怒らない男の心得(2024年4月19日『山陽新聞』-「滴一滴」)

銀座のダンディズムどこへ 生誕100年・没後30年 ...

 今月で生誕100年を迎えた岡山市出身の小説家、吉行淳之介さんは、温厚で怒らない男とされていた。実は爆発寸前になることがときどきあるとエッセーに記している

▼そういうときは、ある言葉を思い出すことにしている、とも。「気に入らぬ風もあろうに柳かな」。江戸時代の僧が水墨画に添えたもの。心の平安を保つため、柳のしなやかさを見習おうということか

花薗大学

▼とはいえ、である。新年度が始まって半月余り。環境が変わって仕事が進まず、イライラが募る人もいよう

▼気になるのは新社会人。「昨日退職届出してきた」などの投稿もSNS(交流サイト)にある。就職後3年以内の離職率は大学新卒で3割強。近年は微増傾向だが、踏ん張っている人が多いのも確かだろう

▼感情を表に出さない吉行さんは、時に周りからは、物事を深く考えない「軽薄」な人間と見られたようだ。だが、本人はそれにこだわっていた。「『軽薄』とはむしろユーモア(もしくはウイット)とあっさり考えてもらってもいい」。吉行さんら今年、生誕、没後の節目を迎える地域ゆかりの文学者を紹介している吉備路文学館(岡山市)の特別展で、そうした著書の言葉を知った

▼柳を見習うもよし。軽薄を装うもよし。極端な理不尽に耐える必要はないものの、平安を保つ自分なりの心得は持っていたい。