<シリーズ「検証マイナ保険証」>
現行の健康保険証の廃止がどのように決まったのか、その決定経緯が分かる記録を政府が残していなかったことが、東京新聞の情報公開請求や関係者への取材で分かった。
◆4カ月で「選択制」から一転…
政府が現行保険証の廃止の方針を示したのは、2022年10月13日。河野太郎デジタル相が記者会見で、「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と表明した。後に政府は2024年12月廃止と決定した。
それまで政府は「原則廃止」としながらも、「強制はしない」と現行保険証の選択の余地も残していた。
◆開示された文書は既に公表済みの資料ばかり
2カ月後、両省庁から開示されたのは、2022年6月に政府が原則廃止を決めた「骨太の方針」、22年9月29日と10月12日に開かれた「マイナンバーカードの普及・利用の推進に関する関係省庁連絡会議」の議事概要や資料、廃止を表明した関係大臣の会見概要だけ。
ほとんどはホームページで公表済みだった。
◆会議中の発言、河野太郎デジタル相だけ
河野氏は会議で、マイナ保険証をカード普及の「切り札」と述べ、「各種カードとの一体化はどんどん前倒しでやらせていただきたい」と意欲を示していた。
保険証廃止の経緯が分かる記録として開示された連絡会議の議事概要。河野氏以外の発言はなく、関係府省庁からの意見は「なし」と書かれている
議事概要では、関係省庁からの意見が「なし」と記され、保険証廃止を議論した形跡はうかがえない。「2024年度秋」とする廃止時期の言及もなかった。
両省庁は、東京新聞の取材に連絡会議とは別に大臣間でも協議していたことを認めたものの、「大臣間の協議の記録はない」とした。
◆総理に報告していても「記録はない」
だが、両省庁から開示された文書の中には、首相報告時の記録もなかった。
総務省の担当者も「基本的に現行の保険証廃止の決定に至る調整は、厚労省とデジタル庁の間でなされている。総務省は主体的に政策決定に関わる立場ではないので、議事録も我々の方で作成するものでははない」と説明した。
◆公文書管理法は文書作成を義務付けるが…
公文書管理法では、「閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む)の決定又は了解及びその経緯」も作成すべき文書の一つに定めている。
公文書管理法 公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定義。軽微な場合を除き、行政の意思決定過程や事業実績を検証することができるよう、文書の作成を義務付けている。閣議や閣僚らで構成される会議の決定のほか、法令の制定や改廃、その経緯などが対象となっている。
デジタル庁の担当者は「公文書管理法に定める意思決定に至る過程として、連絡会議の議事録を作成し、開示している」と説明。「大臣間の協議は適時・適切に行われており、記録はない。総理への報告は、連絡会議の報告をしたものであり、特段の記録はない」と答えた。
◆内閣府は「個別の判断は各省庁任せ」
公文書管理法を所管する内閣府公文書管理課の担当者の話
「合理的な跡付けや検証にどのような文書が必要かは、公文書管理法や行政文書に関するガイドライン等に則って規定がある。規定では、大臣間のやりとりであっても、事務事業の実績で残すべきものや、必要な意思決定過程は文書にしなければならない。ただし、個別具体の判断は各省庁に任せている」
◆河野デジタル相「関係省庁で議論の上、決定」
東京新聞は、現行保険証の廃止決定に関わった当時の3大臣に、どのような協議があったのかを尋ねた。
◆専門家「国民への説明責任果たさず」
公文書管理に詳しい山口宣恭弁護士の話
「保険証廃止はマイナンバー法や医療保険各法の運用に関わるものであり、大臣間や省庁間の協議は公文書管理法の趣旨に照らして文書作成の義務がある。ましてや保険証廃止の影響は、国民皆保険制度の下で国民全体に波及するもので、その決定過程を残すのは重要だ。政府が国民への説明責任を果たしているとは言えない」
【一問一答】
◆文書ではなく、口頭ベースで
ー現行の保険証を廃止する時期について協議した議事録はありませんか。「それはもう大臣間だというふうに認識しておりまして」
ー公文書では残ってないということですか。
「残ってないということですね」
「残ってないということですね」
ーでは、協議のやり取りをどのように省内で共有するんですか。大臣会見まで情報が入ってこないということですか。
「その場に厚労省の職員がいたら、現場の方には入ってきます」
「その場に厚労省の職員がいたら、現場の方には入ってきます」
ーでは、その情報を伝えるための文書とかメールを作るということですか。
「いや、口頭ベースで」
「いや、口頭ベースで」
ー口頭なんですか。だから残ってないということですか。
「そうですね」
「そうですね」
◆意見は「なし」だけど「取りまとめた」?
