〈ついに不信任案可決〉「部下の顔と名前を覚えな」「説明したことも“聞いてない”とブチギレ」県職員が斎藤知事に辞めてもらいたい本当の理由…公約の着手・達成率「98.8%」も検証不可能な状況に(2024年9月20日『集英社オンライン』)

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知事はどう判断するのか
自分や側近の疑惑を告発した職員への不当な報復が決定打となり、兵庫県議会の県議86人全員から不信任を突き付けられた斎藤元彦知事。パワハラで部下の県職員を悩ませていた日常も暴露されたが、県職員が知事に不信感を持った根本的な原因は他にもあるという。記憶力も含めた「業務遂行能力」が知事に求められる水準に追い付いておらず、それを覆い隠すためにキレ散らかしていたというのだ。
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<決定的瞬間>不信任決議案が全会一致で可決された瞬間の斎藤知事と、賛成の白票だけになった投票箱
公益通報者への弾圧が致命傷
9月19日夕、県議会で全会一致で可決された不信任決議は、ことし3月に当時の西播磨県民局長、Aさん(60)が知事や側近グループに絡む7項目の疑惑を告発する文書を関係者に郵送したことに斎藤体制がとった行動だけを問題視した。
県職員への理不尽な要求やパワハラ、県内の物産品のタカリなど、Aさんの告発内容は事実であることが続々とわかっている。
斎藤知事は文書を入手した直後、片山安孝副知事(7月末に辞職)らに公益通報者保護法違反の疑いが強い、発信者の捜索を命じた。3月27日の記者会見では、突き止めたAさんの役職名を口にして身元を明かしながら処分を予告。Aさんの言うことは「嘘八百」だと強調して告発内容から目をそらそうとした。
県はAさんに懲戒処分をかけたうえ、片山副知事らがAさんの公用パソコンから抜き出した個人情報を幹部間で共有もしていた。幹部のひとり・井ノ本知明前総務部長(8月に更迭)は個人情報を県議らに見せて回っていた。さらに維新の増山誠県議は文書の全面公開を議会内で求めたりし、Aさんは「一死をもって抗議する」との言葉を残し7月に自死している。
今回の不信任決議はこの経緯をふまえ、「告発文書への初動やその後において、対応が不適切、不十分であったことにより、県政に長期にわたる深刻な停滞と混乱をもたらしたことに対する政治的責任は免れない」ことを唯一の問責理由とした。
告発文書にあった、パワハラやタカリ、昨秋の阪神オリックスの優勝祝賀パレード費用捻出のための公金不正支出疑惑などは県議会調査委員会(百条委)で調査中であり、結論が出ていない事情もあるが、これらの問題に直接触れていないことが目を引く。
パワハラもタカリも、『もうしません』とでも言って謝っておけば、知事を辞めさせられるほどのインパクトはないでしょう。反面、公金不正支出疑惑の解明はハードルが高く、百条委でやり切れる見通しはまだ立っていませんでした。しかしAさんという公益通報者を弾圧したことが最近新たな焦点に浮上し、知事には致命傷になりました」
 そう話す県関係者は、百条委が約9700人の県職員全員に行なったアンケートで69%の回答があり、この4割近くが知事のパワハラを見聞きしたと答えたことを挙げ、「組織として異常な状態です。みんな知事には辞めてほしいと考えていると思います」とも語る。そしてその理由は、パワハラだけではないとも言う。
「斎藤知事はホンマに話が通じない」
それは何か。アンケートで目につくのは、計画中の政策を所管部署が報告したにもかかわらず、斎藤知事が「聞いていない」と言って怒りだした事例だ。
「昨年4月11日の定例会見の項目レク(レクチャー)の際、AIによる出会い支援事業があがっているのを(知事が)見て、『事業の中身を知らないのに判断しろというのか』と叱責を受けた。同事業は、令和5年度予算の記者会見資料やその後の知事講演資料にも記載があった」
「昨年5月11日に福祉部が介護テクノロジー導入・生産性向上支援センターの開設について知事に説明したところ、『こんな話聞いていない』と叱責があった。福祉部が『令和5年度予算の記者発表資料に入っている』と伝えても、『そんなの見ていない、資料に掲載しているからといって知事が知っていると思うな』と言われ、開所式のスケジュールを変えざるをえなくなった」(いずれも県職員アンケート回答)
