開幕まで1年切ったのに、見えぬ大阪・関西万博の「目玉」 好奇心と期待感くすぐるアピールを(2024年4月27日『産経新聞』)

 

産経新聞 THE SANKEI SHIMBUN


2024年4月27日


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内田博文 内田博文

 関西を中心に学習塾や英会話スクールなどを展開するイングの創業者、青木辰二氏が大阪府堺市英会話教室を開いたのは、1970年大阪万博を翌年に控えた昭和44年。集合住宅で受講者募集のチラシをまけば申し込みが相次ぎ、大阪の繁華街・北新地のママに請われて、ナイトクラブの女性スタッフらにも英会話の〝出前授業〟を行ったそうです。以前にインタビューした際、青木氏はこう振り返っていました。

 「当時は『国際化』がいわれ始めたころでね。新地のお店のほうも『万博で外国のお客さんが増えるかも』というので、1人教えたのが2人3人と増えていって…。高度経済成長、そして万博というあのころの雰囲気が、ちょうど日本の国際化のスタートという感じでしたね」

 経済成長や国際化といった世の雰囲気と相まった万博への期待感。70年万博に関わった人々の証言からは、当時のムードが伝わってきます。
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 2025年大阪・関西万博は来年4月13日の開幕まで1年を切りました。産経新聞ニュースでも連日のように万博関連のニュースを報じています。ですが、ワクワクするような期待感や浮き立つような世の雰囲気には程遠く、いまだに機運醸成を叫ぶ声が少なくありません。実際、昨年11月末に販売が始まった前売り入場券も、今年4月10日時点で売れたのは約130万枚と、当初見込みの10分の1以下にとどまっています。
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 一方で日本国際博覧会協会(万博協会)と大阪府大阪市が募集した大阪・関西万博のボランティアには、目標の2万人を超える応募が集まっています。ボランティアに支給されるのは交通費と1日あたり2千円相当の食事代、と報酬としてみた場合の魅力はさほどでもありません。が、期間中に5日以上、1日3~6時間程度活動できればOKという比較的ゆるい応募条件が「せっかくの機会だし、ちょっと関わってみたい」という人の琴線に触れたのかもしれません。
▼万博ボランティア盛況、締め切り前に目標2万人超える応募「せっかくだから関わりたい」

 開催地の大阪・関西とそれ以外の地域では当然、万博に対する温度差もあるでしょう。その中でいまひとつ、盛り上がりを欠く理由を考えると、多くの人が「ちょっと見てみたい、行ってみたい」と思うような万博の〝目玉〟がまだ見えていないからではないでしょうか。万博の「華」と評されるパビリオンは多少の遅れこそあれ、続々と建設が始まり、万博の「シンボル」となる大屋根(リング)も8割近くが完成しています。では「目玉」は何か? 空飛ぶクルマか、それとも人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術を応用した展示でしょうか。問われると正直、答えに窮します。
▼万博の〝華〟パビリオンと〝シンボル〟リング 両立へ奮闘 13日に開幕1年前

 万博の規模は異なりますが、「自然の叡智」がテーマだった2005年愛知万博愛・地球博)では、シベリアの永久凍土から出土した冷凍状態のマンモスを展示する世界でも例がない試みに、連日長蛇の列ができました。20年前に現場記者として担当していた筆者も、体毛や皮膚、筋肉が残るマンモスの展示と聞いて、好奇心をくすぐられた記憶があります。

 ちなみに当時の万博協会がこの「目玉」の展示でロシア側と契約を締結したと公表したのは、開幕の1年2カ月前です。大阪・関西万博もそろそろ「目玉」をアピールし始めるべきではないでしょうか。