◆早期解散は本当に成功だったのか疑問
いわゆる「疑似政権交代」をして支持率が回復するという筋書きでした。しかし、国会できちんと議論してから解散するはずだったのに、野党の選挙準備が整わないうちにと、予算委員会を開かずに衆院を解散。共同通信社の第1回トレンド調査(今月12、13両日)によると、自民党支持率は37.7%もあるのに、比例代表の投票先では26.4%しかありません。これは、自民党支持者の70%にすぎません。早期解散は本当に成功だったのか疑問です。
―公示日の第一声で首相は、裏金事件に「深い反省」を表明しつつ「政治とカネ」への言及はわずかでした。そもそも何をやりたいのか伝わってこない印象があります。
選挙って、おわびから入ったら駄目なんです。仮にそうだとしても、「これからこれをやります」と訴えて、それに有権者が期待して1票を投じるわけですよ。だから今、有権者は「石破さんに入れてやろう」と積極的に思えない。野党も、自民党への不平不満をあおるばかりでは批判票を吸収できません。やっぱり政治って、夢を売ってなんぼの商売です。「私たちはこれをやる」というのが伝わらなければ、票は入らない。
◆「政治は変わらない」 有権者の視線は冷ややか
全然違いますね。93年と09年は「もう自民党は駄目だ」という雰囲気で、自民党はお手上げ状態でしたが、今回はそこまで突き刺さるような有権者の目は感じません。一歩距離を置いて、非常に冷めた感じがします。裏金事件や旧統一教会の問題が続き、「自分たちの生活はこんなに苦しいのに」という怒りが沈殿している状態ですが、爆発まではしていない。
―なぜでしょうか。
野党も期待できないし、「政治に何を言っても変わらない」と、政治全体に諦めがあるんだと思います。自分たちの生活にどう関わってくるかが見えないからです。残念ながら投票率も低いのではないでしょうか。「この政党に任せよう」という気持ちを起こさせないのは、政党側の責任だと思いますよ。
衆院選が公示され、演説に耳を傾ける人たち=東京都八王子市で(平野皓士朗撮影)
―野党も、過半数を得た場合の政権の枠組みを明示していません。
いくら自民党政治を倒すと言っても、政権を担当する心構えがあるのかということですね。
―肝心の議席獲得数ですが、どう予測しますか。
自民党は、特に東海地方から東側は苦戦しているところが多い。裏金事件で公認されなかった人たちを除くと、公示前勢力から十数人減らすだけで単独過半数(233議席)を割ります。非公認候補を追加公認しようにも、彼らは半分も当選できるでしょうか。守りの選挙戦では、議席は増えません。
―公明党はどうでしょう。
前回と異なり、公明党が擁立する大阪、兵庫の6つの小選挙区で日本維新の会の候補者と全面対決することになりました。公明党の石井啓一代表が立候補する埼玉14区も維新候補がいます。公明党にとっては戦力の分散を強いられます。大阪は自民党が弱いですから、自民党の協力もあまり期待できない。
維新に入る票は、もともと自民党には入れたくない人たちです。退潮が伝えられる維新が前回より票を減らした分は、自民には行かず、共産党にも行かず、立民に乗ってくるでしょう。立民は比較第1党までいかないでしょうが、議席はかなり増えると思います。
◆少子化、労働力不足、大災害への備え…まずは総括を
もちろん可能性はあると思います。世界情勢や国内情勢で何かが起きて空気が変わることもあるかもしれませんが、現時点で与党は厳しい戦いです。
衆院選が公示され、街頭演説に耳を傾ける人たち=東京都豊島区で(池田まみ撮影)
―選挙後、首相の責任問題になる可能性も。
―27日の投開票までに、どんな論戦を期待しますか。
少子化、労働力不足、大災害への備えなど、長年、放置されてきた国家的な問題があります。まずそこを総括してほしい。展望を示してほしい。野党も「私たちならこうします」という対案を示さないと、たとえ自民党政治を倒しても元のもくあみになってしまいます。
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<久米晃が解く 政界の実相>
選挙・政治アドバイザーの久米晃さんに、時々刻々の政治の動きを解説してもらいます。久米さんは約40年にわたって自民党職員を務め、バッジをつけた国会議員とは違う立場から、政治の動きを見続けてきました。特に選挙の実務経験が豊富で、政界の裏も表も知り尽くした人です。豊富な知識や経験を基に、今の政治のあり方に警鐘を鳴らしてもらいます。