増加する認知症 暮らしの安心支えたい(2024年5月11日『東京新聞』-「社説」)

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 認知症の人は2025年に全国で471万人、60年には645万人に上るとの推計を政府が公表した=グラフ。超高齢社会を迎えて認知症の人が増えても、それぞれが住み慣れた地域で、安心して暮らせるような社会の仕組みづくりを急がねばならない。
 15年に公表された前回推計に比べて25年、60年ともに認知症の人は約200万人減ったが、今回初めて公表された認知症の前段階に当たる軽度認知障害(MCI)の推計は60年に632万人に上る。MCIと認知症の合計は1300万人に迫り、高齢者のおよそ3人に1人が認知機能に障害がある計算になる。
 認知症の人が前回推計より減少したのは認知症の発症リスクとの関連が指摘される喫煙率の減少や食生活改善、生活習慣病の予防意識の高まりなどが考えられる。
 MCIの人も生活習慣の改善である程度、正常に戻る可能性があるとされる。改善効果を検証・周知して認知症予防に役立てたい。
 長寿化に伴い、高齢者に占める認知症の人の割合は上昇し、1人暮らしの高齢者も増える。こうした高齢者の暮らしを支えるには、介護保険制度の財源と介護人材の確保に知恵を絞り、持続可能なものにするだけでなく、医療をはじめとする幅広い分野での支援が必要となる。
 認知症対策を進めるため、政府は1月に施行された認知症基本法に基づき、対策の目標などを盛り込んだ基本計画を今秋にもまとめる。計画策定にあたっては、本人やその家族の意見も幅広く取り入れて、実効性のある計画を策定せねばならない。
 忘れてはならないのは、健康の維持に努力しても認知症になる人はいることだ。認知症になっても、その人の尊厳を守り、地域で穏やかに暮らせるような環境を整えたい。そのためには認知症に対する国民の理解を深め、「見守り役」の隣人を増やさねばならない。
 地域の支え手となる「認知症サポーター」の養成が全国で1500万人を超えたことは心強い。認知症の人を支える地域社会の輪をさらに広げたい。