関東大震災時の朝鮮人虐殺、東京・茨城・栃木は「把握せず」 1都6県調査に識者は「行政の役割果たしてない」(2024年9月1日『東京新聞』)

 
 1923年の関東大震災から、1日で101年。当時の朝鮮人虐殺を巡り、東京新聞は1都6県に、把握している犠牲者数などを取材した。東京と茨城、栃木は「把握せず」、神奈川は11人などと回答。市民団体や研究者らが各地で積み上げた調査が生かされず、識者は「事態を把握しようとの姿勢が見られず、行政の役割を果たしていない」と批判する。(石原真樹)

 関東大震災での朝鮮人虐殺 1923年9月1日の発生直後の混乱の中「朝鮮人が暴動を起こす」などの流言をきっかけに「自警団」や軍、警察が朝鮮人を殺害。中国人や社会主義の日本人も犠牲になった。政府中央防災会議の報告書は震災の死者・行方不明者約10万5000人の「1~数%」が虐殺犠牲者と推計し、これは千~数千人規模に当たる。東京都のほか神奈川や千葉、埼玉県など現場は広範囲に及んだ。

◆死者数「都は調査していない」

 「把握していない」と回答した東京。国の官庁記録に死者数などの記載もあるが、担当者は「あくまで国が把握した内容で、都は調査していない」と話した。
 政府が当時調査しておらず、正確な犠牲者数は分からない。専修大の田中正敬教授(朝鮮近現代史)は「虐殺については政府や都も史料を保存している」と指摘。「都の回答はこれまでの調査研究を無視し、看過できない。過去から学ぶために、ちゃんと調査すべきだ」と批判した。

◆神奈川、昨年の報告書では145人だが

 神奈川は計11人(一部不明)と回答。昨年9月、県が内務省に報告したとみられる文書「震災ニ伴フ朝鮮人並ニ支那人ニ関スル犯罪及保護状況其他調査ノ件」の存在を市民団体が公表し、県内で145人が殺害されたと指摘したが、反映していない。団体の山本すみ子代表は「公表後に県に話し合いを申し入れた。国が動かないことを理由に拒まれた」とし、横浜市に調査を交渉しているという。
把握している虐殺被害者の人数

把握している虐殺被害者の人数

 群馬は、自警団らが藤岡市の警察署に保護された朝鮮人17人を虐殺した「藤岡事件」のみを挙げた。倉賀野町(現高崎市)では9月4日、駐在所に保護された朝鮮人男性が殺される事件があり、判決文の原本を確認した立憲民主党の石垣のり子議員が今年4月に国会で取り上げている。

◆栃木・茨城にも史料、「さらに研究必要」と指摘

 栃木では、国立歴史民俗博物館の樋浦郷子准教授(教育史)によると、史料「日本の歴代知事」で当時の山脇春樹知事のページに「朝鮮人5名殺され」とある。茨城は、虐殺を報じた地元紙を調査した書籍「関東大震災の禍根―茨城・千葉の朝鮮人虐殺事件―」があり、田中教授は「さらなる研究が必要」と指摘した。
 東京新聞は「県や都内で殺害された人数や場所、加害者が誰だったのかなど把握している内容」を取材。6県には虐殺への知事の受け止めなども質問した。
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自治体が自ら調べ、政府に報告する義務がある

 関東大震災当時の朝鮮人虐殺を取材した、ノンフィクションライターの安田浩一さんの話 東京都などの回答からは、事態を把握しようとの姿勢が見られず、行政の役割を果たしていない。歴史に対する冒瀆(ぼうとく)だ。完全に把握することは難しくても、東京には数多くの証言が残っており、都が虐殺に向き合うために調査する姿勢が大事だ。「記録がないと政府が言うから、ない」とは本末転倒で、自治体が自ら調べて政府に報告する義務がある。各地で行われている市民による調査は、本来は行政がやるべき作業だ。