「不満を抱かざるを得ない」検事総長はなぜ“異例の談話”を発表したのか 元検事「“捏造”と刺激をした」「士気の問題」 袴田事件(2024年10月14日『ABEMA TIMES』)

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袴田巌さん
 いわゆる「袴田事件」で、半世紀にわたり死刑囚として生きてきた袴田巌さんに無罪判決が下った。9日、袴田さんの無罪が確定したが、新たな問題が浮き彫りとなった。

 

 

 今回の無罪確定は、同時に検察の姿勢、本質が改めて問われることに。検察は、畝本直美検事総長が異例の談話を発表した。
「本判決が『5点の衣類』を捜査機関の捏造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません。しかしながら、再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました」(畝本氏)
 地裁で認定された証拠捏造に強い不満を表明し、再審などで司法判断が長期にわたったことを理由に控訴を断念したとした。しかし裁判の長期化は、検察側が再審に不服を申し入れた結果でもあった。つまり検察はあくまで犯人は袴田さんであると認識していると解釈できる。
 これに対し弁護団の小川秀世弁護士は「袴田さんに対する謝罪がない。むしろ『捏造という認定自体がおかしいのではないか』そういう方向での談話だったと認識をしている。今回の検事総長の談話自体を撤回してくれというのが1つ。2番目は袴田さんに直接謝罪をしてもらいたい。3番目はきちんと捏造認定されたわけだが、証拠の開示がいちじるしく遅れている。そういう点も含めてきちんとした検証が必要である」と主張。
 その上で「無罪が確定した後、その無罪になった人に対して『やっぱり犯人だと私は思うよ』と警察あるいは検察が言うことがかつてはあった。それについて名誉毀損が認められた例がある。そういうことから、今回の検事総長の談話は非常に軽々しい。法律家としてとんでもない内容だったと思う」と苦言を呈した。
 検事総長の談話について検察出身者はどう見るのか。元検事の亀井正貴弁護士は「裁判所と検察の軋轢」だとして「裁判所の認定はもう覆らないと思っている。こういう認定をする、流れはもうこうなるから仕方がないと思っている。(検察は)裁判所の認定に納得していない」と推測した。
 同じく元検事の西山晴基弁護士は「(検察庁は)静岡地裁の無罪判決について正しいと思っていない。静岡地裁の判断の理由を見ていた時には、あの判決がおかしいと(検察庁)全体として思っているという談話」と印象を述べた。続けて「控訴は、するかどうかという時にどんなに判決の理由がおかしくても控訴しないということもある。ただおかしい判決の理由について、じゃあ次、控訴にいった時にそこを覆す判断を書いてもらえるだけの証拠があるのか、立証ができるのかという判断になった時にそこがなかなか難しい。積極的にこれならいけるという証拠があれば控訴をするが、ない時は控訴を断念する」と説明。
「今回の(検事総長の)談話を見ると、まさにその色が出ている。そこがなかったから『控訴できないね』という判断になっている。ただ、その理由は談話で出せない。検察官の立場で『これは立証ができないと判断しました』とは今さら言えない。言えない代わりに『袴田さんを思って』と書いたのではないか」(西山氏)
 元プロボクサーの袴田さんを長年支え続けた元世界スーパーウェルター級王者・輪島功一氏は検察の対応に対し「謝る必要はない。誤っては駄目だということ。謝れば、謝れるでしょう。謝ったら検察のメンツがないからとか言って、自分たちのことだけしか考えてない。だから袴田さんは今でもかわいそうだなと思っている」と語る。
「冤罪とはどういうことかということ。冤罪なんてカッコのいいセリフを使っているが、罪がないのに罪を押し付けたという検察側の責任でしょ」(輪島氏)
 今回、なぜ検事総長は異例の談話を発表したのか。亀井弁護士は「この事案で東京高裁が『捜査機関が捏造した疑いがある』と出したときに、言わなくていいのにと思った。おそらく言わなければ、検察はそこで終わっていた可能性がある。これが検察を刺激してしまった」「もう1つは“検察の士気”の問題がある。多くの検察官はそれなりに証拠があると考えている。証拠物とは捜査機関にとってはいわゆる“聖域”。その聖域にあるものを捏造したと言われることに対してかなり反発をする。その反発はおそらく現場にもあり、現場の士気というのも考えたのかもしれない」と推察した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)