認知症の高齢者 優しい声かけで安全を守ろう(2024年7月14日『読売新聞』-「社説」)

 高齢化に伴って認知症の人が増え、誰もが無関係ではいられない時代になる。認知機能が低下しても安全に暮らせるよう対策を講じたい。
 昨年1年間に警察に届け出があった認知症の行方不明者は延べ1万9000人で、過去最多となった。このうち7割は当日中に見つかったが、発見に1か月以上かかった人もいる。
 亡くなって発見された人も少なくない。昨年は、それ以前に行方不明になった人を含めて500人を超えた。交通事故のほか、川や用水路で溺れたり、寒い屋外に長時間いて低体温症になったりしたことが原因とされる。
 行方不明になると、発見が遅れるほど事故に遭うリスクが高くなる。早期の発見が、命を守ることにつながる。
 認知症になって記憶障害の症状が進むと、外出しても目的地を途中で忘れてしまう人は多い。軽症であっても、行方不明になる場合があるから油断できない。
 各地の自治体は、お年寄りにGPS(全地球測位システム)の装置を付けてもらい、所在地を確認する方法を活用している。
 また、QRコード付きシールを配布して服や持ち物に貼ってもらっている自治体もある。発見者がスマホで読み取ると、家族らに通知される仕組みだ。
 行方不明のお年寄りを発見するのは、通りすがりの人が多い。困っている様子の高齢者を見かけたら、声をかけるようにしたい。
 声かけには、相手を驚かせないように正面から、優しくはっきりと話す、といったコツがある。自治体のサイトなどで紹介されているので参考にしてほしい。
 判断能力の低下につけ込んだ悪質な犯罪も後を絶たない。
 最近では、東京都内の不動産業者が認知症の人に、相場をはるかに上回る価格で不動産を売りつけていた事件が発覚した。
 問題の業者は、高齢者に電話して、判断能力の程度や同居家族の有無を見極め、対象者を絞っていた。資産をだまし取るためのマニュアルも持っていたという。
 警察は、手口などに関する情報を一般家庭に周知し、卑劣な犯罪を厳しく取り締まるべきだ。
 老後の資金を失わないよう、高齢者自身が判断能力のあるうちに準備することも大切だ。家族や信頼できる人に資産管理を任せる家族信託という方法もある。
 単身の高齢者が増えた今、社会全体で認知症の人を支えていくことが欠かせない。