男性育休3割超 取得しやすい環境整備を(2024年9月5日『産経新聞』-「社説」)
育児・介護休業法などの改正案を可決した衆院本会議=5月7日
育児・介護休業法の改正で、本人や配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対する育休制度の周知や意向確認を、事業主に義務付けたことなどが背景にあるという。
ただ、女性の取得率は84・1%で、なお開きがある。政府は男性育休の取得率を令和7年に50%、12年に85%にする目標を掲げている。取得を一層促し、夫婦ともに育児と仕事が両立できる環境を整えたい。
子育ての負担が女性に集中する「ワンオペ育児」は、母親の孤立や産後うつを招く要因と指摘されている。女性の就業継続も困難にしている。男性育休を促進させる意義は大きい。
厚労省が今年実施した意識調査では、18~25歳の男性の84・3%が育休取得の意向があると回答している。その一方で、男性が取得をためらう理由に収入減があるといわれている。
政府は7年度から育児休業給付を拡充する。両親がともに育休を14日間以上取った場合、28日間を上限に、手取り収入を現行の休業開始前の実質8割から同10割に引き上げる。有効に活用したい。一方、育休を取ってもほとんど育児をしない「取るだけ育休」は論外である。
課題はほかにもある。特に中小企業は「育休を取得した人の代替要員が確保できない」などの理由で、男性育休の拡大が遅れている。育児休業者の割合を、事業所の規模別で見ると、500人以上の事業所では34・2%であるのに対し、5~29人は26・2%だった。
7年度からは育休給付の拡充だけでなく、従業員1千人超の企業に義務付けていた男性取得率の公表を、300人超に引き下げる。
これを機に取り組みが不十分な企業は育休取得の機運を高めてほしい。また、ひとつの業務を特定の個人ではなく、複数人で担当するなど、仕事の進め方を見直すことも重要だ。
男性の育休促進 柔軟に働ける職場こそ(2024年9月5日『東京新聞』-「社説」)
男性による育児休業の取得率が2023年度は30.1%となり、初めて3割を超えた。前年度の17.13%から大幅に上昇したが、8割を超える女性の育休取得率には遠く及ばない。男女ともに育休が取りやすい職場環境づくりに引き続き取り組みたい。
男性の育休取得率は10年前の2%程度から大きく上昇。取得した期間も23年度は「2週間~3カ月未満」が増え「2週間未満」が減った。形だけになりがちの短期間の取得から、子育てに主体的に関わる男性が増えたともいえる。
一昨年4月施行の改正育児・介護休業法は、企業に対して、妊娠・出産を申し出た労働者に育休制度などの周知や労働者の意向確認を義務付けている。
配偶者の産後休業中に男性が育休を取得できるなど、利用できる制度が増えたことも男性の育休取得を後押ししているようだ。
政府は、民間企業の男性育休取得率を「25年までに50%」とする目標を掲げている。目標達成には育休制度の利用をさらに広げる必要があるが、取得が進まない職場もなお存在するのが実態だ。
男性会社員を対象にした厚生労働省の調査では、過去5年間に育休取得や時短勤務などを上司などから妨害されるハラスメントを受けた人は4人に1人いた。ハラスメントを受けた人の3割超が「仕事に対する意欲が減退した」(複数回答)とも答えた。育休取得に限らず、ハラスメント対策を講じることは企業の責任である。
子育てに対する企業の姿勢は、これから就職する若者からも注目されており、子育て支援に熱心でない企業は、人材確保や業績にも影響が出かねない。
学生対象に行った育休取得に関する同省の意識調査では、9割以上が育休制度の存在を知り、8割超の男性が取得を希望。取得実績のない企業には就職したくないと答えた男女は約6割に達する。
子育てや家族の介護など、誰もが暮らしの事情に合わせて、仕事と両立できるよう企業側が支援することは、賃上げや雇用安定と合わせて経営には欠かせないと心得るべきである。
男性の育休促進 休める職場の実現こそ(2021年4月3日『東京新聞』-「社説」)
男性に育児休業の取得を促す改正案が国会に提出されている。子どもの出生直後の期間も、男性が育休を柔軟に取得できる制度を新設することが柱だ。さらに休みやすい職場の実現を促したい。
共働きの男女がともに仕事と子育てを両立し、その能力を発揮できる就労環境を整えることは喫緊の課題だ。男性の育休取得の促進は、その実現に欠かせない。
育休制度は原則、子どもが一歳になるまで取得できる。保育所が見つからないなどの事情があれば最大二歳まで延長できる。
男性の育休取得を進めるため、これまでも夫婦がともに取得する場合は、子どもが一歳二カ月になるまで延長できるなどの支援策が導入されてきた。
だが、厚生労働省の二〇一九年度調査では、民間企業に勤める女性の取得率83・0%に対し、男性は7・48%にとどまっている。男性の取得率は少しずつ増えてはいるが、その歩みは遅い。
改正案に盛り込まれた「出生時育児休業」(男性版産休)は、出生からの八週間に計四週分の育休を二回まで分けて取れる。現行では取得する一カ月前までの申請が必要だが、二週間前までに申請すれば取得できるようにする。
期間中の育休給付金は通常の育休同様、賃金の三分の二分が給付される。新制度は二二年十月スタートを想定している。
出産直後の妻は、育児や家事が大きな負担となる。産後鬱(うつ)を抱える場合もあり、夫が育休を取得する意義は大きい。
制度を使いやすくするには、企業の取り組みがカギを握る。
改正案は企業に対して、従業員に取得を働き掛けるよう義務付けている。制度の個別説明や上司の面談、社員研修や相談窓口設置などの環境づくりが必要となる。
最も重要なことは休みやすい職場を実現することだ。育休を取りづらい雰囲気や上司の無理解などが残る職場もある。働く側には、取得によって人事評価が下がるのではないかとの懸念が残る。企業の都合で一方的に転勤や異動が決められる雇用慣行が、取得を思いとどまらせる場合もある。
改正案には、育休取得状況の公表を大企業に義務付けることも盛り込まれた。子育てのしやすさを重視する学生にとっては、就職先選びの重要な指標となるだろう。
男性が休みやすい職場は、女性も働きやすいに違いない。男女を問わず社員の子育て経験は、企業活動にもプラスに働くはずだ。