「アバレルヨー」本当に帰せるか 難民申請繰り返すクルド人ら改正法10日施行でどうなる(2024年6月9日『産経新聞』) 

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東京出入国在留管理局。上階に収容施設がある=東京都港区
不法滞在者らが難民認定申請を繰り返して国内に在留する問題の根本的解決を目指す改正入管難民法が、10日施行される。難民申請中で入管施設への収容を一時的に解かれた「仮放免者」は今後どうなるのか。強制送還に至ったとしても、帰国便で暴れるなど深刻なケースが後を絶たない中、本当に帰国させられるかなど注目される。
2回以上申請1600人
「何度も難民申請している『古参』のクルド人男性が、今回の法改正と強制送還の動きに動揺している」
関係者はそう話す。男性は出入国在留管理局(入管)で今回の法改正について説明を受けたという。
埼玉県川口市ではトルコの少数民族クルド人と地域住民の軋轢が表面化している。
仮放免者は、難民申請中などのため入管施設への収容を一時的に解かれた立場で不法滞在の状態だ。出入国在留管理庁のまとめによると、市内には仮放免者が4月時点で700人程度おり、大半はクルド人とみられる。
改正法施行により、2回目の難民申請まではこれまで通り母国への強制送還が停止されるが、3回目以降は新たに難民と認定すべき「相当な理由がある資料」を示さない限り、送還できるようになる。
入管庁の3月のまとめによると、2回目以上の複数回申請者は全国に1661人。トルコ国籍が402人と4分の1を占める。全体の8割は2回目の申請だが、3~6回目も計348人いた。
仮放免者が送還対象となった場合、いったん各地の入管にある施設に収容されることになるが、入管関係者は「理由無く出頭に応じない場合は、入国警備官を自宅に派遣するなどして所在を確認することになる」と説明する。
「アバレルヨー」は罰則
強制送還はどのように行われるのか。これまでの例から、大多数は自発的に帰国することが求められるが、多くは渋々ながらで、中には最後まで送還を拒否する者もいるという。
入管関係者によると、あるトルコ国籍の男性の場合、航空機に搭乗時に突然叫んで暴れ、放尿して抵抗、機長が搭乗を拒否した。1週間後に再度試みたが、「アバレルヨー」と大声で宣言して再び暴れ、警備官らが両手足を押さえてようやく帰国便に乗せたという。
改正法では、収容施設から空港への移送中や航空機内で送還妨害行為に及ぶなど、送還が特に困難な場合は1年以下の懲役か20万円以下の罰金、もしくは両方が科される罰則つきの退去命令を出せるようになった。
一方で、自発的に帰国する場合は、再び日本へ入国できるようになるまでの期間を5年から1年に短縮して帰国を促す。再入国の際は、在留資格の要件を満たしているなどの立証を条件とする。
入管関係者は「送還忌避者を帰国便に乗せるのは本当に難しいが、法律上は帰せることになった以上、しっかりと運用していく」と話す。
400人で1万人以上を調査
不法滞在者の迅速な送還に向け、鍵を握るのは難民審査の期間短縮だ。
入管庁は難民審査の標準的な処理期間として「6カ月」を掲げるが、昨年のデータでは、実際の審査期間は平均2年2カ月余り。申請中の送還停止が2回までに制限されても、不法滞在状態が平均4年4カ月以上続くことになる。
昨年の難民申請者数は、新型コロナ明けもあり1万3823人と前年の3倍超に激増。これに対して難民調査官と呼ばれる実際に審査にあたる専門職は、兼任を合わせても全国で約400人しかいない。
入管庁は膨大な申請の中から、難民の可能性が高いと考えられる案件を優先的に処理して迅速化を図るが、通訳の確保が難しかったり、大量の提出資料の翻訳や精査に時間がかかることが多いという。
申請者は、難民の可能性が高い人が「A案件」とされ、「B」は明らかに該当しない場合、「C」は正当な理由なく申請を繰り返している場合、「D」はその他の場合に分けられる。ただ、信憑性を判断するため何度も話を聞くケースもあり、マンパワーが追いついていないのが実情だ。
今国会で「不法滞在者の帰国までの期間はどう短縮されるのか」と問われた入管庁幹部は「平均処理期間が標準処理期間の6カ月に近づくよう努める。その上で、強制送還についても速やかな実施に努める」と答弁した。