選挙公報で前教育長を批判した堀切稔仁区議に渋谷区議会が問責決議 「萎縮につながる」と区議側は反発(2024年9月19日『東京新聞』)

 
 東京都渋谷区議会は19日、堀切稔仁(ねんじん)区議(55)=立憲・国民渋谷議員団=に対する問責決議案を可決した。区の五十嵐俊子前教育長について、かつていじめを黙認したなどと選挙公報や交流サイト(SNS)に書き「事実と異なる情報を取り上げ、職員への批判を繰り返した」との理由だった。

◆長谷部健区長が区議長に「厳正な対処」要求

 決議は五十嵐前教育長を任命した長谷部健区長が、丸山高司区議長に厳正な対処を求めたことが発端で、堀切区議と会派は「議会の独立性を損なう」と反発している。
渋谷区役所

渋谷区役所

 五十嵐前教育長は東京都町田市の小学校長を経て2021年4月、区教育長に就任。校長在任中の20年11月、在学する小学6年児童がいじめを訴えるメモを残して自死した。
 堀切区議は4選した昨年の区議選で、選挙公報に「前職でいじめを黙殺した教育長を交代させます」と記載。SNSでも五十嵐前教育長が「いじめ問題を放置した」などと投稿した。

◆いじめを認定したが、学校側の違法・不当認めず

 町田市の第三者委員会は今年2月、いじめの存在を認定する一方で、児童の死亡に他の要因もあったとする再調査報告書を公表。「安全安心な学校経営ができていたら、自死を防げた可能性がある」としながら、学校側に違法・不当な点は確認できなかったとした。
 報告書を受けて長谷部区長は8月「根拠のない情報を広め、人権侵害等の事態を惹起(じゃっき)した」として、区議長宛てに堀切区議への厳正な対処を求める要望書を提出。区議会の4会派の幹事長が問責決議案を提案し19日、賛成19、反対9の賛成多数で可決された。

◆堀切区議「関係者に聞いた事実に基づく発言だ」

 長谷部区長は「区議会の賢明な判断を尊重する」とのコメントを発表。一方、堀切区議は「遺族の関係者や弁護士にも話を聞いた事実に基づく発言なので、不当としか言いようがない。議員の萎縮にもつながる」と話した。
 大正大の江藤俊昭教授(地方自治)は区長が議会に対応を求めたことについて「教育長の任命権者は区長であり、あまりにも事実が逸脱している場合などは、あり得る」と指摘。一方で前教育長の校長在任時の児童の自殺について、任命時に区長側が区議会に伝えていなかったのは「モラル的に問題があったのではないか」と述べた。(浜崎陽介)
 
 
=============================
 
堀切稔仁議員に対する問責決議
 

 令和6年8月23日、渋谷区長から渋谷区議会に対し、「区議会議員の不適切行為に対する要望書」と題し、渋谷区議会議員である堀切稔仁議員の言動について、厳正な対応を求める旨の書面が提出されました。この要望書は、令和2年に町田市立小学校の児童が自死した件に関し、堀切稔仁議員が、当時の校長でその後本区の教育長を務めた区職員について、Facebook選挙公報により、いじめを隠蔽したなどと情報を広めたことを問題視したものです。
 町田市の件を巡っては、当時、様々な情報によって報道が加熱しており、令和3年10月1 日、町田市教育委員会及び町田市教育委員会いじめ問題対策委員会は、児童や関係者の人権が侵害される大変危険な状態にあるとして、緊急声明を出す事態になりました。
 こうした状況の中、堀切稔仁議員は、令和3年10月5日、Facebook において、学校のパスワードの管理が児童の自死のトリガーとなったなどと投稿しました。また、同年11月に町田市いじめ問題調査委員会が再度調査を開始し、その調査結果が明らかになっていない中、令和5年4月23日執行の渋谷区議会議員選挙の選挙公報に「いじめを黙殺した渋谷区教育長を交代させます」などと記載し、批判を繰り返していました。さらに、本年6月5日第二回定例会本会議の再質問の中で、町田市いじめ問題調査委員会の再調査報告書に記載のない、事実と異なる情報を取り上げて、再び当該職員に対する批判を展開しました。
 当時の状況について、当事者の区職員からは、守秘義務のため話ができなかったことを「隠蔽」と非難され続ける悲しさと悔しさ、身の危険を感じるほどの恐怖心、そして、それが政治家である区議会議員から発信されたことの衝撃について語られ、その心痛は計り知れないものでありました。加えて、堀切稔仁議員の一連の言動により、区民に誤った情報や認識が広まってしまった影響に鑑みると、大変深刻な結果を招いたといえます。
 我々区議会議員は、区民の負託に応えるべく、誠実に職務を全うするため、自らの言動には責任を持つ義務があることはいうまでもありません。しかし、これは自らの責任において如何なる発言も無制約に許容されることを意味するものではなく、議員が自身の見解や情報を発信する場合には、その根拠や情報の正確性はもとより、発言の影響力を勘案し、区民の信頼を得るに値する責任ある言動が求められているのであり、公益目的等を理由に、議員の言動が世間の混乱や他者の権利侵害を招くことなど決してあってはならないことです。
 堀切稔仁議員の行為は、報道の影響によって人権侵害等危険な状況にあったことを顧みることなく、また、調査委員会が再調査中であるにもかかわらず、それを承知で報道内容を基に真偽不確かな情報を広く発信し、さらには、調査結果が出された後も、事実と異なることを再調査報告書に記載があるかのように発言していたものであり、議員としての自覚と責任を欠いた不適切な行為であったといわざるを得ません。また、この件に関し、幹事長会の再三にわたる意見聴取の要請に応えることなく、説明責任を放棄したことは看過できません。
 以上のことから、渋谷区議会は、堀切稔仁議員に対し、改めて公職の役割や責任を自覚し、区議会議員として不適切な言動は厳に慎むよう猛省を促し問責いたします。
 以上、決議する。

令和6年9月19日