地震と原発 リスク検証し国民論議を(2024年2月12日『熊本日日新聞』-「社説」)

 能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)も大きな揺れに見舞われ、トラブルが多発した。幸い運転停止中ということもあって深刻な事態には至らなかったものの、原発施設の地震に対する脆弱[ぜいじゃく]性が再び浮き彫りとなり、住民避難計画の実効性も問われた。改めて、地震国日本で原発を稼働させるリスクを検証し、エネルギー源についての国民的論議へとつなげる必要がある。
 

想定上回る事態に

 北陸電力によると、志賀原発では1月1日の地震で、1号機地下で震度5強を観測。さらに約3メートルの津波が到達していた。津波による原発への影響はなかったが、地震の揺れの加速度は設計上の想定を一部で上回ったという。また今回の地震で動いた断層全体の長さも、再稼働審査での北陸電の評価規模を超えていた。

 この揺れによって、原発内の複数の変圧器の配管が破損して油が漏れ、外部電源の一部が使えなくなった。この被害については、再稼働を審査する原子力規制委員会の委員からも、「原発内施設の不具合で受電できないことは、想定していなかったのではないか」との声が出ているという。

 また、1月17日には試運転中の非常用ディーゼル発電機の一部が自動停止。施設被害や津波についての北陸電による誤情報発信も相次いだ。

 今回の地震では、土地の隆起のリスクも浮上した。もし原発施設内で能登半島の他地域のように数メートル規模の隆起が発生していたならば、原子炉本体や海から冷却水をくみ入れる配管などに大きな影響を与える可能性もあった。

避難にも課題浮上

 重ねて課題としてクローズアップされたのは、事故が起きた場合の避難路、場所の確保である。

 原子力規制委の指針では、原発から5キロ圏の住民が先に避難し、5~30キロ圏は自宅や避難所に一時退避した後、一定の放射線量まで上がったら避難する「2段階避難」を基本にしている。

 しかし、今回の地震では石川県が志賀原発の重大事故時の避難ルートに定めた国道や県道計11路線のうち、7路線で崩落や亀裂による通行止めが起きていた。

 また、原発周辺9市町の住宅被害は2万件超に及び、屋内退避の実効性も揺らいだ。さらに避難の判断に用いる放射線監視装置(モニタリングポスト)は、石川、富山両県に設置された116カ所のうち最大18カ所が測定不能となっていた。

 他原発の立地地域も含め、地元住民からは「避難計画は機能するのか」との声が上がっている。当然の反応だろう。規制委など関係機関は、その疑問に答えなくてはならない。

丁寧な説明はなく

 岸田首相は1日の衆院本会議で原発再稼働をにらみ、「地元の理解を得られるよう、国が前面に立って原子力の必要性や意義を丁寧に説明していく」と強調した。

 しかし、そもそも政府が昨年、東京電力福島第1原発事故以来の抑制的な原子力政策を転換し、原発回帰を打ち出した際に、その丁寧な説明はあったのか。

 昨年3月に日本世論調査会がまとめた全国世論調査では、原発の60年超運転を可能とすることについて「支持しない」が71%、政府が「十分に説明しているとは思わない」は92%に達していた。今回の地震を経て、その不信感はさらに強まっているのではないか。

 「2030年度の電力の20~22%を原発で供給する」との今のエネルギー基本計画は近く、見直し作業が始まる。政府は、能登半島地震で得られた新たな知見から原発稼働のリスクを改めて提示し、今度こそ丁寧なプロセスのもとで、エネルギー源の選択に国民の意思を反映させるべきだ。