小池百合子氏の再選が確実となり、支持者らの前であいさつする石丸伸二氏=東京都新宿区で2024年7月7日午後8時27分、猪飼健史撮影
山積する課題に処方箋を示せない政治に対する不信の表れだ。
今回の選挙戦でも、「政治屋の一掃」などのスローガンを掲げ、SNS(ネット交流サービス)で動画を拡散し、若者や無党派層を引きつけた。小池都政への批判にとどまらず、政治全般に対する不満を吸収したとみられる。
自民の状況はさらに厳しい。支援した小池氏は勝利したが、都議補欠選挙では公認候補が2勝6敗と大敗した。派閥裏金事件で処分を受けながら都連会長を続ける萩生田光一前政調会長の地元・八王子市でも、新人が敗れた。
知事選、都議補選の敗者は、既成政党だったと言える。
政治とカネの問題は解決しておらず、物価高に政府は場当たり的な対応を続ける。野党も課題解決の代替案を示せていない。
目の前で古い建物が取り壊されるそばから、新たな建物が姿を現す。明治末期、九州から上京した青年が東京・丸の内で目にしたのは、最先端の都市へと脱皮を続ける首都の姿だった。「自分は今活動の中心に立っている」
夏目漱石『三四郎』である。三四郎青年は同時に「甚だ不安」とも吐露した。加速度的に変わる現実に、置き去りにされた感覚を抱いたからだ。疎外感だろう。自分が過ごしてきた世界と現実の世界は、同じ平面の上にありながら何の接点もない。
小説の時代から百十数年、われわれが体感しているのは、三四郎が感じたものより深刻な不安である。高齢化による社会の老いが進み、若者の抱える経済不安などが少子化の流れを危機的な状況に加速させている。地震など自然災害へのおびえも、身にまとわりついて離れない。
都知事選は有権者の不安を拭えただろうか。小池百合子知事が3選を決めたものの、選挙戦で政策論争が深まったとは言い難い。進行中の施策や新たな施策による首都の姿が、わが国をどこへ導くのか、現職としての先見の明を示してほしかった。
少子化対策にはどんな目算があるのか。日本の将来を左右する施策ゆえ、丁寧な説明と検証が欠かせまい。都民と同じ平面上に立ち、不安を拭うのも知事の仕事だ。「完全無所属」を掲げた前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が、次点の約165万票を得たことも無視できない。
精力的な街頭演説とSNSによる巧みな宣伝戦で、既存政党に対する有権者の不満の受け皿になったというのが、もっぱらの見立てである。都議補選で8人立てた候補者のうち2勝に終わった自民党にとっても、過小評価できぬ有権者の「変化」ではなかろうか。
東京の民意 政党不信と受け止めよ(2024年7月9日『東京新聞』-「社説」)
東京都知事選で3選を果たした小池百合子氏は、支援を受けた自民党などの政党色を抑える選挙戦術が奏功し、立憲民主、共産両党が支援した蓮舫前参院議員は3位に。2位に食い込んだのは政党の支援を受けず、若い政党支持なし層を中心に支持を集めた石丸伸二前広島県安芸高田市長だった。
派閥裏金事件で厳しい逆風にさらされている自民党は、小池氏を自主支援したものの、水面下での組織票固めに徹し、党幹部が応援演説に立つ場面はなかった。
自民党に対する有権者の厳しい姿勢は都議補選に反映された。自民党の当選者は、擁立した8人中2人にとどまり、選挙前の5議席から大幅減。裏金で処分を受けた萩生田光一前政調会長の地元・八王子市選挙区では、自民党新人が諸派の候補に大差で敗れた。
蓮舫氏は立民、共産両党の支持層をそれぞれ7割程度しか固められなかった。共闘効果の有無も検証する必要があるだろう。
政党支持なし層が最も支持したのは、ほぼ無名から150万票超を集めた石丸氏だった。交流サイト(SNS)を駆使して政治の再建を唱える戦術が若い世代を投票所に向かわせた可能性があり、若者の政治参加を促すために、学ぶべき点も多いのではないか。