読み書きなどを苦手とする「学習障害(LD)」を抱える子どもたちの保護者らが、体験や支援方法を紹介するサイト「カラフルバード」をつくった。「苦労してきた経験をほかの人たちと共有したい。子どもの特性に気づき支援につなげてほしい」と語る保護者の経験とは。(デジタル編集部・小寺香菜子)
学習障害(LD) 全般的な知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論するといった学習に必要な基礎能力のうち1つまたは複数を苦手とし、学習上、さまざまな困難に直面している状態。米国の俳優トム・クルーズさんや映画監督スティーブン・スピルバーグさんが障害を公表している。
◆「ティッシュ」「スティック」が難しい
サイト立ち上げメンバーの1人、東京都の宮崎舞さん(仮名)の中学1年生の次女は、LDの1つで、読み書きに困難を持つ「ディスレクシア」と診断されている。
特に、「ティッシュ」や「スティック」、「ひょっとこ」など小さな「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」の入った文字の読み書きや、漢字を思い出して文字にすることが苦手。次女のつまずきに気付いてから、ディスレクシアと分かって適切な支援を受けるまでに約2年かかり、苦労したという。
◆担任に「今後落ちこぼれる」
宮崎さんが異変を感じたのは5年ほど前。手先が器用で「優等生」と言われてきた次女だが、小学2年生の時、担任に「今後落ちこぼれますよ」と指摘された。字をぐちゃぐちゃに書き、ノートもとれていない様子だったという。宮崎さんは「字が覚えられず、怠けていると思われ、自暴自棄も相まったのだと思う」と振り返る。
宮崎さんは学校の発達障害の専門相談員に相談するなどしたが、宮崎さんも相談員も学習障害だとは気がつかず「担任の先生と相性が悪いのかと思っていた」。その後、新型コロナウイルスの影響で学校が休校に。宮崎さんも仕事がリモートになり、次女の勉強を見ているうちに「ひらがなとカタカナの定着が悪い」と気がつき、「ディスレクシアではないか」と疑った。
◆相談も「やる気のせい」
学校や病院、区の教育相談にも相談したものの「やる気のせい」とされたという。それでも相談を続け、何とか養護教諭の紹介で専門の検査ができた。
「ディスレクシア」と分かったのは小学3年生の2月。学校側に結果を伝えたが、学校には結果を理解できる教職員がおらず、なかなか適切な支援につながらなかったという。「特別支援教室で(次女に対して)できるLDの支援はない」と言われ、特別支援教室に入るのも苦労した。
宮崎さんは情報を集め、専門家のアドバイスを学校に提案。小学校4年からはタブレット端末でノートを取ることが認められた。漢字を思い出すのが難しくても、文字をキーボードで入力したり、板書を写真に取るなどしたりして、授業をスムーズに受けられるようになったという。
◆Xで保護者がつながる
宮崎さんがサイトを立ち上げたきっかけは、このときに情報を集めたX(旧Twitter)でのつながりだった。
LDの情報を発信する保護者の投稿に返信するなどして交流が深まり、宮崎さんとLDの子どもを持つ保護者ら計4人は「LDの情報は集めにくく、苦労してきた経験を共有したい。タイムラインでは情報が埋もれてしまう」と、2023年3月に専門のサイトを開設。LDの相談先や学習法、保護者の体験談などの情報を集めて掲載している。専門家の講演や、保護者同士が語り合うイベントも開催してきた。
立ち上げメンバーの1人で、ICTを使ったLD支援を研究する兵庫教育大博士課程の内田佳那さんは「皆さん、我が子だけではなく、この先の子供たちや保護者が困らないように、LDの未来を変えていきたいという思いで参加している。支援者として見習わなければ」と話す。
◆サイト名の由来は・・・
開設から1年半がたち、サイトに共感する保護者が増え、今はSNSの更新も含め、約30人で運営している。千葉県の保護者は「サイトで知識を共有することで、同じ悩みを持つ保護者の助けになるのではないか」と話す。
今は月に1.7万〜2万のアクセスがある。今後は、地域ごとに支援状況も異なることから、全国に仲間を増やし、地域の情報も充実させたいという。
サイト名「カラフルバード」は、保護者同士がつながるきっかけとなった旧Twitterのアイコン「青い鳥」と、「多様な学びを探してほしい」という思いからだった。LDの状態は子どもにより多種多様で、適切な学び方や支援もそれぞれ違う。宮崎さんは「学校に楽しく通うために、色々な学び方を試してみて、合うものを見つけてほしい」と話す。
特別支援教育やLDの支援に詳しい筑波大人間系の丹治敬之准教授(障害科学)は「LDの子どもを持つ保護者が経験を発信することで、同じように悩んでいる他の保護者のロールモデルとなり、勇気づけられたり励まされたりする。研究者や専門家だけでなく、保護者目線での情報発信は意義がある」と話す。
◆ICT活用がLD支援に効果
学習障害は、単に「学習が遅れている」「本人の努力不足」とみなされたり、子ども自身が症状を隠したりすることから、周囲の大人が気付かないこともある。丹治氏は「学びにくい状態や学ぶことへの障害が見過ごされて適切な支援が受けられないと、子どもは勉強ができないと思い込んで自己肯定感が下がり、二次的な問題としてメンタルヘルスの不調に影響したり、不登校になったりしてしまうケースがある」と指摘する。
また、保護者の相談先としては学校の特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラー、地域の発達障害者支援センターがあるものの、学習障害を専門的に扱う療育機関は少なく、適切な支援につながらないケースがあるという。
一方、学習障害のある子どもの教育支援で、効果を上げているのがICT活用だ。文字の音声読み上げ機能や音声入力、キーボード入力を使えば、読み書きが困難な子どもの負担は軽くなる。丹治氏は「学びにくい状態を改善できる方法として、例えば、その子に合うICT活用をすることで、読み書きが楽になったり、学びやすくなったり、みんなと同じような学びを経験できたりする。学ぶ機会や学ぶ権利を保障する支援が必要になる」と学校での支援体制の充実を求めた。
※サイト「カラフルバード~CBLD~」はこちらからご覧になれます。