「今や5割超え」総合・推薦入試の形式と対策の要諦  かつての指定校推薦やAO入試などとは大きく変化(2024年10月21日『東洋経済オンライン』)

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総合・推薦入試を使って進学する人が増えています。入試直前になって戸惑わないよう、早めに情報収集をして対策を立てておきましょう(写真:maroke/PIXTA
いまや、一般入試で大学に入る人は5割以下。半数以上の学生が“一般入試以外”の方法で大学に入学しています。 かつては、指定校推薦やスポーツ推薦、自己推薦、AO入試などと呼ばれていた総合・推薦入試も、今は内容が大きく変化しています。個別指導塾塾長の小林尚氏と推薦入試専門推進塾塾長の橋本尚記氏に、最新の推薦入試事情や傾向などを聞きました。
※本稿は小林尚・橋本尚記著『提出書類・小論文・面接がこの1冊でぜんぶわかる ゼロから知りたい 総合型選抜・学校推薦型選抜』から一部抜粋・再構成したものです。
■2021年度の一般入試枠の割合は? 
 総合・推薦入試(本記事では、以降まとめて推薦入試と呼びます)を使って進学する人が増えていることは、聞いたことがあると思います。実際にどの程度の人が利用しているのか、その割合を見ていくことにしましょう。……ここでクイズを出しますね。答えを1つ選んで読み進めてください。
Q.文部科学省によると、2000年度の一般入試枠は全体の65.8%でした。
では21年後の2021年度、この数値は何%だったでしょうか。
➀ 60.3% ➁49.5% ➂20.3%
 ……考えてみましたか?  答えは②です!  直近ではさらに多くの大学で推薦入試が拡大しているため、この割合はさらに減少していると予想されます。
 大学入試といえばペーパーテストであり、机に向かってひたすら勉強するイメージがありますが、今ではむしろそれ以外の方法で入学している受験生が多くなっています。では、いったいどういった入試形式の割合が増えているのでしょうか。
 一般入試以外の入試は、総合型選抜と学校推薦型選抜に分かれます。
 ここでは簡単に全体像をお伝えしておきます。
■総合型選抜と学校推薦型選抜
 総合型選抜は2020年度より以前はAO入試と呼ばれていました。こちらの名前なら、聞いたことがあるかもしれません。
 文部科学省の発表によると「詳細な書類審査と時間をかけたていねいな面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法」とされていますが、正直、これを見ても何を言っているのかわかりませんよね。
 簡単にいえば、合否の判定に、ペーパーテストの点数ではなく、受験する人の意欲や大学との相性を重視します。そして、書類選考や小論文、プレゼン、面接などの方法によって、受験生を評価します。
 一方の学校推薦型選抜ですが、こちらは昔、指定校推薦や公募推薦と呼ばれていたものが合体したものです。高校の校長先生の推薦にもとづき、受験生の知識や思考力、学習歴や活動歴などをふまえて評価する入試方法です。
 こちらも簡単にいえば、学校の成績や課外活動、資格試験、志望大学に対する熱意を評価する選抜方法です。
 しかし、この学校推薦型選抜にも種類があります。ここからは説明のため、指定校型、公募型と名前をつけ、この学校推薦型選抜をさらに2つに分けて説明をしていきます。
■学校推薦型選抜には2種類ある
 まずは学校推薦型選抜(指定校型)ですが、これは大学から高校に一定数の枠が与えられ、その枠の中で高校が生徒さんを推薦する形式です。昔の呼び方で「指定校推薦」といわれれば、おわかりの方も多いでしょう。
 たとえば、A大学からX高校に指定校枠が2つ与えられたら、X高校から2名進学できる保証があるのです。学校の中では、この2名を決めるために学校の成績や試験を使った校内選考がおこなわれます。この校内選考があるため、大学を受験する段階で不合格になることはめったにありません。
 指定校型の中には、大学の附属高校や系属高校からそのまま上位大学に持ち上がる内部進学という形式もありますが、これは大学の一貫校に通っていなければ関係ないため、説明は省略します。
