都知事選に関する社説・コラム(2024年7月9日)

都知事選の「石丸現象」 政治への不満を吸収した(2024年7月9日『毎日新聞』-「社説」)
 
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小池百合子氏の再選が確実となり、支持者らの前であいさつする石丸伸二氏=東京都新宿区で2024年7月7日午後8時27分、猪飼健史撮影
 山積する課題に処方箋を示せない政治に対する不信の表れだ。
 小池百合子氏が3選を果たした東京都知事選で、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が次点に食い込んだ。元立憲民主党参院議員の蓮舫氏が3位に終わる番狂わせの結果となった。
 浮き彫りになったのは既成政党への逆風だ。小池氏が政党色を抑えて守りに徹する中、立憲、共産両党の支援を受けて与野党対決に持ち込もうとした蓮舫氏は失速した。一方、「完全無所属」の石丸氏が躍進した。
 石丸氏は市長時代、市議会を厳しく批判し、市議から名誉毀損(きそん)で提訴される事態にまで発展した。対立をあえてネット上にさらすことで知名度を上げた。
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選挙戦最終日、石丸伸二氏(左下)の街頭演説に耳を傾ける多くの有権者たち=東京都千代田区で2024年7月6日午後3時25分、幾島健太郎撮影
 今回の選挙戦でも、「政治屋の一掃」などのスローガンを掲げ、SNS(ネット交流サービス)で動画を拡散し、若者や無党派層を引きつけた。小池都政への批判にとどまらず、政治全般に対する不満を吸収したとみられる。
 ただ、ネット上で一方的に持論をアピールするにとどまり、政策論争が深まったとは言えない。欧州などで注目される大衆迎合的な政治スタイルだが、日本で大きな潮流となるかは不透明だ。
 蓮舫氏は無党派層の受け皿になれなかった。知名度はあっても、与党との対決姿勢が党派色を強め、空回りに終わった。
 自民の状況はさらに厳しい。支援した小池氏は勝利したが、都議補欠選挙では公認候補が2勝6敗と大敗した。派閥裏金事件で処分を受けながら都連会長を続ける萩生田光一政調会長の地元・八王子市でも、新人が敗れた。
 他の野党も振るわなかった。昨春の統一地方選で躍進した日本維新の会と、立憲と候補者を一本化した共産は、議席ゼロだった。
 知事選、都議補選の敗者は、既成政党だったと言える。
 政治とカネの問題は解決しておらず、物価高に政府は場当たり的な対応を続ける。野党も課題解決の代替案を示せていない。
 有権者の声に耳を傾けてこなかったつけが回った形だ。閉塞(へいそく)感の打破を求める民意が、新しい受け皿を探しているのが現状ではないか。与野党は猛省し、政治の立て直しに努めなければならない。
 

有権者の不安と変化も、都知事選(2024年7月9日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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東京都知事選に当選し、登庁する小池百合子東京都知事(岩崎叶汰撮影)
 目の前で古い建物が取り壊されるそばから、新たな建物が姿を現す。明治末期、九州から上京した青年が東京・丸の内で目にしたのは、最先端の都市へと脱皮を続ける首都の姿だった。「自分は今活動の中心に立っている」
 夏目漱石三四郎』である。三四郎青年は同時に「甚だ不安」とも吐露した。加速度的に変わる現実に、置き去りにされた感覚を抱いたからだ。疎外感だろう。自分が過ごしてきた世界と現実の世界は、同じ平面の上にありながら何の接点もない。
 小説の時代から百十数年、われわれが体感しているのは、三四郎が感じたものより深刻な不安である。高齢化による社会の老いが進み、若者の抱える経済不安などが少子化の流れを危機的な状況に加速させている。地震など自然災害へのおびえも、身にまとわりついて離れない。
 都知事選は有権者の不安を拭えただろうか。小池百合子知事が3選を決めたものの、選挙戦で政策論争が深まったとは言い難い。進行中の施策や新たな施策による首都の姿が、わが国をどこへ導くのか、現職としての先見の明を示してほしかった。
 少子化対策にはどんな目算があるのか。日本の将来を左右する施策ゆえ、丁寧な説明と検証が欠かせまい。都民と同じ平面上に立ち、不安を拭うのも知事の仕事だ。「完全無所属」を掲げた前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が、次点の約165万票を得たことも無視できない。
 精力的な街頭演説とSNSによる巧みな宣伝戦で、既存政党に対する有権者の不満の受け皿になったというのが、もっぱらの見立てである。都議補選で8人立てた候補者のうち2勝に終わった自民党にとっても、過小評価できぬ有権者の「変化」ではなかろうか。
 

東京の民意 政党不信と受け止めよ(2024年7月9日『東京新聞』-「社説」)
 
 東京都知事選で3選を果たした小池百合子氏は、支援を受けた自民党などの政党色を抑える選挙戦術が奏功し、立憲民主、共産両党が支援した蓮舫参院議員は3位に。2位に食い込んだのは政党の支援を受けず、若い政党支持なし層を中心に支持を集めた石丸伸二前広島県安芸高田市長だった。
 与野党は選挙結果を、既成政党に対する有権者の不信の表れと深刻に受け止め、政治の信頼回復に努めなければなるまい。
 派閥裏金事件で厳しい逆風にさらされている自民党は、小池氏を自主支援したものの、水面下での組織票固めに徹し、党幹部が応援演説に立つ場面はなかった。
 本紙の出口調査では、知事選で裏金事件を「重視した」との答えは70%に上り、小池氏3選は自民党の信頼回復を意味しない。
 自民党に対する有権者の厳しい姿勢は都議補選に反映された。自民党の当選者は、擁立した8人中2人にとどまり、選挙前の5議席から大幅減。裏金で処分を受けた萩生田光一政調会長の地元・八王子市選挙区では、自民党新人が諸派の候補に大差で敗れた。
 一方、立憲民主党が実質的に全面支援し、鋭い舌鋒(ぜっぽう)が持ち味の蓮舫氏も、小池氏批判票の受け皿にはなれなかった。
 小池氏を表立って支援しなかった自民党を相手に、共産党とともに国政での与野党対決を持ち込んだ選挙戦術が妥当だったのか。
 都知事選での勝利を、次期衆院選での政権交代につなげたい気持ちが先走りしすぎて、都民の意識と離れていったのではないか。
 蓮舫氏は立民、共産両党の支持層をそれぞれ7割程度しか固められなかった。共闘効果の有無も検証する必要があるだろう。
 政党支持なし層が最も支持したのは、ほぼ無名から150万票超を集めた石丸氏だった。交流サイト(SNS)を駆使して政治の再建を唱える戦術が若い世代を投票所に向かわせた可能性があり、若者の政治参加を促すために、学ぶべき点も多いのではないか。
 都知事選と違い、衆院選は政党同士が政権を争う選挙になるが、政党支持なし層が当落を左右するのは共通だ。
 政党不信が突き付けられた今回の選挙を踏まえ、政治への信頼をどう回復し、支持なし層や若者の政治への関心を高めるのか。与野党ともに論議を尽くしてほしい。