堂々の勝利宣言
「SNSのプラスの面を強く感じた」「県民一人一人の勝利だ」──。神戸市中央区の選挙事務所前に集まった1000人近い支持者を前に堂々の勝利宣言だ。兵庫県知事選は17日の投開票の結果、県議会の不信任決議を受け、自動失職した斎藤元彦前知事(47)がまさかの再選。前尼崎市長の稲村和美氏の圧勝とみられた下馬評を覆し、逆転した格好だ。パワハラやおねだりなど、さまざまな疑惑で県庁を追われた斎藤氏がなぜ逆風をはねのけ、支持を集めたのか。カオスな出直し選を制したキーワードは「同情論」と「陰謀論」だ。
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9月30日の失職直後から独りぼっちで駅前に立ち始めた斎藤氏に声をかけるのは当初、数人程度だったが、しょんぼりした様子がSNS上の支持者を通じて拡散。日を追うごとに「同情」を誘い、10月31日の告示後は聴衆の輪が広がり、16日に最後の演説会場となった神戸・三宮駅前には3000人が詰めかけた。
「この2週間で聴衆の数は3~4倍に膨らみました」(地元記者)
目立つのは年配の女性や若者たち。手づくりうちわや陣営のシンボルカラーの青いペンライトを振り“斎藤コール”が沸き上がる熱気は、まるでライブ会場のよう。有権者の関心も高まり、期日前投票数は94万4541人と前回から34万人上回り過去最多を更新。投票率も55.65%と11年ぶりに50%を超えた。
「裏金問題で党員資格停止中の西村康稔元経産相の地元・明石市の青年部は、斎藤陣営のビラ配りに加わっていたほど。また、日本維新の会を離党した前参院議員の清水貴之氏が出馬し、反斎藤票が割れたのも勝因のひとつ。その維新の地元議員の一部も斎藤氏を支援。清水氏が伸び悩んだのはそのためです」
告示前には斎藤氏の告発文書を作成し、百条委員会での証言直前に亡くなった元県民局長の個人情報が流出。それをもとにSNSや街頭演説で「告発者は問題のあった人物。斎藤さんは悪くない」と擁護しまくったのが、N国党党首の立花孝志氏だ。
立花氏は立候補しながら、「自分には票を入れないで」と訴え、斎藤氏の支持拡大をアシスト。選挙ポスターの掲示板に「元県民局長自殺の真相」と題し、流出した元局長の個人情報に基づく文書まで貼り出した。
■「既得権益者vs改革派」の構図を演出
「故人への冒涜でしかないのですが、『既得権益者vs改革派』の構図をつくり出し、かなり浸透したのも事実。斎藤氏も改革の実績を強調し、便乗しました。しかも、選挙期間中にメディアは県知事選の報道を控えた。否定材料を有権者に与えないから、ますますSNSの陰謀論が信憑性を持って受け取られてしまう。県内市長会の有志22人が稲村氏支持を表明した際、ある市長は『なぜメディアはデマや誹謗中傷に沈黙するのか』と声を荒らげましたが、時すでに遅しでした」(横田一氏)
斎藤氏のパワハラ疑惑に関する県職員のアンケートでは約4500件の回答のうち約300件が実名で答えていた。民意を味方につけた出戻り知事の“報復”に職員たちは戦々恐々だろう。これでいいのか。
再選の斎藤氏巡り百条委再開
前任時は兵庫県議会百条委員会での証人尋問に臨んだ(代表撮影)
斎藤氏の疑惑告発文書を巡り、県議会は18日午後に百条委員会を開く。25日に問題に関連した総括的な尋問を関係者に行う予定で、対象の選定や今後の進行を協議。斎藤氏への尋問も今後再開される見通しで、知事復帰が決まった斎藤氏の疑惑検証に注目が集まる。
斎藤氏は19日就任し、再選後としては初登庁する。百条委は、10月下旬に告発文書で挙げられた阪神・オリックス優勝パレード経費を巡る不正疑惑などに関し、県幹部らを非公開で尋問。知事選への影響を配慮して斎藤氏については見送られた。10月分の議事録や録画映像が今後公開される予定だ。
また県が設置した第三者委員会も今年度中をめどに報告書をまとめる予定で、斎藤氏はこの問題と向き合っていく必要がある。知事選で勝利したとはいえ、県政の混乱がただちに収束するかどうか、現時点では見通せない。
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今回の兵庫県知事選、異様、異常とも言うべき前代未聞の展開について、関連記事『【もっと読む】激震!兵庫県知事選で斎藤元彦前知事の再選が示した「大手メディアの限界」』でも詳報している。