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知らぬ間に「米国のミサイル基地」と化していた日本
日本にとっての「最悪のシナリオ」とは?
政府による巧妙な「ウソ」とは一体…?
国際情勢が混迷を極める「いま」、知っておきたい日米安全保障の「衝撃の裏側」が、『従属の代償 日米軍事一体化の真実』で明らかになる。
※本記事は布施祐仁『従属の代償 日米軍事一体化の真実』から抜粋・編集したものです。
日本のIAMDは米国のIAMDとは別物?
日本も2022年12月に閣議決定した安保三文書で、IAMDの推進を正式に決めました。
それまで正式にIAMDの推進を決めることができなかったのは、日本は敵基地攻撃能力を持たず、飛来した敵の航空機やミサイルを迎撃する防御的作戦しかできなかったからです。そのため、「統合防空ミサイル防衛」ではなく、一文字違う「総合防空ミサイル防衛」と名付けていました。
しかし、安保三文書で敵基地攻撃能力の保有を解禁したのと同時に、米国と同じ名称に改めました。「国家防衛戦略」は、IAMDについて次のように記しています。
相手からの我が国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛システムを用いて、公海及び我が国の領域の上空で、我が国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。その上で、弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力として、スタンド・オフ防衛能力等を活用する。
米国のIAMDと同様、ミサイルの迎撃と敵基地攻撃をセットにした構想になっています。
ところが日本政府は、日本のIAMDは米国のIAMDとは別物だと説明しています。岸田文雄首相は国会で次のように答弁しました。
「米軍のIAMD、統合防空ミサイル防衛ですが、これは名称は似通っていますが、我が国の統合防空ミサイル防衛能力、これは全く別物であります。我が国の統合防空ミサイル防衛能力は、これは米国の要求に基づくものではなく、また、米国が推進するIAMDとは異なる、我が国主体の取組であります」(2024年4月22日、衆議院予算委員会)
しかし、自衛隊が敵基地攻撃を行う場合の作戦を具体的に考えれば、岸田首相の答弁は詭弁であることがわかります。
「日米共同対処」を前提とした作戦
防衛省が作成した政府部内向けの説明文書「反撃能力について 2022年12月」の1ページ 情報公開請求で入手
この文書によると、敵基地攻撃は「日米共同対処」で行うとされています。具体的には、次の五つの手順で行われます。
(1)ISRT(情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング)、情報分析(2)計画立案・目標割当(3)指揮・統制(4)火力発揮(5)BDA(攻撃の成果についての評価)
敵国領土内にあるミサイル基地などを攻撃するには、まずそれらの基地や施設に関する情報を収集し、分析する必要があります(1)。
そして、その情報に基づいて攻撃の計画を立てます。どこの基地を、いつ、どのミサイルを使って攻撃するのかを決めるのです(2)。
その計画に基づき部隊に命令が出され(3)、部隊はその命令に従ってミサイルを発射します(4)。
ミサイル発射後は、攻撃の成果についての評価を行い、事後の作戦について検討します(5)。成果が不十分ならば、再度の攻撃が必要になります。
こうした一連の手順を「日米共同対処」で行うことを想定しているのです。
米軍に頼らざるを得ない現実
文書は「特に目標情報の共有、反撃を行う目標の分担、成果についての評価の共有等について、日米で協力を行うことが考えられる」と記述しています。
米軍はこうした共同作戦を、戦域内の米軍と同盟国軍のすべてのセンサーとシューターをネットワークでつなぎ、統一した火器管制アーキテクチャや戦闘管理・交戦調整システムを用いて実行しようと考えています。
日本政府も「ネットワークを通じて各種センサー、シューターを一元的かつ最適に運用できる体制を確立し、統合防空ミサイル防衛能力を強化する」(国家防衛戦略)とうたっています。
米国と一体化してきた過去
日本政府は2004年に弾道ミサイル防衛(BMD)の推進を決めた際にも、日本のBMDは米国のBMDとは別物で「我が国自身の主体的判断に基づいて運用する」と強調しました。
しかし、その後は、米国のBMDとの一体化の一途をたどります。
2005年10月に開かれた日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日米両政府はBMDにおける連携強化で合意しました。共同発表には次のように記されました。
弾道ミサイルの脅威に対応するための時間が限りなく短いことにかんがみ、双方は、不断の情報収集及び共有並びに高い即応性及び相互運用性の維持が決定的に重要であることを強調した。(中略)それぞれのBMD指揮・統制システムの間の緊密な連携は、実効的なミサイル防衛にとって決定的に重要となる。
情報収集などの連携だけでなく、「指揮・統制システムの間の緊密な連携」でも合意したのです。そして、日本のBMD作戦を指揮する航空自衛隊航空総隊司令部を米空軍横田基地に移設し、自衛隊と米軍が連携してBMD作戦を実行する「共同統合運用調整所」を同基地内に設置することが決められました。
共同統合運用調整所は2012年に、横田基地内の米第五空軍司令部がある庁舎の地下に設置されました。建前は「調整」ですが、この調整所を通じて日本のBMDは米国のBMDと指揮・統制システムも含めて事実上一体化したのです。
IAMDも、これと同じ道をたどることになるでしょう。
布施 祐仁(ジャーナリスト)