梅雨入り前に、国民の怒りが爆発しそうだ。6月使用分(7月請求)の家庭向け電気料金が大幅に値上がりする。前年同月と比べ、関西電力で46・4%、東京電力で20・9%も上昇するのだ。価格を抑える政府の補助金が廃止されるうえ、電気料金に上乗せする再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)が4月に引き上げられたことも影響した。
長期金利も11年ぶりの高水準となり、住宅ローンの固定金利が引き上げられる恐れもある。国民生活は厳しさを増しそうだが、岸田文雄首相は「国民は減税効果を実感できる」と、6月からの定額減税額の給与明細への記載を義務付けた。物価上昇に苦しむ国民を、「恩着せ減税」でごまかす狙いか。
「国民が将来への不安から、ますますお金を使わなくなることが懸念される」「岸田政権に対する国民の『不信』は『絶望』に変わっていくのではないか」 経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう語った。
詳しい解説は後述するとして、電気代の大幅増には驚くばかりだ。 6月使用分の家庭向け電気料金の値上がり率は前年同月と比べて、関西電力が46・4%、九州が43・8%、中部が25・1%、東京が20・9%、四国が20・1%、沖縄が19・4%、東北と北陸が17・5%、北海道が17・2%、中国が14・4%となる。 これに伴い、同月使用分の標準家庭の料金見通しは、沖縄が9663円(前月比616円増)と最も高く、最も安いのは九州の7551円(同450円増)となる。
政府は2023年1月から、ロシアのウクライナ侵攻や円安に伴う物価高への対策として、電気・ガス代の補助を始めたが、液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格がウクライナ危機前と同水準に落ち着いたことを理由に補助の廃止を決めた。 補助金の廃止に加え、値上がりの要因となるのが、太陽光や風力発電など「再生可能エネルギー」普及のため電気料金に上乗せされている「賦課金」の上昇だ。
再エネ賦課金の24年度の単価は、1キロワット時当たり3・49円で、前年度比2・09円増と大幅にアップした。この影響で、標準家庭(使用量400キロワット時)の電気料金は4月から月額836円も上昇した。何と年1万円程度の負担増となる。 再エネ賦課金は右肩上がりで増えてきたが、太陽光発電に用いるパネルは中国が大きなシェアを持ち、素材(多結晶シリコン)の半分はウイグル人への人権侵害が問題視される新彊ウイグル自治区で生産されている。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は、夕刊フジの連載「亡国のエコ」(2023年3月)で、「電気代高騰は『反原発』『再エネ推進』『脱炭素』といった、いずれも『エコな』政策のせいだ。これを変えない限り、光熱費補助金を何兆円ばらまいても意味がない。また、いずれ同じことが起きるのは必定だ」と指摘していた。
電気料金の値上がりが痛いのは、物価高に賃金アップが追いつかないなかでの負担増となるからだ。
厚労省が今月9日に公表した3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は前年同月から2・5%減り、24カ月連続のマイナスとなった。リーマン・ショックなどによる景気低迷期を超えて過去最長を更新している。
■「恩着せ減税」ともいえる記載義務化
岸田政権は6月から、1人計4万円の所得税と住民税の定額減税を行うが、これに関して国民感情を逆なでするような施策を決めた。
減税への「実感」を高めるため、所得税減税額の給与明細への記載を義務付けることを決め、雇用主に給与明細への記載を求める省令を6月1日から施行する。
「恩着せ減税」ともいえる記載義務化に対し、野党からは批判の声が出ている。
立憲民主党の安住淳国対委員長は22日の党会合で、記載義務化について、「税金を使った選挙の買収運動と言われても仕方ない。国民に『ありがたみを感じろ』と言わんばかりの態度だ」と語った。
同日の参院予算委員会でも問題視する声が出たが、岸田首相は「現金支給額に上乗せされるため、手取りが増える」ことが実感できると強調し、「国民への周知を行うことで経済的効果、経済政策との整合性を周知させるものだ」と主張した。
岸田政権の姿勢を識者はどうみるか。
前出の荻原氏は「岸田政権は給付金を出すわけでもなく、たった1回きりの定額減税をアピールしている。給与明細への減税分の明記も恩着せがましさを出したいのだろうが、事務負担を増やすだけで、効果はないだろう。岸田政権は国民に顔を向けていない。なぜ消費低迷に拍車をかけるような政策しかできないのか」と疑問を呈する。
前出の荻原氏は「岸田政権は給付金を出すわけでもなく、たった1回きりの定額減税をアピールしている。給与明細への減税分の明記も恩着せがましさを出したいのだろうが、事務負担を増やすだけで、効果はないだろう。岸田政権は国民に顔を向けていない。なぜ消費低迷に拍車をかけるような政策しかできないのか」と疑問を呈する。
国民生活は厳しさを増す一方で、政治家の財布のひもを締める政治資金規正法改革について、自民党は後ろ向きの姿勢が目立つ。
22日の参院予算委では、同法改正の焦点の1つである「外国人のパーティー券購入禁止」について、日本維新の会の柳ケ瀬裕文氏が「安全保障環境が厳しい」として実施を求めたが、岸田首相は「問題意識は共有する。パーティー券は譲渡されるので、実態把握や規制の実効性の確保を検討しなければならない」と述べ、慎重姿勢を崩さなかった。
政党から議員に支出されて使途公開の必要がない政策活動費について、岸田首相は参院予算委で改めて否定し、企業・団体献金の禁止も拒否した。
荻原氏は「自民党派閥の裏金問題を受けてもなお、政治家は襟を正そうとせず、国民との感覚がかけ離れるばかりだ。外国人によるパーティー券購入問題も、選挙権のない人から献金を受け取るのは論外だと思うが、岸田首相は取りやめも決断できるわけでもない」とあきれ返った。