このうち介護テクノロジー問題では、8月30日の百条委で委員から事実かどうか質された斎藤知事は「私も完璧な人間ではない。一回聞いたことをすべて覚えているのか、失念することもある」と言い始め、言い訳にならない言葉をつづけた。
「担当部局としては説明したかもしれないが、いろいろありますけど職員とのコミュニケーションをしっかりしていかなければならない」(斎藤知事)
担当部局が説明をしていれば叱られるいわれはないはずだが、それを「いろいろありますが」の一言で片づけたのだ。
 同じ日の百条委では、2021年9月に県の港湾整備計画が新聞で報じられた際、自分は聞いていないと怒り始めた斎藤知事に呼び出された当時の土木部長、杉浦正彦氏も証人として出席し、理不尽な叱責の構図を述べた。
報じられた整備事業は21年7月の知事選で斎藤氏が当選する前から公になっており、ようやく概要が固まり報じられたものだった。それを斎藤知事は「意思決定を県として、していないことを先に(報道で)出すことは許せない」と声を荒らげ、机を叩いて杉浦氏と担当の港湾課長を叱りつけたというのだ。
「港湾課長は(担当してきた事業が)新聞記事に出てうれしかったと思います。それなのに怒鳴られて気の毒でした」(杉浦氏)
これらの事件をめぐる知事の言動は、施策実現のために多くの準備を重ね、最後に知事の了承を得て実行に移すことが仕事である県職員の誇りを深く傷つけるものだと、県行政に詳しい関係者は話す。
「斎藤知事はホンマに話が通じない。興味のないことには耳を貸さないから知事との協議に入れない。県幹部から聞こえてくるのはそんな話ばかりです。了承されたと担当者が考えている施策も、最後に『聞いていない』と言い始めキレているわけです」(県関係者)
公約達成率98.8%を盾にするが…
県知事の業務が多忙を極めることは確かだ。元土木部長の杉浦氏も、知事が受ける施策レクは膨大な数に上るため「知事の頭に彫り込まれるように」各部局は細心の注意を払って準備を行ないレクに臨むという。
ところが斎藤知事は、レク内容を忘れると、それを顧みるどころかパワハラ言動で担当者にその責任を押し付けてきたようなのだ。
さらに「忘れたのは施策だけではない」との証言もある。
「知事にはついていけないと、片山副知事ら側近グループの県幹部は7月末に次々と知事のもとから逃げ出しました。その穴埋めに登用された幹部がいます。本人はむろん優秀な公務員なのですが、彼も“被害者”の一人です。
彼が局長になった当時、重要施策のレクのために知事室に入りました。ところが聞いていた斎藤知事は『なんでこんな重要な施策の説明に局長が来ないのか』と怒り始めたのです。
目の前にいる人物は自分が少し前に局長に登用した人物なのに、忘れていたわけです。この話は斎藤知事が業務を管理できないことを示す決定的な逸話として知れ渡っています」(県関係者)
斎藤知事はことし8月1日に知事就任から3年を迎えるに際し、選挙での173項目の公約のうち171項目を達成か着手しており着手・達成率は「98.8%」だと自画自賛していた。
だが、その公約の内容は今、知事のホームページから消されている。その理由を不信任決議が行なわれる前日の9月18日に記者団から聞かれた知事は、選挙で選ばれた政治家であることを放棄するような発言もしている。
「(公約は)選挙戦中ですから掲げると思いますけど、就任した後は県政を県知事としてやっていくことになりますので、そこはいったん外しておくというのは自然な判断だと思います。とくに今回急に外したというのではなくて、だいぶ前に外さしていただいたということです」(斎藤知事)
選挙が終わると公約をホームページから「いったん外しておく」ことが普通なのだろうか。
「不信任案可決が迫った9月中旬から、SNS、特にXで『♯斎藤知事がんばれ』というハッシュタグとともに斎藤氏を応援するようなポストが急増しました。
日中は活発な書き込みが夜になると急減するとの指摘もあり、組織的な動員が行なわれている可能性も指摘されています。
こうした“応援団”が挙げるのが、公約達成率が高い有能な斎藤知事を辞めさせるのは不当だ、という主張です。
しかし肝心の公約の反故を斎藤知事自身が公然と行なったことで、有能とみなす根拠もなくなりましたね」(フリージャーナリスト)
公約が何だったかも示さない。部下職員が練り上げた施策は通さない。斎藤知事が退場勧告を突きつけられても「前に進めたい」という県政とは何なのか。
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