旧統一教会問題で逆風…自民の山本朋広氏と山際大志郎氏、異例の“ステルス作戦” 衆院選・注目区ルポ(2024年10月20日『 神奈川新聞』)

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自民・山本朋広氏と旧統一教会との関係を追及し、ジャーナリスト・鈴木エイト氏を招いた集会のチラシ
 
 衆院選では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が取り沙汰された自民党の前職2人に強い逆風が吹いている。神奈川4区・山本朋広は「マザームーン」発言が報じられ、神奈川18区・山際大志郎も教団トップと撮影した写真などが決め手となって経済再生担当相のポストを追われた。教団との関係を追及し攻勢をかける野党陣営に対し、序盤戦はマスコミへの露出や街頭活動の告知を控える“ステルス作戦”も展開。これまで地元に十分な説明もなく、有権者が向ける視線は厳しい。=敬称略
 ■「マザームーン」連呼、他陣営が追及
 「本日は母の日で一足早く、マザームーンにカーネーションの花束をプレゼントしました。実の母親にもあんな立派な花束を贈ったことはありません」
 公示日の15日、JR本郷台駅前(横浜市栄区)で行われた立憲民主党前職・早稲田夕季の街頭演説。応援に駆けつけた元県議・関口正俊はマイクを握り、山本の“まね”をしたつかみであいさつをしてみせると、聴衆から笑い声が漏れた。
 山本は2017年、旧統一教会主催の集会に出席し、教団トップの総裁・韓鶴子(ハンハクチャ)を「マザームーン」と連呼する様子や関連団体から選挙応援を受けていたことが報じられた。山本は取材に「韓鶴子の韓国語の読み方が分からなかった」と釈明したが、関口は「裏金問題で隠れているが、教団の問題を突けば、コアではない公明党支持層を引きはがせる」と勝機をうかがう。
 今年6月には早稲田を支持する市民団体が教団問題を追及するジャーナリスト・鈴木エイトを招いて鎌倉市内で講演会を開き、山本と教団との関係を追及。団体の代表者は「多くの被害者を出した教団と関係を持つ人間を再び国会に送るわけにはいかない」と攻め立てた。
 ■「カルトにノー」も隠密行動
 「急所」を突く野党側の攻勢に対し、山本はあえて公約に「カルトにノー」と掲げる作戦だ。チラシや選挙公報で「(教団側が)政治団体を名乗り、接触を図ってきた」と釈明し、関係断絶をアピールする。
 ただ街頭では有権者の前でマイクを握って直接説明する場は少なく、立候補予定者4人を対象にした公開討論会も山本は唯一欠席した。山本は「自分が出席できない日程で討論会が開催された」と主張するが、対立陣営は「教団の問題を突かれたくなくて欠席したのでは」と批判を強める。
 さらには集会や街頭活動の日程も安全面を理由に告知せず隠密行動。当初は報道陣にも選挙日程すら教えなかった。山本は「テレビカメラが殺到すると困る。マスコミから逃げているわけではない」と釈明。事務所関係者は「選挙カーがマスコミの車に追いかけ回された。ボランティアスタッフも撮影され『もう応援に行けない』と怖がっている」と打ち明ける。
 山本は問題発覚から半年近く、地元の会合や祭事なども多くを欠席。その後も人前を避けるかのように街頭に立つ機会も減ったといい、地元では「街頭でほとんど見なくなった。統一教会について有権者に説明していない」との声も広がる。山本がカメラから逃げ回る様子が報道されたことも反感を買い、有権者の1人は「カメラの前で正々堂々と説明せず、鎌倉市民まで恥ずかしい思いをしている」と憤りを見せる。
■報道陣締め出しに雲隠れも
 さらにマスコミからも有権者からも身を隠すステルス選挙を展開するのは山際だ。公示日の15日に川崎市高津区のホールで行われた出陣式では代表取材としてごく一部の報道機関しか入れない異例の対応を取った。入り口前では締め出された報道陣やフリージャーナリストが陣営関係者と言い争う場面もあった。
 同日夕の武蔵小杉駅前の街頭活動でも本人不在のまま、地元市議や秘書が通勤者らに支持を呼びかけた。序盤では本人が街頭でマイクを握ることはほとんどなく、候補者本人が雲隠れする選挙戦となり、陣営関係者も「本人が決めたことだから仕方がない」と漏らす。日本維新の会新人・横田光弘も「有権者をなめているとしか思えない。どんな年配の議員でも有権者の前に出てくるもの。やはり(教団と)ズブズブなのでは」と首をかしげる
■身内の県議が「反乱」
 こうした対応のきっかけとなったのは公示直前、地元県議の小川久仁子(高津区)が山際と教団との関係を告発した週刊誌報道。小川は自民党側に離党届を提出し、鈴木が同席する形で会見も開いた。山際が教団との関係を絶っていないとして、山際の党公認や党県連のこれまでの対応を批判。「このままでは山際氏を応援することはできず離党を決断した」と涙ながらに訴えた。
 身内からの「反乱」を潮目に野党も批判を集中。立民新人・宗野創は「新たな事実が出てきたのだから再調査すべき。疑惑があるなら、それに答えないといけない」と指摘。別の陣営も「自民支持者を固めれば勝てると思っている。そういった姿勢が政治不信を招いている」と怒りを口にする。
 選挙戦も中盤に入り、山本、山際ともここに来て対応を改める動きを見せてはいるものの、本質を見抜く鈴木は「こそこそとメディアから逃げ回っている。有権者に政策を伝えることを軽視するのは民主主義の否定だ」と2人の姿勢を批判している。
 神奈川4区ではほかにいずれも新人で、維新・加藤千華と参政党・津野照久、神奈川18区では共産党・君嶋千佳子、国民民主党・西岡義高が立候補している。
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「カルトにノー、イエス山本」旧統一教会問題争点の衆院神奈川4区、与野党が神経戦(2024年10月18日『産経新聞』)
 
