「70点でいい」でドン底から復活 巨人のサブマリン高橋礼の心の整え方(2024年4月20日『東京新聞』)
<取材ノート>
左脚を上げ、体をグッとかがめる。地面に向かって伸びた右腕から、独特の軌道の直球や変化球をテンポ良く投じる。2019年のパ・リーグ新人王の高橋礼投手(28)が、ソフトバンクから今季移籍した巨人で復活を遂げつつある。カギになったのは気持ちの余裕。「70点でいい」。常に完璧な球を求めることはやめた。
右下手投げから緩急と高低を操り、打者を手玉に取る。専大からプロ入りして2年目の19年に12勝をマークしたが、21年は1勝に終わり、過去2年間は未勝利。それが今季は7日のDeNA戦で1086日ぶりの白星を挙げるなど、先発3試合で2勝、計19回で1失点と快投を続けている。
勝利から遠ざかった要因を、高橋礼は「常に100%のボールを投げ続けないと駄目だと思っていた」とメンタル面にあったと分析する。完璧を求めるほど制球は乱れ、自滅した。
転機は昨オフ。自主練習で一つのメニューを7割ほどの達成度で切り上げ、次の練習に移った。中途半端でストレスを感じるかと思いきや、かえって気持ちが楽だった。「投球にも当てはめてみよう」。気を張り詰めすぎず、球質やコースにもこだわりすぎない。するとオープン戦は2試合で計1失点、2四球と制球が改善した。先発の3番手をつかんで開幕を迎え「メンタル(を整える)技術が向上している」と自信を深めた。
好投を続けても「満点は目指さない。一生、70点を繰り返す」と欲を出さない。14日の広島戦は三回に1失点で先制を許したが、動じなかった。その裏の攻撃で逆転してもらうと七回まで完璧に封じ、チームの6連勝に貢献した。
苦悩した3年間は「野球だけでなく今後40年、50年と生きていく中で、必要だった」と高橋礼。移籍後に読み始めた漫画に好きなせりふがある。「努力する者が楽しむ者に勝てるワケがない」。完璧を目指して努力しても結果が出ず、野球を好きでなくなった時期もあった。気持ちに余裕ができた今は「この言葉が自分に合っている。野球を楽しめている」と穏やかに笑う。
他球団は必死に対策をする。打ち込まれる日が来たら、マウンドで膝を折るのか。想像できない。「70点の心」で投げるサブマリンはそんな場面でも、心を整え立ち向かうだろう。(渡辺陽太郎)