象にすることを拒否していないのだ。協議してゼロ回答なら、世論をわざわざ怒らせることになる。そんなばかなことはしないはずだ。
 ただし、自民党内では、これに反対する声が圧倒的に多い。これが原因で党内対立が激化する可能性があり、それが与野党を超えた政界再編につながる可能性については、前述の本コラムで指摘したとおりだ。
 一方、政治資金改革だけで立憲が来夏までの政局の主導権を維持するのは難しいかもしれない。そこで、これ以外で野田代表が石破首相に提起すべきテーマを探してみよう。それを選ぶ基準は二つある。
 第1に、石破首相が自民の反対を押し切って立憲の提案に乗る可能性があること、第2に、国民民主が賛成しにくく、それが炙り出されることで国民民主が有権者の失望を買う可能性が高いこと、
 である。
 そんなものがあるのかと思うかもしれないが、実は、確かに存在する。
与野党交渉の切り札となる「同性婚
 今週はそのうちの一つだけを紹介したい。それは、同性婚を認める民法改正だ。
 これについては、11月5日配信の本コラム「支持率32%まで落ちた『石破茂首相」が再浮上する唯一の方法 それは『安倍政治」の完全否定だ』で紹介したとおり、同性婚を認めない現行の法制は憲法違反かどうかが争われた全国5地裁の六つの裁判で、違憲2件、違憲状態3件、合憲1件と判断が分かれていた。しかし、今年3月の札幌高裁判決に続き、10月30日に東京高裁でも違憲判決が出て、流れがほぼ決まった。マスコミも大きく報じ世論の関心も高まっている。
 同性婚を認める民法改正については、ほとんどの野党は賛成だが、国民民主は賛成の立場をとっていない。右翼の支持層に配慮してのことだろう。議論を通じてこの点に光が当たれば、国民民主への支持が下がる可能性が高い。
 自民もこれには反対の議員がまだ多いが、実は、石破首相は個人的にこれに賛成の立場だ。予算や重要法成立との取引のために、野党が民法改正案を出せば、賛成に回る可能性がある。
 同性婚はほんの一例だ。これらに限らず、立憲が目指す将来の国家像を示しつつ、自民との間で単なる人気取りではないとわかる責任ある態度での論戦を国会や公の場で堂々と行い、国民民主などとの違いを際立たせることができれば、自民の裏金などのスキャンダルだけに頼る党勢拡大策を脱して、長期的に持続可能な支持率向上の王道が開かれるだろう。
 その先には来夏の参議院選での大躍進、そして、それと同時に行われるダブル選挙あるいはそれがなくてもそれほど遠くはないと思われる衆議院の選挙において、自民を上回り、比較第1党になって、立憲主導の内閣を実現することにつながるのではないだろうか。
 珍しく、夢のある話になったが、実はこうした楽観論に思い切り冷や水を浴びせられるような話を立憲若手議員から聞いた。
 その話を始めると長くなりすぎるので、今回は紹介できなかった野田代表が取り上げるべき企業・団体献金同性婚以外のテーマとともに、次回以降にお伝えすることにしたい。
古賀茂明