ー関係省庁連絡会議の議事録だと、河野大臣以外の発言はなくて、他府省庁からの意見は「なし」と書かれていました。この会議の以外の場で関係省庁の意見を聞いてるということなんですか。「特に確認はできないですね」
ーでは、河野大臣が13日におっしゃっている「関係省庁に検討いただいた結果を取りまとめて」というのは河野大臣しかしゃべっていない連絡会議のことを指してると。
「それも指してるんだとは思います」
「それも指してるんだとは思います」
ー他の場もあるということですか。
「それは聞き及んではいないですけど。例えば大臣間で普通に話してる内容とかまでは、その場に我々がいない限りは、記録には残りません」
「それは聞き及んではいないですけど。例えば大臣間で普通に話してる内容とかまでは、その場に我々がいない限りは、記録には残りません」
ー河野大臣は意見を取りまとめて首相に報告したと言われているので、どこかでは絶対にやり取りがあると思うんですが、情報開示では出てきませんでした。協議自体はあったのですか。
「大臣間で協議だったり、報告だったり、確認の作業はしていると思いますけども、我々が保有しているものとしては、あの開示請求で示した通りのものしかないというところでございます」
「大臣間で協議だったり、報告だったり、確認の作業はしていると思いますけども、我々が保有しているものとしては、あの開示請求で示した通りのものしかないというところでございます」
◆ほんとに記録しないものか
ー大臣間でのやり取りはあるけど、文書にはなってないというのはどうしてですか。
「我々が参加していないとか、様々な理由かなというふうに思います」
「我々が参加していないとか、様々な理由かなというふうに思います」
ー参加していないということ以外にも、文書が作られない理由はありますか。
「そこはいないのでちょっと、何とも分からないところでありますけど」
「そこはいないのでちょっと、何とも分からないところでありますけど」
ー連絡会議以外は協議の場はないということですか。
「それ以外はそうですね。今回開示請求で示した通りになります」
「それ以外はそうですね。今回開示請求で示した通りになります」
ー大臣が個別に他省庁の大臣と折衝した場合、そこに国の職員の方がいらっしゃらなかったら、大臣は担当部局に内容を報告しますよね。
「ものによっては当然されると思います」
「ものによっては当然されると思います」
ーそれを省内で共有する文書も残ってないということですか。
「はい」
「はい」
ー関係大臣の意向も踏まえて業務を進められると思うんですが、共有されてなくていいものなんですか。
「はい、お答えしてる通りになります」
「はい、お答えしてる通りになります」
◆情報公開法では「適当」
ー公文書管理法は後から検証できるようにという趣旨ですが、開示していただいた記録だけで、検証するのに十分なのでしょうか。
「はい。情報公開請求していただいて、それに対応する文書というもので開示させていただいていますので、それ以上というものはございません」
「はい。情報公開請求していただいて、それに対応する文書というもので開示させていただいていますので、それ以上というものはございません」
ー公文書管理法に照らしてどうかをお伺いしたいです。
「申請されている情報公開請求の内容からして、対象としては適当だということです」
「申請されている情報公開請求の内容からして、対象としては適当だということです」
ー情報公開に対する開示文書と、記録として残っているものは違うんですか。
「いえいえ」
「いえいえ」
ーでは、その記録は検証する際の材料として十分かどうかというところをお尋ねしたいんですけれども。
「はい。情報公開法の趣旨にのっとって対応させていただいています」
「はい。情報公開法の趣旨にのっとって対応させていただいています」
▼デジタル庁▼
◆協議も報告も「記録はない」
ー廃止方針を決めるまでの関係閣僚間での協議の記録はありますか。公文書管理法に照らして、記録がないことは問題ではありませんか。「開示させていただいた会議資料をはじめ、関係法令に基づき、関係省庁で適切に管理しているところです。なお、ご質問の、関係閣僚間の協議については、厚生労働大臣を含めた関係大臣と河野大臣の間の協議ですが、大臣間で直接、適時・適切に行われているものですので、記録はありません」
ー2022年10月13日の河野大臣の首相報告時の記録はありますか。
「総理へのご報告は、関係省庁連絡会議の資料を基に関係閣僚から会議の報告をしたものであり、特段の記録はとっておりません」
「総理へのご報告は、関係省庁連絡会議の資料を基に関係閣僚から会議の報告をしたものであり、特段の記録はとっておりません」
◆「わかりやすい説明に努めている」
ー国民に対して説明責任を果たせているとお考えですか。
「マイナンバーカードと保険証の一体化については、医療を受ける国民、医療を提供する医療機関関係などの理解が得られるよう、丁寧に取り組んでいく必要があります。このため、マイナンバーカードと保険証利用の一体化に関する検討会を開催するとともに、必要な法改正案を先の通常国会に提出し、慎重ご審議の上、可決・成立いただいたところです。このほか、様々な広報手段を用いて、国民に対して丁寧にわかりやすい説明に努めているところです。引き続き、国民に対し、丁寧な説明をしっかりと行ってまいります」
ー12月の廃止に関してまだ不安の声も聞こますが、なぜここまで一本化を急ぐのですか。
「マイナ保険証は医療の質の向上につながるもので、その効果の早期発現のため、現行の健康保険証の発行を12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。マイナ保険証への移行に際しては、デジタルとアナログの併用期間をしっかり設けて、全ての方に安心して確実に保険診療を受けていただける環境を整えるとともに、引き続き利用勧奨に努めてまいります」
「マイナンバーカードと保険証の一体化については、医療を受ける国民、医療を提供する医療機関関係などの理解が得られるよう、丁寧に取り組んでいく必要があります。このため、マイナンバーカードと保険証利用の一体化に関する検討会を開催するとともに、必要な法改正案を先の通常国会に提出し、慎重ご審議の上、可決・成立いただいたところです。このほか、様々な広報手段を用いて、国民に対して丁寧にわかりやすい説明に努めているところです。引き続き、国民に対し、丁寧な説明をしっかりと行ってまいります」
ー12月の廃止に関してまだ不安の声も聞こますが、なぜここまで一本化を急ぐのですか。
「マイナ保険証は医療の質の向上につながるもので、その効果の早期発現のため、現行の健康保険証の発行を12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。マイナ保険証への移行に際しては、デジタルとアナログの併用期間をしっかり設けて、全ての方に安心して確実に保険診療を受けていただける環境を整えるとともに、引き続き利用勧奨に努めてまいります」
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<シリーズ「検証マイナ保険証」>
現行の健康保険証の廃止には、いまだに不安や疑問の声が聞こえます。本紙は「検証マイナ保険証」と題して、マイナ保険証一本化への課題や利用者の声を伝えていきます。
マイナ保険証に関するご意見や情報をお寄せください。メールはtdigital@chunichi.co.jp、郵便は〒100 8505(住所不要)東京新聞デジタル編集部「マイナ保険証取材班」へ。