外信コラム 今も中国に残る「角栄の桜」 日本の桜が過ごした半世紀(2024年4月12日)

 中国にも桜の名所がある。湖北省武漢にある東湖桜花園はその一つだ。3月23日に現地を訪れたが、ソメイヨシノなど1万本超の桜が満開となって多くの市民らでにぎわっていた。

 中国では桜の木が増え、春に花見を楽しむようになった。日本との縁が関係している。武漢の東湖桜花園は、1979年に田中角栄元首相が78本のヤマザクラ周恩来元首相夫人の鄧穎超(とう・えいちょう)氏に寄贈したことを機に整備された。

 「78本」には78年の日中平和友好条約締結を記念し、78歳で亡くなった周恩来氏を追悼する意味があるという。

 地元の人は「桜は武漢の風景の一部だ。日本との縁も知られている」と話した。 北京の玉淵潭公園も桜で有名だ。

 田中元首相が1千本のオオヤマザクラを中国に贈り、その一部の180本が73年に同公園に植えられたという縁がある。気候や土壌が異なる北京で日本の桜が育つのは容易ではなく、今では当時の桜は2本しか残っていないという。

 北京でも桜が満開となった3月末に公園を訪れ、そのうちの1本を見た。枝を支えられた「角栄の桜」はいかにも老木という風情で薄紅色の花を静かに咲かせていた。家族連れらが写真を撮るなど花見を楽しんでいた。日本の桜が中国で過ごした半世紀という歴史の積み重ねを感じた。(産経新聞中国総局特派員三塚聖平「北京春秋」)