◆不出馬表明は当たり前の判断
不出馬の表明は衝撃でも何でもなくて、当たり前の結果だ。これだけ世論調査の支持率が低く、7割ぐらいの国民が「もう辞めてくれ」と言っている。不支持の原因が人柄や性格などではなくて、岸田首相のやってきた仕事そのものへの批判だった。政治とカネ、子ども子育て、防衛増税、原発再稼働などの問題もあり、ありとあらゆる国民負担が増える。政策的にもノーだという不支持だった。そこで総裁選に出ないというのはある意味では当たり前の判断だと思う。
◆岸田側近が見た8月上旬の「異変」
私の取材では、岸田首相の周辺はだいたいが「次は出るだろう」と言っていた。首相に近い側近も「8対2」で出るだろうと。「8割は出る」が「2割は分からない」というのは、岸田首相は最後は何をやるかわからない人だから。
ところが、8月の上旬にある側近が岸田首相と会った際、様子がちょっといつもと違ったそうだ。ちょうど株価が乱高下して、新NISAへの批判が出てきて、経済が今後どうなるか見通せない状況に入っていた時。これを本人は非常に気にしていたらしい。岸田首相が得意分野にしていたのは外交と経済。その経済が先行き不透明になった。その時に、その側近は「あれ、これもしかしたら『8対2』の『2』の方になるんじゃないか」と感じたという。
◆旧岸田派の2人、茂木敏充幹事長も浮上か
麻生太郎氏
岸田首相は、自分が不出馬ということになれば、これからは(岸田氏とのすきま風も指摘されている)自民党の麻生太郎副総裁とも連携できるようになる。今までは岸田首相の再選出馬について、いろいろ麻生氏にも意見があったけれど、岸田首相が出ないならば「一緒にやろうか」という感じになるだろう。なんだかんだ言っても、岸田・麻生が誰を出すのかが焦点になってくる。
それで可能性がある人物としては、いずれも(解散を決めた)岸田派に所属していた上川陽子外相、林芳正官房長官。岸田・麻生が話をしやすくなると、(岸田政権で麻生派とともに主流派を形成していた旧茂木派会長の)茂木敏充幹事長も浮上してくるかもしれない。
◆「小石河」の調整は急ピッチで始まる
菅義偉氏
この動きに対して困るのは、菅義偉前首相をはじめとする「反岸田」派だ。これまでは、岸田首相が再選出馬に出てくると思っていたからやりやすかった。その「敵」がいなくなるわけだから、対立軸が作りにくくなる。
実際の候補としては石破茂元幹事長、河野太郎デジタル担当相、小泉進次郎元環境相の、いわゆる「小石河」。この3人をどうするのかという調整が、今から急ピッチで始まるだろう。3人をひとまとめにするのか。3人が全員立候補して、決選投票で連携するのか。そういうシナリオを再構築していかないといけない。
この中では、(当選回数の少ない)小泉氏は「総理をやれるのか?」という話になってくる。石破氏がいちばん可能性があるか。
それ以外には、高市早苗経済安保担当相とか小林鷹之前経済安全保障担当相の名前も挙がる。高市氏は「保守票」をまとめるために出るだろう。当選4回の小林氏は、若手が「自民党を変えないといけない」と担ぎ出そうとしているが、なんで裏金事件の時に声を上げなかったのか。総裁選の段階になって声を上げるのは「やってる感」を出す永田町の論理で、違和感を感じる。
◆立民は代表選で野党共闘の議論を見せて
総裁選と同時期に代表選がある立憲民主党の対応にも注目が集まる。これまでは岸田首相がいたからこそ「古い自民党をやっつけよう」とやりやすかった面がある。新しい相手にれば、自民党がそれだけで盛り上がってしまう可能性がある。
立民としては、自分たちの代表選をどう盛り上げるかが重要になる。いちばんのポイントは、政策よりも、政権交代というリアリズムだと思う。「こういう政策で立民が」ということではなく、政権交代に向けた野党共闘、野党協力のあり方の議論を代表選の中で見せられるかどうかだ。