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JR鎌倉駅前で演説する候補者=17日、神奈川県鎌倉市
今回の衆院選(27日投開票)で、野党は「政治とカネ」の問題ばかりでなく、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係についても自民党を厳しく責めている。自民側は令和4年に所属する全国会議員を対象にした調査結果を公表し、旧統一教会との関係断絶を宣言したはずだが、今回も争点としてくすぶり続けているのが実情だ。
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■「マザームーン」連呼を釈明
「彼女のニックネームがそうだと聞いたので」
公示翌日の16日午後7時前、神奈川県鎌倉市のJR大船駅東口で、通りかかった男性が、衆院神奈川4区に出馬した自民党の前職、山本朋広元防衛副大臣(49)に詰め寄った。
山本氏はチラシを配る手を止め、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が主催するイベントで韓鶴子総裁を「マザームーン」と連呼したことをこう釈明した。「関係がないということを証明するのは難しい」などと10分以上会話を続け、最後は笑顔で握手を交わした。ただ、男性は「悪いけど票は入れないよ」と言い残し、去っていった。
近くに停めていた山本氏の選挙カーからは「カルトにノー、イエス山本とご判断を」と女性運動員の威勢のよい声が響いていた。しかし、「候補者本人とお話をしながら意見を交わしていただけますよう」というアナウンスとは裏腹に、山本氏は演説の予定を明かさないゲリラ戦を展開している。陣営スタッフは「どこで演説するかは本人が決めるので(予定は分からない)」と答えるのみだ。山本氏に真意を尋ねたが「うちの事務所は自立型。勝手にみんなで企画立案をやっている。(自分は)まな板の上の鯉状態」と記者を煙に巻いた。
教団との関係を絶ったことを強調する山本氏だが、地元の声は冷ややかだ。市内に住む50代の男性会社員は「極端だよね。軽く考えているから、『マザームーン』とか、手のひら返して『カルトにノー』とか、いえるのだろう」と語る。
■立民、批判も演説は閑散
「旧統一教会問題、裏金事件、一過性のスキャンダルではない。自民党という巨大政党の構造的な問題だ」
17日午後4時半ごろ、JR鎌倉駅でこう訴えていたのは、立憲民主党の前職、早稲田夕季氏(65)だ。
前回の令和3年衆院選では、早稲田氏が同区で約6万6000票を獲得し、議席を確保した。自民党籍を持ちながら無所属で出馬した浅尾慶一郎環境相が6万3000票で2位。山本氏は4万7000票で3位になったが、比例代表の重複立候補で復活当選を果たしている。
同日の午後6時、早稲田氏は横浜市港南区のJR港南台駅に立った。のどの不調で時折せき込みながら「10万票対6万。本当に厳しい選挙だ。政権選択選挙ですから負けるわけにはいかない」と訴えた。
同駅は神奈川2区の管轄内で、自民党の重鎮・菅義偉元首相(75)の地盤だ。ただ、4区の住民の多くが利用するターミナル駅ということも踏まえ、早稲田氏は〝場外乱闘〟を仕掛けた。目と鼻の先では菅陣営がチラシを配布していた。
早稲田氏は、「政治とカネ」や旧統一教会問題など、自民のスキャンダルを執拗にあてこするが、追い風は力強さに欠けている。前回は浅尾氏に投票したという70代の主婦は「どこも決め手がない」と悩まし気な表情を浮かべた。街頭では、早稲田氏に握手を求める人はいたが、演説に足を止める有権者は少なかった。
早稲田氏は新型コロナウイルス禍への対応や介護離職対策、最低賃金の引上げなど、衆院厚生労働委員会での実績を強調したが、30代の会社員の女性は「(立民が)本当に政治を変えられるのと思ってしまう」と語った後、家路を急いだ。
早稲田氏は「情勢調査で自分が優勢といわれても信じない」と話す。山本氏が浅尾氏の支援を強調しているだけに、早稲田陣営も必死だ。
4区には日本維新の会の新人、加藤千華氏(26)、参政党の新人、津野照久氏(57)も出馬した。加藤氏は「全国で2番目の若さの立候補」と強調し、若者や働く現役世代への支援を訴える。津野氏は「可処分所得を増やす」と消費税の減税や廃止を主張している。(高木克聡)