チェルシー終売の背景は若者の「タイパ嗜好」 中年層は惜しむ声、頼まれなくてもCMソング歌い出すほど…(2024年3月9日『東京新聞』)

 
 明治が4日、53年の歴史を持つ飴(あめ)「チェルシー」の出荷を月内にやめると明らかにした。2月末で製造を終えており、店頭から在庫がなくなり次第、販売終了となる。CMソングも大ヒットしたロングセラーの突然の終幕に、消費者から惜しむ声が上がり、ネットで高額転売される例も。販売終了の背景に何があるのか。(森本智之)

◆金髪少女が「あなたにもチェルシーあげたい」と…

販売終了が発表された明治「チェルシー」

販売終了が発表された明治「チェルシー

 明治のホームページなどによると、チェルシーは「まるっきり新しいキャンディー」を求め、英北部スコットランドの伝統的なスカッチキャンディーをヒントに開発された。濃厚なバター風味が特徴で1971年に発売。当時の日本では珍しかった、練り合わせた原料をそのまま型に流し込む手法でなめらかな味わいを実現した。商品名はロンドンの地名から取った。故・小林亜星さん作曲の歌をバックに、金髪の少女が「あなたにもチェルシーあげたい」と結ぶCMもはやった。
 「遠足には必ず持って行った思い出の味」「小学校低学年のころはヨーグルトスカッチ味、高学年になるとバタースカッチ味が好みになり、大人になった気がした」「今でも食べている。どうして終了を決める前に売り上げが困っていると言ってくれなかったのか。みんなで買って助けたのに」。本紙編集局内で感想を尋ねると、特に中年層以上は熱烈に販売終了を惜しんだ。50代以上の多くは頼んでもいないのに、CMソングを歌い始めた。
 チェルシー販売終了の知らせが伝わると小売店では売り切れが相次ぎ、フリーマーケットアプリでは150円前後の10個入り1箱が2000円近い値段で売られているケースも。
フリマサイト「メルカリ」では、既に高額でチェルシーが売られ、落札されている(スクリーンショット)

フリマサイト「メルカリ」では、既に高額でチェルシーが売られ、落札されている(スクリーンショット

 明治の広報は販売終了の理由を「市場環境や顧客のニーズの変化で、売り上げが低迷しこれ以上の継続は難しかった。苦渋の決断だった」と説明する。

ハードキャンディー市場は縮小、20年で4割減

 実は、チェルシーなどの飴の市場は縮小傾向にある。調査会社のインテージによると、飴の中でものど飴は堅調だが、それ以外の2020年の国内販売額は357億円(推計)。約20年で4割減少している。
 業界では特に「若者の飴離れ」が指摘されている。15~29歳の若年層で1年に1度でも飴を買った人の割合は、23年の調査で3割弱。10年で2割強も減った。市場アナリストの木地利光氏は「飴は消費するのに時間がかかる。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する若者は、長時間かけて何かを楽しむより、その瞬間、瞬間で物事を楽しむ嗜好(しこう)があり、飴は敬遠されている」と分析する。

◆「長時間同じ味は飽きる」→ グミが人気に

 代わって伸びているのが食感も楽しめ、短時間に食べ終わるグミだ。明治もチェルシーを最後に商品ラインアップから飴が消え、今後はグミや主力のチョコレートへのシフトを強める。
 東京都世田谷区の高校1年女子も「同じ味を食べ続けるのは飽きるし、学校の休憩時間に食べ終われない。チェルシーも好きだけどグミの方がいい」と話した。
 お菓子の魅力を発信する「お菓子勉強家」の松林千宏さんは「発売当時、チェルシーは全てが新しかった。唯一無二の味、お菓子らしくない黒いパッケージデザイン。そしてあのCMソング」と惜しんだ上でこう話す。「お菓子は嗜好品で絶対に必要なものではない。それでも食べてみたいと感じさせる菓子をメーカーは追い続けてきた。チェルシーもその一つだった」
 松林さんによると、飴メーカーのチャレンジは今も続いている。カンロは昨年、味のしない飴を発売。「おはじきをなめているような食感」というが、糖分を控えたい人らにヒット。飴になじみの薄いZ世代と商品開発した飴も発売された。「市場が厳しくても、これからも、まだまだわくわくする飴は出てくると思っています」と期待した。