認知症やその疑いがあり自宅を出たまま家に戻らない「認知症行方不明者」の家族が新たな団体を発足させ、今後、行方不明が長期化した場合の課題などについて国や自治体に提言していくことにしています。

認知症やその疑いで行方不明届 去年は延べ1万9039人

 

新たに発足したのは、認知症行方不明者の家族によるNPO法人「いしだたみ」で、代表理事の江東愛子さんが20日、記者会見して「認知症行方不明者の家族がつながり、声を上げていくためには団体が必要だと考えた」と述べました。

認知症やその疑いがあり警察に行方不明届が出された人は、去年は延べ1万9039人で、統計を取り始めた2012年の9607人から1.98倍となり過去最多です。

このうち502人は死亡が確認され、250人は去年のうちに発見されませんでした。

一方で、現在も行方不明のままになっている人の累計の人数は統計がなく、わかっていません。

団体がこれまでに行った行方不明者の家族を対象にしたアンケートでは「県境を越えて捜索することを行政や警察に依頼する手順や手段が分からなかった」などの捜索の課題や「長期間行方不明のままで、本人の年金の支給は止められたけれども、介護保険料の支払いは続けなくてはならず生活の負担が増した」などの声が寄せられたということです。

団体では、認知症の行方不明の人に関する相談事業や、行方不明者家族が集いや支え合う場の開設、それに自治体や警察などと連携し、初動の捜索や行方不明が長期にわたった場合の必要な支援策などについて提言していきたいとしています。

江東代表理事は「認知症の行方不明者は自分の意思で行方不明になったわけではないと思う。認知症の家族が行方不明になった同じ境遇で苦しんでいる人が救われるよう、その実態を国や自治体に伝えていきたい」と話していました。

NPO法人を立ち上げた江東さん 父親が行方不明に

 

NPO法人を立ち上げた長崎市の江東愛子さん(46)は、去年4月から認知症の父親が1年半近くにわたり行方不明のままです。

江東さんの父親の坂本秀夫さん(74)はアルツハイマー認知症で、去年4月に日課の散歩に出かけたあと自宅に戻りませんでした。

江東さんはインスタグラムやXなどのSNSで情報提供を求める投稿をほぼ毎日続けています。

SNSを通して出会った同じ境遇の行方不明者家族などと定期的にオンラインで悩みを打ち明け合ったり、励ましの言葉をもらったりしたことが捜索の原動力につながったといいます。

一方で、行方不明が長期化すると周りに同じ立場の人が少なくなって、だんだん孤立していく家族もいるということです。

そのため、行方不明者家族がつながり続けることができ、社会に認知症の人についてもっと普及や啓発するための団体が必要だと考え、SNSでつながった行方不明者家族や支援者など全国の11人のメンバーとNPO法人を発足させました。

江東さんは「同じ境遇の人たちとつながり、自分たちのこれまでの経験を伝えることで、どうしたらよいのか悩む家族を減らしたい。警察や行政にも行方不明者家族の思いを伝え、懸け橋のような存在になりたい」と話していました。

そのうえで、「今後も、行方不明者が増えると見込まれる中で、団体として家族の声が社会の制度に反映されるよう取り組んでいきたい」と話していました。

NPO法人がアンケート調査 認知症行方不明者の家族は

 

新たに発足したNPO法人では今月、認知症やその疑いで行方不明になっている人や過去に行方不明になった人の家族や親族を対象に、インターネットでアンケート調査を行ったところ、11人から回答が寄せられました。

回答の中では、家族が行方不明になっている期間が15年10か月に及ぶ人もいたということです。

また、家族が行方不明になって困ったことを尋ねたところ、警察の捜索が打ち切りになったあと探し方を相談する場がなかったとか、都道府県をまたいで探したい時に手順や手段がわからなかったと捜索の方法を課題に挙げた人が多かったということです。

さらに、全国の8割以上の自治体では、行政や警察のほか、地域の店舗やタクシー会社、それに地域住民などが連携して認知症行方不明の人の捜索にあたる「SOSネットワーク」という見守りの仕組みを導入していますが、こうした仕組みについては全員が「知らなかった」と回答し、周知不足の課題がみえたということです。

ほかにも警察に捜索状況を尋ねても教えてくれなかったとか、行方不明になった人の携帯の通話履歴について携帯会社に照会をしたところ、行方不明者本人でないとできないと断られたといった声のほか、終わりや区切りがなく、何年も心が縛られ、見つけてあげられてなくて後悔と申し訳なさが残っているなどの声も寄せられたということです。

団体では引き続き認知症行方不明者の家族などの声を集め、今後、自治体などへの提言としてまとめたいとしています。

専門家「家族支え合う会 認知症との共生の視点からも意義」

 

認知症の行方不明者に詳しい国立長寿医療研究センター鈴木隆雄理事長特任補佐は、行方不明者家族の会の発足について「認知症の人が行方不明になって、残された家族が苦労をして精神的に大変な思いをしているということはほとんど知られていなかった。家族を支え合う会が発足したことは認知症と共生していく社会の視点から見ても意義がある」としています。

また「比較的長期にわたる行方不明の方に対しての行政のケアやサポートの体制のほか、捜索を継続していくようなマニュアルやプログラムはないのが現状で、この会の発信を通じて少しでも対応が進むことは重要だ」としています。

さらに、行方不明者に関する制度について「過去に行方不明になったことがある認知症の人など、行方不明になるリスクが高い人の場合には、一般の人とは別の対応を制度設計上で考える必要があるのではないか」と指摘しています。

<行方不明で生じる手続きの課題>

1か月以上所在不明の場合 年金の支払いが一時停止に

日本年金機構によりますと、年金を受けている人が1か月以上所在不明になった場合は、その世帯の家族が所在不明の届け出を行う必要があり、年金の支払いは一時的に止まるということです。

その後、所在が判明した場合は、解除の手続きをするとさかのぼって受給することができるということです。

自治体によっては介護保険料の支払いが続くことも

一方、介護保険料の支払いについては、認知症の人などの法律問題に詳しい千葉県弁護士会の佐藤司郎弁護士によりますと、行方不明になった認知症の人のケースに応じて、各自治体が判断するため、自治体によっては行方不明になっている間も支払いが続くことも想定されるということです。

そのほかの契約などでも

そのほかの契約などについて、佐藤弁護士は「土地の売却やアパートの賃貸借、それに生命保険の解約といった法律上の行為は、代理人がいない限り、契約した本人しか対応できないのが原則だ。そのため、認知症行方不明者の家族が法律的な制約で解約などができないケースは想定される」と指摘しています。

その場合の対応方法として、佐藤弁護士によりますと「不在者の財産管理に関する制度」を活用や、生死が7年間明らかでないときには、家庭裁判所に申し立てて法律上死亡したと見なされれば、「失踪届」の提出によって、家族などが土地の売却や生命保険の解約などの手続きを進められる場合があるということです。

そのうえで、佐藤弁護士は「裁判所に失踪宣告を申し立てるには7年間かかることや、手続きが専門的で複雑な場合も多いため、どのように対処すべきか、地元の弁護士会などに相談してほしい」と話していました。

認知症の家族が長期に行方不明になった場合の相談先

新たに設立された認知症行方不明者の家族などによるNPO法人「いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」の連絡先は、代表電話は080-7857-0689、
メールは「info@npo-ishidatami.org」です。

公的機関の相談先は、自治体の認知症に関する施策を担当する地域福祉などの担当部署や地域包括支援センターなどです。

法律上の契約関係のトラブルについては地元の弁護士会に相談することができます。