 最後に、学校推薦型選抜(公募型)ですが、これは指定校型と異なり、学校ごとの枠がない形式です。「校長先生の推薦」はもちろん必要ですが、校内選考はなく、あくまで形式的な推薦です。素行不良や欠席が多すぎることがなければ、問題なく推薦されるケースが多いです。
 しかし公募型には別のハードルがあります。指定校推薦のように校内選考がないかわりに、大学・学部ごとに出願条件と試験があるのです。総合型選抜と同様に出願条件や試験があり、他の生徒さんと競うことになります。
■推薦入試でチャレンジできる回数を増やす
 このほかにも、帰国生選抜や社会人選抜など一部特殊な選考方法はありますが、読者の方のほとんどがこれらの対象となることはないと思いますので、こちらについても説明は割愛します。
 近年ではSNSの発達に伴い、入試方式についての情報も多く飛び交うようになりました。特定の方式を批判する意見も見られますし、私個人の考えもあります。しかし、大切なことは「すでに存在するルールの中でもっとも効果的に戦う」ことだと思います。
 少なくとも受験生にとっては、入試方式を選んで合格確率が上がるなら、それが正解に決まっています。
 スケジュール上これら推薦入試は一般入試より早く終わることがほとんどです。ですから、ひとまず推薦入試にチャレンジしてもし失敗したら一般入試に回る……という戦略も考えられます。一般入試をメインで考えている方も、推薦入試によってチャレンジできる回数や可能性を増やせないかという観点で、この先を読み進めてください。
 ここからは推薦入試の概要について、よりくわしく説明していきます。まずは総合型選抜からです。かるくおさらいすると、これは受験者の意欲や大学・学部との相性・適性が重視される入試です。
 総合型選抜と聞くと、部活動の大会で優勝した人や作文コンテストで表彰された人など、特別な実績がないと合格できないものだと思うかもしれません。実際、昔はAO入試と呼ばれ、世の中では「一芸入試」ともいわれていました。一芸というだけあって、高校時代に部活や資格試験で活躍した人が合格していました。
 しかし、現在は異なります。はじめに述べたように、総合型選抜では志望理由を書いた書類での選考や、大学で学びたいことを話す面接での選考などがおこなわれます。
 つまり学力以上に、受験生と大学との相性や適性が見られます。ですので、大学卒業後にやりたいことが決まっている。そして大学で勉強したいことが決まっている。それがその大学、学部でこそ学べるものである(=自分と大学がマッチしている)。そんな人が合格しやすいのです。特殊な経歴がないと合格できないというイメージは捨てましょう! 
 自分の将来像が明確になっている人(もしくはこれから明確にしたいと思っている人でも大丈夫! )なら、幅広くチャレンジできます。
 
■総合型選抜ではビジョンと実績の「つながり」が重要
 そうなると、将来やりたいことや大学で勉強したいことを早めに決めて、それが実現できる大学を探しておくことが大切です。かつ、将来の妄想をするだけでなく、具体的な行動をスタートできるとすばらしいといえます。
 想像してほしいのですが、プロ野球の試合を見て「野球選手になりたい」と言っているだけの子どもと、グローブやバットをそろえ、野球チームに入って練習もしている子どもがいれば、どちらが野球選手に向いていると思いますか。当然、後者の子どもでしょう。
 総合型選抜も同様です。将来やりたいことが決まっていて、すでに勉強や活動を始めている人の方が、意欲があると判断されます。そこに実績があると、さらに有利になります。
 先ほどの例なら、野球選手になりたい子どもが、すでにチームのレギュラーにもなっていたらどうでしょうか。もちろんかならず野球選手になれるとは限りませんが、周りの大人の期待は高まります。これが、総合型選抜において実績があれば有利である理由です。
 ただし、実績だけで合否は決まりません。あくまでも志望理由や将来のビジョンと実績の「つながり」が見られるのです。志望理由と「つながっていない」実績は、高く評価されません。ですから、まずは将来やりたいことや大学で学びたいことを明確にすることが、もっとも大切な一歩です。
■指定校型の合格率は、ほぼ100%! 
