『くるり~誰が私と恋をした?~』©TBS
TBSの火曜ドラマ枠で放送中の『くるり~誰が私と恋をした?~』は、記憶喪失になった主人公・まこと(生見愛瑠。ぬくみめる)のもとに現れる3人の男性との恋模様を描いたラブコメディでありながら、ミステリー要素も加えた意欲作だ。生見愛瑠、瀬戸康史、神尾楓珠、宮世琉弥という豪華キャストが集結し、新しい“火曜ドラマ”としての注目を集めている。
花束に囲まれて笑顔のクランクアップを迎えた生見愛瑠、瀬戸康史ら
制作の裏側には、どのようなドラマ作りへの想いがあったのか。演出やキャスティングの狙い、これまでのエピソードの反響など、気になる点は尽きない。そこで今回は、本作のプロデューサーを務める八木亜未氏に、最終回の見どころとドラマ制作の舞台裏について話を聞いた。(すなくじら)
本当に悩んだ朝日(神尾楓珠)の描き方
ーー本作の企画が動き出したきっかけから教えてください。
八木亜未(以下、八木):いろんなタイプの男性が現れて、最初から誰と結ばれるか明確にわからない展開の作品を見てみたいなという思いがきっかけです。このドラマが動き出したタイミングは、実はかなりギリギリで。「こういうの面白そうだな」って妄想したのが始まりでした(笑)。そこから「主人公をどんな設定にしたら、誰を選ぶのか視聴者の方が楽しんでもらえるかな」と考えて、この物語が生まれました。
ーー主演に生見愛瑠さんを起用した理由は何だったのでしょうか?
八木:生見さんは、他のドラマでの演技を観て、大変魅力を感じていました。バラエティで見せる明るさ……アイコンとしてのめるると、女優としてお芝居をしている生見さんの差というか、かわいらしさとお芝居の幅の広さがすごいんです。記憶喪失という難しい役でありながら、物語を明るく前向きに引っ張っていける。この主人公役にうってつけだと思い、オファーしました。生見さんの自然体の演技と抜群のかわいさには、現場でもいつも魅了されっぱなしです。モニター越しに見ていても、つい「かわいい!」と声に出してしまうほどでした(笑)。
八木:もちろん人気や演技力も起用の大きなポイントでしたが、まず大前提として、3人とも全然タイプの違う方にしたいと思っていて。そこで瀬戸さんには、かわいさと大人の色気を兼ね備えた役柄の公太郎を。普段は影のある役が多いイメージの神尾さんには、ひたすら優しいいい人の朝日を。そして勢いに乗っている宮世さんには、序盤は謎めいているけど、物語の終盤で大きな役割を担う律を演じてもらうことにしたんです。
ーー制作の中で、悩んだのはどんな部分でしたか?
八木:正直に言うと、朝日の描き方は本当に悩みました。「視聴者のみなさんに、彼はどう見えているのかな」って。例えば第5話で主人公の実家までついていくシーンや第8話で朝日が嘘をついたことを告白したシーンなんかは、どう受け止められるか本当にドキドキでした。でも蓋を開けてみたら、皆さん朝日を応援してくださって。そこは本当に嬉しかったし、安心しました。
ーー撮影現場では、出演者の方々から出たアイデアや意見が取り入れられているそうですね。
八木:キャストの皆さんからは、たくさんのアイデアや意見をいただきました。特に「キュンとするシーン」の演出では、出演者の方々の意見が反映されています。例えば、第3話で瀬戸さん演じる公太郎がまことの手にハンドクリームを塗るシーン。あれは、実際にやってみたら「気持ち悪く見えちゃうかも」なんて話になったんです。でも瀬戸さんが工夫を重ねてくれて、ポイントを押さえた自然な動きに仕上がりました。第9話の“花びらキス”のシーンも、いろいろと試行錯誤しながら作り上げていきましたね。
ミステリー要素を取り入れるのはチャレンジだった
ーー胸キュン要素の多い火曜ドラマでありながら、ミステリー色とのバランスが絶妙でした。
八木:ラブコメとミステリーのバランス調整には本当に悩みました。ミステリーの要素を前面に出してしまうと、「この人は嘘をついてるんだ」とわかってしまうじゃないですか。それだと、視聴者は純粋にラブコメとして楽しめるのかが疑問で。その辺の塩梅が非常に難しかったですね。また、3人の男性を恋愛対象のキャラクターとして魅力的に見せるためには、1人ずつ丁寧に描写していく必要があったんです。結果として、そのセットアップに第4話までかかってしまいました。
ーー後半はかなりミステリー要素が色濃くなってきて。
八木氏:そうなんです。第9話の最後のシーンなんかは、「そろそろ誰かに怒られるんじゃないか」と不安になることもありました(笑)。でも作り手として、視聴者の方が火曜ドラマに期待しているラブコメの要素は大切にしつつ、そこに新しいエッセンスや違った視点を加えていきたいという思いもあったんです。ベースは崩さずに、ちょっとした新しさを入れていく。一視聴者としてもそれを求めていたので、ミステリー要素を取り入れるのはチャレンジではありましたが、思い切ってやってみました。放送中は私もSNSで視聴者の反応をチェックしているんですが、予想以上に「ここで“くるり”しそう」といった声が上がっていて。そうした反応を見ていると、「火曜ドラマでもこういう演出をしてみてもいいんだな」と感じましたね。
ーー演出にも工夫が?
八木:はい。松木監督のこだわりでもありますが、基本的に俳優さんには怪しさを表に出さないよう演技をしてもらい、代わりにカメラアングルなどで怪しさを匂わせるようにしたんです。ただ、律に関しては、切ない表情を見せるシーンが多めの印象があると思うんですけど。最後まで3人の中から誰を選ぶのかわからない状態を維持しつつ、誰を選んでもハッピーエンドに見えるように仕上げるのは、なかなか大変な作業でした。そして、色々分かってきた後半のタイミングで見返した時に、違う意味で見えるように、と工夫しました。
ーーちなみに、男性視聴者の反応はいかがですか?
八木:それが、私の周りで「『くるり』、めっちゃ面白いです!」ってわざわざ感想をくれる方は男性が多いんです。ミステリー要素を入れた効果なのかもしれません。“火曜22時枠”でありながら、ちょっといつもと違う層にも響いている気がしています。
ーー今回のドラマ制作を通して、八木さんが一番大切にしたところはどんなところでしょうか?
八木:今回のドラマで私が一番大切にしたのは、登場人物全員に対して愛情を持つこと。脚本を作る段階から、1人のキャラクターに感情移入しすぎないように気をつけました。主人公のまことはもちろん、3人の男性たちにも平等に愛着を持って接するように。それぞれの役割や魅力を丁寧に描写することで、視聴者の皆さんから「誰を選んでも幸せになれそう」って思ってもらえるような作品にしたかったので。その想いは、ブレずに最後まで持ち続けました。
ーー最終回に向けての見どころを教えてください。
八木:クライマックスに向けて見どころになるのは、2つの恋の行方です。記憶をなくす前に想いを寄せていた相手の存在と、記憶喪失後に芽生えた新しい恋心。まことは、最後まで悩みに悩みつつも前に進み続けます。彼女の成長する姿を応援してもらえたら嬉しいです。そして、この作品は記憶喪失という設定を通して、自分探しをするストーリーでもあります。だからこそ最終回では、そういう側面も含めて視聴者の方の背中を押せるようなメッセージを込めました。まことの選択を、ぜひ最後まで一緒に見届けて欲しいです。
すなくじら