海自で相次ぐ不祥事 規律回復へ、第三者調査を(2024年7月10日『河北新報』-「社説」)

 自らを律することができない組織に国の防衛を担うことができるのか。もはや自浄能力に委ねてはいられない。規律の回復に向け、まずは第三者委員会など外部による調査で徹底的に組織体質を検証しなくてはならない。
 海上自衛隊で耳を疑うような不祥事が相次いでいる。
 潜水艦乗組員らが艦船修理を受注する川崎重工業から金品を受領していたほか、無資格者による「特定秘密」の取り扱いが判明。さらに隊員による手当の不正受給疑惑もきのう、新たに発覚した。
 関係者の厳正な処分は当然だとしても、より重要なのは隊員と組織の倫理観がむしばまれた原因の究明だろう。うみを出し切る覚悟で実態解明を進めるべきだ。
 川重から乗組員らへの物品提供は、大阪国税局の税務調査をきっかけに判明した。同社が下請け企業との架空取引で不正に資金を捻出し、飲食のもてなしに加え、商品券や工具、家電製品やゲーム機、そろいのTシャツなどを供与していたという。
 不正な資金捻出が始まったのは遅くとも6年前で、流用した額は少なくとも十数億円に上る疑いがある。
 専門性、機密性が高い潜水艦の建造や修理は川重と三菱重工業の2社が事実上、独占しており、競争原理が働かない。川重からの利益提供にはこうした特殊な受注環境で権益を維持する狙いがあった可能性がある。
 さらに、潜水作業に従事した隊員に支給される手当を実際には潜水していない隊員が受け取っていたとされる不正受給疑惑は、その総額が数千万円に上る見込みだという。
 これでは将来的な増税も織り込んで膨張する防衛予算が適正に執行されるかどうかも定かではなく、まさに国民の信頼を根底から揺るがす不祥事と言わざるを得ない。
 政府は2023年度から5年間の防衛費を1・5倍の総額43兆円に増額する。財源確保のための増税は開始時期の議論が先送りされているが、このままでは到底、国民の理解は得られまい。
 一方、機密性の高い「特定秘密」のずさんな取り扱いは連携を強める米国との信頼関係にも影響を与えかねない。
 特定秘密は防衛や外交、スパイ防止、テロ防止への影響が著しい機密情報。日米の防衛協力が進む中、米軍と共有している情報も少なくない。
 法律で適性評価を受けた人しか取り扱えないことになっているにもかかわらず、海自内では複数の護衛艦で適性評価を経ていない隊員が特定秘密を扱う任務に就いていたとされる。
 安全保障環境が厳しさを増していることを理由に防衛予算の優遇と聖域化が進んだことも、一連の不祥事と関連しているのではないか。政府、国会は問題の根深さを過小評価することなく、全容解明に努めなくてはならない。