 続いて、学校推薦型選抜(指定校型)について説明をしていきます。これは一言でいってしまえば、評定平均の高い人が合格する入試形式です。(学校にもよりますが)高校は大学の推薦枠(これを、「指定校枠」といいます)を持っています。
 その指定校枠の中で、高校は大学に生徒を推薦することができます。しかも、その推薦を得ることができれば、ほぼ100%で大学に合格できてしまうのです。「ほぼ100%」といわれると、お得なものに感じますね。実際、指定校型は大変人気で、有名な大学の指定校枠はどの高校でもたいてい希望者が殺到します。
 では、希望者がたくさんいて、指定校枠がいっぱいになってしまった場合、どうなるのでしょうか。そのときは希望者を選抜するために、学校が校内選考をおこないます。そしてこの校内選考は、基本的には評定平均で決まります(一部の学校では試験をおこなうこともあります)。
 そしてこの評定平均ですが、3年間(3年生の1学期まで)を平均した数字を使います。ですから、指定校型を使いたいと思っている人は、高校1年生のときからしっかりと評定平均を取ること、つまり定期テストの対策を進めておくことが大切です。
 一応、この校内選考が終わったあと、面接などの選考を受けることになるのですが、ここで落ちる生徒はほとんどいません。たとえば、大学に通うモチベーションがない、面接でコミュニケーションが成り立たない、あるいはそもそも面接に来ない。そういうことがない限りは、合格することができます。
 指定校型は評定平均で推薦をもらえるかどうかが決定しますので、3年間しっかり定期テスト対策をし、提出物を出せる人に向いています。つけ加えるなら、得意不得意があまり目立たず、文系・理系それぞれ満遍なく勉強できる、オールマイティな人に向いているともいえます。
 逆に、「数学はすごくできるけど、歴史の暗記物だけはどうしても……」「地理は好きだけど、化学だけは拒否反応が……」。そんな人にはあまり向いていません。なぜなら、文系・理系にかかわらず、評定平均の計算対象になるからです。
 そういう人は、受験で使用する科目を文系か理系で限定できる一般入試や、得意な分野で一点突破が見込める総合型選抜の方が向いているかもしれません。文系・理系問わずどの科目もこなすことができて、地道に勉強を継続できそうな人は、ぜひ学校推薦型選抜(指定校型)を考えてみてください。
■学校推薦型選抜(公募型)とは? 
 公募型はかつては公募推薦と呼ばれていました。「公募」という言葉通り、世の中全体から募集する形式ですので、高校ごとに枠があるものではありません。
 ただし、出願には条件があります。高校生であればほぼ誰でもクリアできるものから、少し厳しい条件まで、さまざまです。しかし、少なくとも条件をクリアしていれば誰でもチャレンジできるのです。
 公募型に挑戦するには校長先生の推薦が必要ですが、高校ごとに枠があるわけではない(=高校の中で推薦する人を選抜しなくてよい)ので、素行不良や常識はずれの欠席日数などがなければ、ほとんどの人がもらうことができます。ですので、出願には大学が求める条件のみがハードルになると考えていただいて大丈夫です。
 公募型の出願条件は、総合型選抜と比べると少し厳しい傾向があります。
 評定平均や英検、高校での履修科目などが条件になります。人気大学や難関大学の場合、たとえば評定平均で4.0~4.3以上、英検で2級や準1級が求められることもあります。理系の場合、高校で数学や理科の履修が条件となることもあります。
 また指定校型とは異なり、出願後も面接や小論文が課され、しっかりと合否をつけられます。指定校型のように推薦をもらえればほとんどが合格するわけではないのです。ですので、指定校型と同じで、まずは評定平均を上げなければなりません。
 ただし、それだけでは十分ではなく、総合型選抜と同じように大学で学びたいことを決め、面接で話せるようにしておかなければなりません。そういう意味で、この公募型は総合型選抜と指定校型のちょうど間くらいに位置するといえます。
■公募型に向いているのはどんな人? 
 総合型選抜と指定校型の中間が公募型である以上、それぞれのどちらかに決めきれない人、またはどちらかの保険として使いたい人に向いています。
 まずは総合型選抜で必要となる将来像が決まっていること、そしてそれを実現するために大学で勉強することが決まっていること。そして指定校型で必要な評定平均。どちらもバランスよく取り組める方にはベストといえるでしょう。
 もちろん、総合型選抜と指定校型の要素が両方求められると聞くと、なんだかハードルがとても高く感じるかもしれません。しかし、それぞれの要素で求められるレベルはそれほど高くはありませんから、安心してください。
 たとえば指定校型では評定平均4.7くらいないと推薦がもらえない大学でも、公募型では評定平均4.0くらいで出願できることもあります。ですから、それぞれのプロフェッショナルではないけれども、両方ともバランスよくこなせる人に向いているのです。
 以上が推薦入試の概要です。選抜方法は大学ごとに異なるうえに選抜方法や出願条件はめまぐるしく変わり続けていますから、入試直前になって戸惑わないよう、早めに情報収集をして対策を立てておきましょう。 
小林 尚 :個別指導塾CASTDICE塾長/橋本 尚記 :推薦入試専門推進塾塾長