投票用紙といえば…(2024年6月16日『毎日新聞』-「余録」)

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2021年の神戸市長選で用いられた「記号式」投票用紙の見本=同市ホームページより
 
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東京都港区長選で、候補者の訴えに耳を傾ける人たち=港区で2024年5月26日、長屋美乃里撮影
 
 投票用紙といえば、候補者や政党の名前を書くイメージが強い。だが、新人の女性候補が当選したさきの東京都港区長選(2日投開票)は用紙にあらかじめ候補名が印刷され、丸印のスタンプを押して選ぶ方法だった
▲候補名などを記す方法を自書式、丸印を記入する方法を記号式という。衆参議員選挙は自書式とするよう法律で定めている。一方、地方選挙は記号式でもよく、総務省によると216自治体の首長選挙は記号式だ。最近は神戸市長選で導入されたが少数派で、都内は港区長選に限られる。投票用紙の印刷が告示後になることや、用紙での名前の列記順が投票に影響しないかという懸念などからとみられる
▲ただし、日本のように自書式を原則とする国はまれである。手書きの記入が難しい有権者がいたり、判読の難しい疑問票が生じやすかったりするためだ。日本も1994年に法改正で衆院選で記号式導入を決めたが、一度も実施されずに撤回されてしまった
▲以来、国政選挙での導入機運は乏しい。事情に詳しい松本正生・埼玉大学名誉教授によると最大の理由は「名前を書かせた方が有利だと、世襲政治家や現職候補が思いこんでいるため」という
▲どうやら、投票用紙まで既得権益と考えているらしい。実際に投票に影響することはほとんどないと思われ、何とも時代錯誤な発想である
投票率アップに向けて検討を求める声もあるインターネット投票も、自書式の見直しが前提だろう。もっと議論されていい、1票の投じ方だ。