住所要件の指摘受け自主的に転入 東京・足立区の20代選管委員・古野香織さん(2024年5月30日『産経新聞』)

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学校で主権者教育について出張授業を行う古野香織さん(本人提供、画像の一部を加工しています)
 
若い力によって投票率の低下を食い止めようと、昨年12月に東京都の足立区議会が選挙管理委員に抜擢した古野香織さん(28)が今月下旬、区外から足立区に転入した。起用を巡っては、就任の約2カ月半後に区内に居住しておらず資格要件を満たしていなかったと区が発表。ただ、資格要件の決定権を持つ他の選管委員は、法解釈の相違などを理由に慰留した。一時は不安もあったとしながらも、学校などに出向き主権者教育の授業を行うなどしてきた古野さんだが、迷いを断ち切り、職務を全うする覚悟だ。
古野さんは高校時代に政治に興味を持ち、大学では選挙権年齢を引き下げるための活動や、学生団体を立ち上げて大学生など若い世代の投票率向上を目指す活動を行ってきた。現在はNPO法人で学校と連携して校則やルールなどを生徒が主体的に考える主権者教育などに力を入れる。
古野さんは昨年、選挙に関わる事務の管理や選挙の啓発や普及などを行う選管委員の打診を受けた。「正直、選管についてあまり知らなかった」が、調べていくうちに「投票率が低い20代の立場から話ができるのでは」と承諾した。
しかし、就任後に区外に住む古野さんが資格要件を満たしていない可能性が浮上。古野さんは「今後どうなるのか」と不安だったという。
選管が総務省に問い合わせを行うなど対応を検討する中、区は総務省の見解を踏まえて3月に「資格要件を満たさないことが判明した」とする文書を公開。古野さんに対しても謝罪した。
公表後、古野さんの交流サイト(SNS)には残念がる声が寄せられ、「期待を寄せていただいたのに力になれていない」ともどかしさを感じていたという。一部からは選管とは関係がないにもかかわらず勤務するNPO法人に対してまで臆測での批判もされ、悩む時期が続いた。
失職かと思われたが、選管が失職させない方針を固めたこともあり、「自分は委員として何もまだできていないと思う」と職務を続けることを決断した。
就任から約半年間、「主権者教育の普及が必要」と学校に出向いて模擬選挙の見学や、7月に投開票を控える都知事選と都議補選に向けて、投票所の数や投票可能時間の調整、情報発信などの重要性を伝えるなど精力的に活動してきた。
今月下旬、区内在住が資格要件とする総務省の見解を受け、自主的に転居した。足立区の投票率改善のため、「主権者教育を足立区全体のすべての子供たちに行き届くようにしたい」と話している。(梶原龍)