ネットの「マスゴミ」批判にも一理あるのでは…日本一有名なネットニュース編集者が指摘する「上級国民しぐさ」への嫌悪感(2024年11月24日『デイリー新潮』)

負けたことが悔しい
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ネットと既存メディアの対立は深まるばかり
 ここ最近「マスゴミ」という言葉がXのトレンドで時々現れるようになった。きっかけは米大統領選と兵庫県知事選だ。基本的には大手新聞社と地上波テレビ、NHKが対象だが、なぜ、マスコミはここまで嫌われるのか? 
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 ネットとマスメディアを対立させて分析する構図は、実はこの20年以上続いている。根底には「エラソー過ぎるマスメディア」と「バカにされるネットの書き込み」が存在する。ジャーナリストの故・筑紫哲也氏は、1999年に「NEWS23」(TBS系)で、ネットの書き込みについて「便所の落書きに近い」と説明したが、このイズムは未だにマスメディア、特にテレビと新聞に根強く残っている。
 マスメディアの主張は基本的には「我々は裏取りをするし、少しでもあやふやな情報は出さないという判断をする。しかし、ネットはフェイクであろうが、裏取りがなかろうが、陰謀論だろうがいくらでも出せてしまい、それを信じる人々により、その情報が野放図に拡散する」である。
 それがよく表れたのが、「ネット情報が勝敗を左右した」とされる兵庫県知事選だ。東京都知事選の「石丸現象」とも共通する論調である。要するに、若手候補の斎藤元彦氏と石丸伸二氏はネットをうまく活用し、自身を素晴らしい人物であるかのように信じ込ませて、それで投票をさせた、というストーリーである。要は自分達が応援していた蓮舫氏と稲村和美氏がこの2人に負けたことが悔しかったのだろう。
真逆のテロップ
 テレビ朝日スーパーJチャンネル」では、兵庫県知事選で斎藤元彦氏が勝ったことを暗に「ネットの偽情報を信じたバカが投票に行き、本来の選挙結果を覆す結果となった」と言いたい気持ちがプンプン表れた。同放送で登場した解説にはこうあった。
「背景にナニが? 専門家が解説 知事選“逆転劇”カギはSNS戦略」がコーナータイトルで、こう分析された。
【テレビや新聞】“公平”な報道→候補者を取り上げる面積・時間などを配慮
SNS】“規制なし”→候補者の“露出”に差“デマ情報”も含まれる
 テレビや新聞は信頼に値する情報を発信し、SNSは信頼できないと述べているのである。あのさ、笑わせるなよ。テレビや新聞が述べてきた誤情報や不祥事を挙げますよ。
 納豆・寒天・ココア・リンゴ・を体内に摂取すると痩せる/沖縄の海のサンゴに「KY」と書いた不届き者がいた(朝日新聞)/従軍慰安婦は強制連行だった(朝日新聞)/トランプ氏の勝利はない! (2016年、2024年米大統領選挙)/イソジン的なうがい薬でコロナウイルスに対抗できる/ジャニーズ事務所性加害問題などは存在しない。週刊文春が騒いでいるだけ/テレ朝「ニュースステーション」が所沢の野菜にダイオキシンが混入していると報道/大阪府堺市の給食で提供されたカイワレ大根O-157が混入していると報道し、それが誤報であることが明らかになり菅直人厚生大臣(当時)がカイワレ大根を食べるパフォーマンスをする/石原慎太郎氏が北朝鮮拉致被害者を救う会の主催したイベントで「私は日韓併合を100%正当化するつもりゃ無いがね…」と発言したが、TBS「サンデーモーニング」では「私は日韓併合の歴史を100%正当化するつもりだ」と真逆のテロップをつけた。
上級国民しぐさ
 STAP細胞で論文捏造をした小保方晴子氏を徹底的に「リケジョの星」ともてはやした/テレビ朝日「モーニングショー」、安倍晋三氏の葬儀における菅義偉氏の弔辞について「電通が入っている」と誤報/毎日新聞の英語サイトWaiWaiが、「日本の母親は息子の性欲処理をする」などと報じる/新型コロナウイルスのワクチンにより被害を訴える人々がNHKの取材に応じたが、「コロナ被害者」と報じる
 地上波テレビの場合、特権的な放送免許を持った局が独占的に電波の使用をすることができ、参入障壁は極めて高い。新聞にしても、組織力や土地、輪転機に配達網がなくてはその事業をすることなど不可能である。だからこそ両メディアはプライド高く「我々がプロとして足で稼いだ情報は質が高い。素人が責任もなく勝手に書くネット情報は嘘まみれで質が低い」といった上級国民しぐさをするのである。
 今回の米大統領選では多くのメディアが「ハリス氏が勝つ」と予想し、トランプ氏の言動をこきおろした。兵庫県知事選では、斎藤元彦氏をパワハラ体質の極悪人で告発した職員を死に追いやった、というストーリーで選挙前に徹底的に糾弾した。東国原英夫氏と泉房穂氏のように、政治家経験のあるコメンテーターは斎藤氏批判を展開。いずれの選挙にしても善悪をハッキリとつけたうえで、番組が応援する候補を支持する出演者を呼び、その論調を作り上げる。
民意を読めない大手
 仮にトランプ氏と斎藤氏を支持する出演者がいたとしても、スタジオでは少数派になるため、真っ向から反論するのは憚られる。それに、この2人を支持していることを明言すると差別主義者やパワハラ容認者と捉えられかねない。
 実際のところ、結論ありきでそれに沿った都合の良い情報ばかりテレビも新聞も出してくるのに「我々は公正な報道をしている。それにひきかえネットの情報は偏っている」と信じ込んでネットをバカにするから「マスゴミ」と呼ばれるのだ。
 両メディアの凋落っぷりが「マスコミ離れ」の実態を表し、人々から呆れられて「マスゴミ」扱いされることの表れとなっている。具体的な数字を見てみよう。
 ブロガーの不破雷蔵氏が2023年12月にYahoo! に寄稿した記事では、「総視聴率」の年ごとの推移をグラフ化している。ゴールデンタイムの視聴率は1997年度下期は71.2%だったのが、2023年度上期は49.2%に下落している。全日については1998年度下期が45.7%で2023年度上期は32.8%。
 週刊現代2023年12月23日号では、2003年と2022年の大手新聞の発行部数を比較している。読売新聞は1006万部→684万部(-32%)、朝日新聞は831万部→429万部(-48%)、毎日新聞は398万部→192万部(-52%)、日本経済新聞は301万部→174万部(-43%)産経新聞は211万部→101万部(-52%)だ。
 いつまでもネットをバカにしているから米大統領選も兵庫県知事選も民意を読めなかったのだ。さらに、自分らの望む結果にならなかったら「ネットの誤情報を信じた主体性のない騙されやすい人々が間違った投票行動をした」と分析する。そんなことを続けたらますます「マスゴミ」扱いは加速し、視聴率も発行部数も低迷するだろう。
 
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部