デジタル社会と電力 AIの「電費」改善が急務(2024年2月14日『毎日新聞』-「社説」)

チャットGPTのような生成AIの登場で、電力需要も増加する拡大
チャットGPTのような生成AIの登場で、電力需要も増加する

 デジタル化の進展でエネルギーの消費量が急増している。IT機器の省エネや電力システムの革新を急がなければならない。

 膨大な情報を処理するデータセンターの電力消費量が、2026年には22年の最大2・3倍になるという。国際エネルギー機関(IEA)が発表した推計だ。日本国内の年間消費量を上回る電力が、世界中のセンターで使われる可能性がある。

 人工知能(AI)の進化や普及の影響が大きい。計算量が多いチャットGPTは、グーグル検索の約10倍の電気を食う。サーバーの処理量が増え、発熱した装置を冷やす電力量も膨らむ。

 車の自動運転が普及すれば、AIの利用はさらに増える。安全保障の観点からデータの国内保存を求める声も強まり、日本でもセンターの新規立地が進む見通しだ。

 地域によっては電力需給の逼迫(ひっぱく)も懸念される。ただ、気候変動への影響を考えれば火力発電所などの増強は妥当とはいえない。

チャットGPTに省エネ対策を聞くと、「一般的な手法」として、効率的なハードウエアの使用などがあると答えた拡大
チャットGPTに省エネ対策を聞くと、「一般的な手法」として、効率的なハードウエアの使用などがあると答えた

 センターの新設にあわせて再生可能エネルギーを整備する動きもある。取り組みを加速させるには、発電量が天候などに左右される弱点を克服することが必要だ。蓄電池などを併用した出力の安定化、送電網の増強など、電力システム全体での対応が欠かせない。

 IT機器の省エネは喫緊の課題だ。演算能力を競ってきた半導体では、エネルギー効率の改善が問われることになるだろう。

 日本には有望な研究成果がある。NTTは、ネットワークで処理する情報を電気信号から光信号に置き換え、消費電力を大幅に減らす技術を開発中だ。情報通信市場を劇的に変えるだけでなく、国際競争力の強化につながる。早期の実用化が期待される。

 電気自動車では、1キロワット時当たりの走行距離を示す「電費」が着目される。デジタルサービスでも省エネ性能に目を向けるべきだ。IT機器やソフトごとに利用時の消費電力を可視化することで、利用者や事業者の意識変革を促すのも一案だろう。

 スマホをタップし、パソコンでクリックするたびにエネルギーが使われる。デジタル時代の構造的な問題に向き合い、環境への負荷を抑える社会を実現すべきだ。